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漢方のエッセンス
其の九 加味逍遙散
日経DI2012年6月号

2012/06/10

日経ドラッグインフォメーション 2012年6月号 No.176

講師:幸井 俊高
東京大学薬学部および北京中医薬大学卒業、米ジョージ・ワシントン大学経営大学院修了。中医師、薬剤師。2006年に漢方薬局「薬石花房 幸福薬局」を開局。

 加味逍遙散は、更年期障害などに頻用される処方である。医療用エキス剤の効能には、体質虚弱な婦人で、月経不順、更年期障害、血の道症などの症状がある場合と記載されている。

 加味逍遙散と言えば、神経質で訴えの多い女性を連想しがちだが、実際にはもっと応用範囲が広い。文字通り逍遙散の加減方なので、元の逍遙散を知ることで活用の幅を広げたい。

どんな人に効きますか

 加味逍遙散は逍遙散に牡丹皮と山梔子を加味した処方である。

 逍遙散は「肝鬱血虚脾虚(かんうつけっきょひきょ)」証を改善する処方。肝鬱は肝気鬱結を指し、精神情緒や血流、各臓腑をコントロールする肝(かん)の機能が鬱滞し、伸びやかな調整ができない証である。血虚は人体に必要な栄養を意味する血(けつ)が足りない証であり、脾虚は消化吸収をつかさどる脾の機能が弱い証である。3つも証を並べて欲張りなようだが、これらが同時にみられることは多い。例えばストレスで憂鬱になり(肝鬱)、そのせいで胃の調子が悪くなり(脾虚)、頭がボーッとする(血虚)といった具合だ(用語解説1)。

 肝鬱はストレスなどによって自律神経系が失調しやすい証で、憂鬱感、情緒不安定、いらいら、怒りっぽい、胸苦しい、ため息がよく出る、胸脇部が張って苦しい、肩凝り、咳嗽、動悸、腹痛などの症状が表れる。自律神経失調症のほか、心身症、神経症、慢性肝炎、胆嚢炎、膀胱神経症などもみられる。舌はやや赤い。

 血虚になると、頭がボーッとする、ふらつく、目が疲れやすい、手足がしびれる、動悸がする、眠りが浅い、夢をよく見るなどの症候が表れる。肝鬱と重なって肝鬱血虚証になると、頭痛、めまい、さらに口や喉の渇き、手足のほてりなどの熱証も生じやすい。熱証は午後に強まることが多い。また、月経不順や月経痛、無月経、月経前に胸が張る・むくむなどの月経前症候群(PMS)、不妊症、更年期障害、子宮筋腫といった疾患も表れやすい。

 肝気が鬱滞して脾胃に相乗(用語解説2)すると、脾胃の機能が低下して脾虚になる。食欲不振、疲れやすいなどの症状がみられる。気の流れの調和が保てず往来寒熱が生じることもある。

 逍遙散は「肝脾不和(かんぴふわ)」証を改善する処方でもある(用語解説3)。肝と脾が調和せず、ガスの停滞、腹部膨満感、おなかが鳴る、便秘と下痢を繰り返す、すっきり排便しないなどの症状を生じる。神経性胃炎、慢性胃炎、胃・十二指腸潰瘍、肝機能障害、過敏性腸症候群などでみられる。

 加味逍遙散は、逍遙散が用いられる証に加えて熱証がある場合に使う。肝鬱血虚が続くと気鬱が熱を帯びて陰血(用語解説4)が失われ、火邪が勢いづく。「肝鬱化火(肝火)」証である。いらいら、怒りっぽい、のぼせ、多汗、微熱、顔面紅潮、目の充血、湿疹、便秘などの熱証が出る。舌は赤く、舌苔が黄色い。火邪はさらに陰血を消耗するが、脾虚で血の生成が間に合わず、ますます血虚が進み、ふらつきや不眠などの血虚症状が強く出ることもある。応用範囲は逍遙散に準じるが、熱証の強い更年期障害や高血圧などに適す。月経前に悪化するにきびにも使う。逍遙散の出典は『和剤局方』で、加味逍遙散は『内科摘要』など諸説ある(用語解説5) 。

どんな処方ですか

 配合生薬は、逍遙散の柴胡、当帰、芍薬、茯苓、白朮、甘草、生姜、薄荷の八味プラス牡丹皮、山梔子である。別名「丹梔逍遙散」という。

 逍遙散の君薬の柴胡は肝気鬱結を改善する(用語解説6)。臣薬の当帰と芍薬には肝血を補う養血柔肝作用(用語解説7)があり、肝を保護して君薬を助け、肝血を満たして肝陽(用語解説8)の行き過ぎを鎮める。活血作用もあり血流を調える。

