「夜勤で寝不足になると、頭痛がひどくて……」。こう言って来院した坂木鉄平さん(仮名、33歳)。
問診すると、月に3回程度ある夜勤の途中に、左の眉間のあたりを中心にズキンズキンと痛み、勤務がつらくなるという。頭痛が起こる前には目の前がちかちかして、文字が読みづらくなるといった前兆もあったことから、片頭痛と診断した。
そこで、私が坂木さんに処方したのは、エルゴタミン酒石酸塩と無水カフェイン、イソプロピルアンチピリンの配合薬であるクリアミン。片頭痛治療薬のイミグラン(一般名スマトリプタンコハク酸塩)と、消化器機能異常治療薬のプリンペラン(メトクロプラミド)も併せて処方した。
クリアミンとイミグランは併用禁忌なので、疑問に思う読者もいるかもしれないが、この2剤は服用時点を変えているのである。
クリアミンは頭痛の前兆時に服用する。このタイミングで飲むことで、血管を収縮させて、血管の拡張による片頭痛発作が起こるのを防ぐ。一方、イミグランは、クリアミンを飲むタイミングを逃したときにのみ、痛み始めてから早めに飲むよう指導した。
こうした治療は、経済的にもリーズナブルである。クリアミンの薬価が1錠12.40円であるのに対し、イミグランは926.90円。患者負担が大幅に違う。
ただし、クリアミンは、イミグランと同様、長期連用による頭痛が問題となることがある。効き目が弱い場合は追加でもう1錠服用してもよいが、1カ月に10回以上は服用しないように伝えた。
なお、プリンペランは消化管の機能を整えて、クリアミンの吸収を促進させるほか、片頭痛を抑える働きもあるので、クリアミンと一緒に服用させている。
初診から3カ月後、坂木さんの片頭痛は前兆期の服用でしっかり抑えられ、夜勤の日も問題なく過ごせている。(談)
小林裕幸氏
Hiroyuki Kobayashi
1990年防衛医科大学校医学教育部卒業。米国カリフォルニア大学家庭医療学レジデント、防衛医科大学校総合臨床部講師を経て、2009年より筑波大学附属病院水戸地域医療教育センター水戸協同病院総合診療科准教授。日本自転車競技連盟のチームドクターも務め、ロンドンオリンピックに同行予定。
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