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薬理のコトバ
ホスホジエステラーゼ
日経DI2012年6月号

2012/06/10

日経ドラッグインフォメーション 2012年6月号 No.176

講師:枝川 義邦
1969年東京都生まれ。98年東京大学大学院薬学系研究科博士課程修了。博士(薬学)、薬剤師。07年に早稲田大学ビジネススクール修了。経営学修士(MBA)。名古屋大学、日本大学、早稲田大学を経て、12年4月より帝京平成大学薬学部教授。専門はミクロ薬理学で、記憶や学習などに関わる神経ネットワーク活動の解明を目指す研究者。著書に『身近なクスリの効くしくみ』(技術評論社、2010)など。愛称はエディ。

 限られた時間内で怪獣をやっつける、ボクらの地球を守る正義のヒーロー。とくれば、やっぱりウルトラマンだ。男子ならばいわずもがな、最近は変身前の“お姿”にときめく女子も多いのだとか。それは置いておいて。ウルトラマンは、どこからかやってきて、相手をやっつけるとジュワッといなくなる。基質が現れたときだけやってきて、仕事を済ませるといなくなるという、生体における分解酵素の振る舞いに似ていないだろうか。

 ウルトラマンのもう一つの特徴は兄弟の多さだが、細胞内酵素のホスホジエステラーゼ(phosphodiesterase:PDE)も、ラインアップの充実ぶりでは引けをとらない。

 PDEは正式には、「環状ヌクレオチドホスホジエステラーゼ」という。環状ヌクレオチドとは、細胞内で情報を伝えるセカンドメッセンジャーの環状アデノシン一リン酸(cAMP)などのこと。cAMPは「細胞の共通通貨」との異名を持つアデノシン三リン酸(ATP)から作られる。ATPは、あらゆる細胞でエネルギーの供給役を担っている。そしてcAMPも、あらゆる細胞において、機能発現のスイッチを入れる役を果たしているのだ。

種類ごとに「守備範囲」の違い

 PDEはこのcAMPや環状グアノシン一リン酸(cGMP)を分解することで、細胞機能の微妙な調節を行っているわけだが、注目すべきはその種類の多さだ。生体内での分布、つまり守備範囲も種類によって異なる。この性質により、PDEを阻害する医薬品にも、種類の豊富さや作用の差異が生まれてくる。今回は、誌面が許す限り、その違いを解説していこう。

 PDEは、対象とする基質や構造の違いにより、大きく11種類のサブタイプに分類される。PDE1~PDE6という前半の6種類は、古典的な手法により、組織から特徴的な酵素活性画分として分離された。それに対してPDE7~PDE11の後半5種類は、遺伝子工学やバイオインフォマティクス(生物情報科学)といった、今を時めく新しい手法を用いることで1993年以降に見いだされた。古参組は既に医薬品の開発ターゲットになっているものが多いが、新参組はこれからの標的分子として期待されている。

 前半のPDE1~PDE6は、その阻害薬が既に実用化されているものも多く、薬物療法との関連が深い。

 PDE1は、まだ前臨床段階ではあるが、脳内の線条体などでドパミン受容体と共存していることから、覚醒剤(メタンフェタミン)の作用との関連が注目されている。

 PDE2は、脳、副腎などを中心に全身に分布している。実験室レベルの話だが、その阻害物質にはネズミの記憶機能改善が認められ、認知症への効果発揮を目指した開発が続いている。またPDE2とPDE5に阻害作用を持つ物質には、癌への効果がある。

 PDE3は主に心臓や平滑筋、血小板に分布している。この阻害薬は実用化されていて、ミルリノン(商品名ミルリーラ他)は強心作用を示すことから急性心不全治療薬として、シロスタゾール(プレタール他)は抗血栓作用、血管拡張作用を持つことから、慢性動脈閉塞症関連の諸症状や脳梗塞の再発抑制の目的で使用されている。

 PDE4は脳や免疫細胞を中心に全身に分布していて、気管支平滑筋におけるキサンチン化合物のターゲットとなる酵素だ。カフェインやテオフィリンといったキサンチン化合物は医薬品として100年以上も使い続けられていて、気管支喘息や慢性閉塞性肺疾患(COPD)への効果が知られているが、これらはPDEを非特異的に阻害する。だが、PDE4特異的な阻害薬は、実はまだ日本では臨床に供されていない。世界でもロフルミラスト1剤のみで、欧州での治験での苦戦を経て、2011年に米国での承認を得た。適応症はCOPDで、重症患者で増悪リスクを軽減することが認められている。

 そしてPDE5。その阻害薬が平滑筋を弛緩させて局所的な血流量を増加させることから、男性性機能障害治療に有効だ。シルデナフィルクエン酸塩(バイアグラ)が99年から、バルデナフィル塩酸塩水和物(レビトラ)が04年から、タダラフィル(シアリス)が07年から国内で上市されている。うち前の2つはPDE5と共にPDE6への阻害作用も強い。PDE6は主に網膜に存在するので、眼に対する副作用が問題となろうか。3剤とも、網膜色素変性症には禁忌となっている。

新参組の機能も徐々に明らかに

 新参組のPDE7~PDE11だが、PDE7、PDE10、PDE11でノックアウトマウスが作製されていて、病態との関連が明らかになりつつある。PDE7は免疫機能との関連が深く、T細胞の増殖促進作用を持つ。PDE10には、神経細胞のN-メチル-D-アスパラギン酸(NMDA)受容体に関連したシグナルを制御する作用がある。そして、PDE11には遺伝子レベルで4つのバリエーションが知られ、それぞれが異なる組織で発現していることから、特異的な機能の探索が注視されている。今後、これらの研究からブロックバスター(従来の治療薬を一掃するような大型新薬)が生まれるかもしれない。

 ここまでだだだっと駆け足で見てきたが、読者の皆さんもウルトラマンの戦いのように3分でお読みいただけたであろうか。ところで、地球にやってきたウルトラ兄弟を数えると、なんと11人なんだとか。これほどの類似、とても偶然では済まされない?

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