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薬歴添削教室
狭心症のあるニコチン依存症患者へのケア
日経DI2012年6月号

2012/06/10

日経ドラッグインフォメーション 2012年6月号 No.176

 今回は、やまぐち薬局関城店に来局した53歳男性、谷口博之さん(仮名)の薬歴をオーディットしました。谷口さんは、禁煙を決意して近隣の内科診療所を受診し、ニコチン依存症として12週間の禁煙プログラムを開始することになりました。谷口さんには狭心症という合併症があることを念頭に置きつつ、どのような支援を行っていくかに着目して、オーディットを読み進めてほしいと思います。

 本文は、会話形式で構成しています。薬歴作成を担当したのが薬剤師AとB、症例検討会での発言者が薬剤師C~Fです。(収録は2012年3月)

講師 早川 達
北海道薬科大学薬物治療学分野教授。POS(Problem Oriented System)に基づく薬歴管理の第一人者。著書に『POS薬歴がすぐ書ける「薬歴スキルアップ」虎の巻』基本疾患篇、慢性疾患篇、専門疾患篇など。

今回の薬局
やまぐち薬局関城店(茨城県筑西市)

 やまぐち薬局関城店は、同店を含め茨城県に2店舗の薬局を展開するやまぐち薬局が、1992年5月に開局した。応需している処方箋は月1200枚ほど。主に近隣にある内科・小児科診療所のほか、3病院からの処方箋を受けている。診療科としては、内科、外科、整形外科からの処方箋が多い。

 同薬局の薬剤師は、常勤4人、パート2人。薬歴は手書きで、DAR形式で記載している。薬歴を記載する際には、患者の安心・安全を確保することをモットーに、服薬上の疑問や問題点を積極的に把握し解決するようにしている。具体的には、薬の服用による体調変化の早期発見、服薬コンプライアンスの確認と低下要因の究明、患者に適した用法や剤形の提案─などを心掛けている。

薬歴部分は、PDFでご覧ください。

早川 まず薬歴の表書き(薬歴(1))から見ていきましょう。初回のアンケートで得られた情報がここに記載されています。「ない」にチェックが付いている箇所は、確認済みということでよろしいですね。

B はい、そうです。

早川 表書きのメモ欄を、プロブレムリストとして有効活用している点は良いと思います。12月16日の初回来局時に、ニコチン依存症と狭心症という情報が得られました。12月29日には逆流性食道炎と高尿酸血症が判明し、きちんとリストアップされています。副作用歴やアレルギー歴といった他の情報についても、聞き取ったり変更したりした日時を記録しておくと、さらに良いでしょう。

 では、12月16日の薬歴を見ていきます。「狭心症の既往歴あり」と書かれています(薬歴(2))。これは、現在も続いている合併症か、過去に経験した既往症か、どちらでしょうか。

B アンケートには「以前、狭心症と言われたことがある」と書いてありました。

早川 薬は飲んでいないのですか。

A 前は飲んでいたけれど、今は飲んでいないということでした。

早川 新たな情報です。それを含めて、どのような患者像が考えられますか。

F 既往歴があるのに薬を飲んでいないということですが、医師が治療の必要性がなくなったと判断したのか、自己判断で服薬を中止してしまったのかが分かりません。

早川 それによって、その後の対応が分かれますね。

A 補足ですが、初回に問診した際、「(今回の処方箋発行元に)薬を持っていって、医師に見せた」とおっしゃっていました。薬の種類や服用期間、中止理由までは聞けませんでした。

早川 そうすると、もともと別の病院で狭心症を診てもらっており、何らかの理由で病院や薬局を替えた可能性がありますね。では、ノルバスク(一般名アムロジピンベシル酸塩)の処方意図はどのように考えますか。

A 血圧が高かったのかなと思い、血圧値を聞いて薬歴にメモしています。

B ただ、血圧は正常でした。ノルバスクは狭心症にも適応があるので、患者さんには、「狭心症にも使われますね」というお話はしています。

早川 初回にもう一歩踏み込んで聞き出すことができたかもしれません。他院で処方された薬を医師に見せた結果、ノルバスクが処方されたという見方もあります。その辺りは、12月29日の薬歴にある「ノルバスクは狭心症に対して」というコメントにつながります(薬歴(5))。

