(3)ワーファリン(一般名ワルファリンカリウム) 両薬とも肝薬物代謝酵素チトクロームP450(CYP3A、2C9)で代謝されるため、併用するとワーファリンの代謝が阻害され、ワーファリンの血中濃度が上昇する恐れがある。 カンジダ症は真菌のカンジダ菌(主にCandida albicans)に起因する感染症である。この真菌は皮膚や口腔内に常在しており、健常者では病原性を示さない。
カンジダ症を発症する背景には、免疫の低下が挙げられる。免疫の低下は、糖尿病や後天性免疫不全症候群(AIDS)などの疾患や、抗癌剤やステロイドなどによる免疫抑制が原因となる場合がある。また、これに年齢などの影響が加わり発症に至る。Gさんは基礎疾患に糖尿病があり、高齢であることから、発症のリスクが高いと推察される。
口腔カンジダ症の治療は、口の中を清潔にすることが最優先となる。その上で、抗真菌薬などを用いる。治療に使う抗真菌薬には、Gさんに今回処方されたミコナゾールのゲル剤(フロリードゲル)のほか、アムホテリシンBのシロップ剤(ファンギゾンシロップ)や、イトラコナゾールの内用液剤(イトリゾール内用液)などがある。
フロリードゲルは1993年に発売されたゲル状の経口剤で、口腔内や口角などの部位に局所的に用いやすい。ミコナゾールは、真菌細胞膜の主要構成脂質であるエルゴステロールの合成を阻害することで抗真菌作用を示す。ミコナゾールは血漿蛋白結合率が高い上、消化管から吸収された後、多くは肝初回通過効果による代謝で薬効を失ってしまう。そのため、患部での滞留性が高くなるようゲル状になっている。
服用の際には、すぐに飲み込むのではなくミコナゾールを患部から直接浸透させることが重要となる。服用の手引にも、口の中に満遍なくぬり広げ、できるだけその状態を保持する必要があるとされている。このことから同薬は、接触痛が強い患者には適さない。
ミコナゾールは、チトクロームP450の3Aと2C9による代謝を受けるため、同じ酵素で代謝を受ける薬剤の血中濃度を上昇させる恐れがある。併用禁忌薬にはシンバスタチンをはじめとした8種の薬剤がある。ワルファリンカリウム(ワーファリン他)は、併用注意薬となっている。
ワルファリンとミコナゾールの相互作用については、ワルファリンによる出血傾向の増大やプロトロンビン時間国際標準比(PT-INR)の著しい上昇などが問題となっている。そのため、まずミコナゾールを処方した医師に、他剤との併用について考慮した上で処方したのか確認する必要がある。本薬剤は歯科や耳鼻科などで処方されることが多いため、基礎疾患や併用薬剤の確認が抜けやすい。
次に、ワルファリンを処方した医師にミコナゾールが開始になったことを伝えてPT-INRの測定を行うよう促す必要がある。患者に対しては、次回、ワルファリンを処方した医師を受診する際に、ミコナゾールを服用し始めたことを伝えるよう話をする。
さらに、患者には、出血傾向が高まることを伝え、生活上のアドバイスを行う。カンジダ症の治療は、口腔内を清潔にすることが重要となる。処方医からどのような口腔ケアの指示が出ているか確認し、口腔ケア用のスポンジブラシの使い方などを必要に応じて指導したい。
参考文献 イラスト:加賀 たえこ 今回処方されたフロリードゲルは、血栓症のお薬のワーファリンと一緒に飲むと、ワーファリンの効果が強まることがあります。血が普段よりもさらに止まりにくくなるかもしれませんので、しばらくはいつも以上にけがや打撲に注意してください。歯を磨いたり鼻をかむ時も、歯茎や鼻の粘膜を傷付けないようやさしくしてくださいね。
それから、念のためワーファリンが効きすぎていないか、次にワーファリンを処方した先生を受診した時にチェックしてもらってください。お薬手帳を先生に見せて、口腔カンジダの治療のためにフロリードゲルを使ったことを伝えて指示を仰いでください。
口腔カンジダ症の治療は、薬による治療だけでなく、口の中を清潔に保つことが大切です。そうすることで、治療効果が高まり、再発の予防にもつながりますよ。
出題と解答 : 後藤 洋仁
(横浜市立大学附属病院薬剤部)
1)病院薬学 2000;26:207-11.
2)基礎と臨床 1993;27:195-201.
こんな服薬指導を
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