 佐薬の白朮・茯苓・甘草は健脾和中(用語解説9)し、肝鬱により抑え込まれた消化吸収機能を高める。失われがちな血の生成も援助する。同じく佐薬の薄荷は肝の鬱熱を発散し、君薬を助ける。生姜も佐薬として気を降ろし和中する。

 甘草は使薬として諸薬の薬性を調和する。柴胡には諸薬の薬効を肝経(用語解説10)に導く使薬としての働きもある。さらに牡丹皮は血中の熱を冷まし、山梔子は肝の熱をさばく。

 柴胡と芍薬の組み合わせは、四逆散と同様、最強の疏肝解鬱コンビ。鎮静・鎮痙・鎮痛効果もある。ここに当帰の補血行気緩急作用が加わり、肝鬱血虚には欠かせない調合となる。当帰と芍薬の養血柔肝作用は月経を安定させる。四物湯にもみられる組み合わせである。健脾の白朮・茯苓は食欲不振や疲労倦怠感、むくみによい。さらに牡丹皮と山梔子の加味により熱証が改善される。以上、加味逍遙散の効能を「疏肝解鬱、養血健脾、清熱涼血」という。

 乾燥性で痒みが強い湿疹、手荒れ、主婦湿疹など血虚が強ければ四物湯を併用する。吐き気、咳など、胃や肺の症状があれば半夏厚朴湯を合わせる。月経前のむくみがひどければ五苓散を併用する。更年期でのぼせやめまいが強ければ女神散を検討する。

こんな患者さんに…(1)

「更年期に差し掛かったようで、のぼせと不眠に悩んでいます」

 45歳になり、月経が少し乱れるようになった。赤い舌をしている。

 肝火証のようなので加味逍遙散を使う。1カ月後、「のぼせと不眠はもう気にならない、肩凝りがする」とのこと。さらに1カ月後、めまいがつらいと言う。証はずっと肝火なので同じ処方を用い、8カ月ほどで全て改善した(用語解説11)。このように訴えが多くコロコロ変わる人に本方を使う機会は多い。

こんな患者さんに…(2)

「便秘症でおなかが張ります。便は硬く、ウサギの糞のようです」

 肝鬱血虚の痙攣性便秘のようなので加味逍遙散を使い、約半年で便秘体質が改善した。

 四物湯を加えてもよい。当帰には潤腸作用がある。老人性便秘には潤腸湯などを使う。大黄甘草湯では腹痛や下痢が生じることもある。上記のような処方で自然に改善させたい。

用語解説

1)消化吸収機能が低下(脾虚)して栄養不良状態(血虚)になり、自律神経系が失調(肝鬱)する場合もある。
2)五臓は五行学説に基づいた人体の捉え方である。五つの臓は相互に作用しながら健康を維持しており、促進する関係を相生(そうせい)、抑制する関係を相克(そうこく)という。抑制し過ぎて健康状態を崩している場合の関係が相乗(そうじょう)である。
3)四逆散も肝脾不和を改善する代表処方である。ただし四逆散では枳実で気を巡らせるのに対し、逍遙散では白朮・茯苓・当帰などで気血を補う。
4)陰血は血のこと。臓腑の機能を伸びやかに発揮させる物質的な基礎。
5)『和剤局方』は12世紀(宗代)に編さんされた中国の国定ともいえる処方集。加味逍遙散は、後の16世紀(明代)に記述がみられる。
6)肝気鬱結を解く作用を疏肝解鬱(そかんげうつ)作用という。柴胡はその代表的な生薬の一つ。
7)養血柔肝で肝の陰血を補うことにより、肝気の柔軟な活動性を守る。情緒や自律神経系をつかさどる肝が伸びやかに機能すれば、憂鬱感やいらいらなどの肝鬱症状が自然と緩和される。
8)肝陽は、情緒や自律神経系など肝の機能面を指す。
9)和中とは、中焦つまり主として消化器系の機能を調整すること。
10)肝経は経絡の一つ。病気に関する経絡に生薬の薬効を引経するのも使薬の務め。
11)異なる症状や病気でも証が同じなら処方は同じでよく、「異病同治」という。ただし処方変更を訴え続ける患者にはそれなりの対応をする柔軟性も必要。

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