 初回の薬歴を振り返っただけで、多くの情報が得られました。患者さんが口にした言葉を、もっと薬歴に残しておくといいと思います。

狭心症の経過を正しく把握しよう

早川 さて、狭心症が既往歴か現病歴かを鑑別するためには、どのような切り口で対応しますか。

C 胸が苦しいなどの自覚症状があるかどうかを聞きます。

A ノルバスクが処方された際、医師からどのように説明されているか。この医師は通常、初診時には薬を出さず、しっかり検査してから治療を始めます。

早川 色々なアプローチがあると思います。胸が苦しいという症状が、いつ、どんな時に起こったかを聞くだけでも、狭心症の病型をある程度鑑別できるでしょう。初回に全て聞かなければならないわけではありませんが、これらは今後、患者の治療管理をする上での重要な基礎情報になります。

A 普段たばこを何本くらい吸っていたのかについても聞いておきたいです。呼気一酸化炭素濃度(CO)が8ppmという値は、それほど高くありません。

早川 一般的に、喫煙する人のCOはどれくらいですか。

A 1日1箱吸う人で20ppmくらいです。この患者は禁煙治療のために病院を受診する前に、たばこを減らす努力をしていて、そのストレスが狭心症を誘発したのかもしれないと考えました。

早川 非常に良いアセスメントですね。狭心症を持つ患者なので、禁煙支援の際も、予後をある程度評価する必要があります。狭心症や虚血性心疾患の危険因子は多数ありますが、その一つが喫煙です。その他はどうでしょう。

A 肥満、糖尿病、高血圧。

早川 脂質異常症や年齢、先ほど挙がったストレスも危険因子に含まれます。この患者の場合、年齢と喫煙が既に当てはまりますが、ノルバスクの処方意図が高血圧か狭心症かについても、できるだけ早く見極める必要があります。肥満の有無はいかがでしたか。

A 体形は普通でしたが、体重については聞いていません。仕事柄、ストレスが多いとおっしゃっていました。

早川 飲酒も冠危険因子の一つですね。表書きの「嗜好品」で、「酒」にチェックが入っていますが、量も把握できていますか。

A 量や頻度までは把握していません。

早川 これらの危険因子の有無については、できるだけ初期に把握しておくようにしましょう。初回から立ち入ったことを聞けなくても、普通体形という印象や、COが8ppmという値から考えたことを、As(薬剤師の評価)のところに残しておくとよいと思います。

 さて、初回はチャンピックス(バレニクリン酒石酸塩)も処方されています(薬歴(3))。服用方法を確認したり、問診で聞き取った「運転する」という情報も生かした上でしっかり指導されています。では、チャンピックスを始めた患者に対して、2回目以降はどのようなことをモニタリングしていけばよいでしょうか。

C 服薬状況を確認します。

D 副作用が出ていないかどうか。

早川 具体的には。

D 眠気やイライラ感。

E 血管浮腫の症状がないかどうか。

A 胃腸障害の頻度が比較的高いので、コップ1杯程度の水で服用するよう指導していますが、それが守られているかどうか、また、運転していないことも改めて確認したいと思います。

C ノルバスクを服用中で、さらにチャンピックスの副作用として高血圧があるので、血圧の変化を確認します。

D 服用開始から2週間たって、たばこを吸いたい気持ちがどう変化したか。

早川 色々なモニタリング項目が出てきました。胃腸障害やイライラ感などについては、チャンピックスの副作用と、禁煙に伴う変化のどちらであるか、常に念頭に置くことも必要です。

薬物療法の適切性をチェック

早川 12月20日の薬歴を見てみましょう。「胸痛」という言葉が出てきました(薬歴(4))。チャンピックスの副作用と狭心症の再発を考慮した上で、パリエット(ラベプラゾールナトリウム)が開始されたことから、心疾患に起因する可能性は低いとアセスメントしています。

A 胸が痛いとおっしゃったので、非常に驚きました。副作用よりも狭心症の症状の方が不安でしたが、医師が心電図検査などをきちんと実施した後でパリエットを処方されたことから、そう判断しました。

早川 素晴らしいと思います。ここは、担当した薬剤師によってアセスメントが異なってもいいと思います。その時点の薬剤師の判断を記載することが重要ですから、ぜひ続けてください。ホルター心電図の結果はどうでしたか。

A 患者さんと良好な関係を築けるようになった後、翌年1月23日にようやく声掛けができました。

早川 そうすると、「ホルター心電図の結果を聞き取る」ことを、次に引き次ぐプランとしてOp(観察計画)に入れておくとよいでしょう。

 続いて12月29日。2日前から胸の痛みは消失したということです。医師からの説明を受けたようですね。ノルバスクの処方意図についても、狭心症であると確認できたのですか(薬歴(5))。

A 診断名を聞いたわけではないので、正確には分かりません。推測です。

早川 それならば、「ノルバスクは狭心症に対して」というコメントはD(データ)ではなくAs(薬剤師の評価)に書いた方がよいでしょう。

 胸の痛みが胃に起因するとのことから、ガスロンN(イルソグラジンマレイン酸塩)が追加されました。ザイロリック(アロプリノール)も出ています(薬歴(6))。

A ザイロリックが追加されたので尿酸値を聞いたところ、8.3mg/dLであるとすぐに答えてくれました。

早川 ここで、尿酸値8.3mg/dLの患者にザイロリックが処方された妥当性を評価してみましょう(薬歴(7))。どのようなことを念頭に置きますか。

A 尿酸値が高いから処方されたという程度しか考えていませんでした。

早川 この医師はきちんと診断して治療方針を立てる方のようですので、問題にならないかもしれません。ただ、医師が全ての診療科に精通しているとは限りません。私たち薬剤師は、その薬物療法が適切かどうかをチェックする目を持つ必要があるのです。

 一般的な治療法を確認する際、分かりやすいのは診療ガイドラインでしょう。『高尿酸血症・痛風の治療ガイドライン』には、尿酸降下薬の開始の目安となる基準値が書かれています。それによると、高尿酸血症の定義は尿酸値7.0mg/dL以上ですが、薬物治療開始基準は、患者背景によって段階的に分かれます。尿酸値が8.0以上9.0mg/dL未満の場合、どのような合併症を持つ患者では薬物治療の適応となりますか。

B 腎障害、尿路結石、高血圧、虚血性心疾患、耐糖能異常などです。

早川 そうですね。本症例は尿酸値8.3mg/dLで合併症があることから、薬物療法を開始したタイミングは「適切」と判断できます。高血圧の診断の有無を確認しておくことは、ここでも必要になってくることが分かります。痛風発作の有無についても、比較的容易に聞けたのではないでしょうか。

 そうすると、高尿酸血症についても、薬剤師としての治療管理方針が見えてきませんか。

A 普段の飲酒量と、体重を確認する。

E 食事や運動の習慣についても押さえておきたい。急に尿酸値が上昇したのか、以前から指摘されていたのかも気になります。

早川 治療や病気に対してどの程度関心を持っているのかは、療養指導を行っていく上でまず確認しておきたいところですね。

 続いて1月10日の薬歴を見ると、新たに睡眠の話が出てきています。

A チャンピックスの副作用に不眠や悪夢があるので、「眠りの方はどうですか」と聞いたところ、「ちょっと眠りづらい」という答えが返ってきました(薬歴(8))。もし続くようであれば医師に相談するよう伝えました。

早川 副作用の可能性を念頭に置いてアセスメントしたのですね。次の1月23日はどうでしたか。

A 不眠に関する本人の訴えはありませんでした。

早川 不眠がプロブレムとして挙がっているので、表書きのメモ欄にも日付を添えて転記しておくとよいでしょう。

 ところで1月23日の薬歴には、血圧値が2通り記されていますが…(薬歴(9))。

A 枠外は診療所で測定した血圧、Dは家庭血圧です。

早川 となると、やはり高血圧と診断されていると考えられます。治療に対する意欲が、自宅で血圧を測定するという行動に表れているからです。ただ、家庭血圧に比べて診察室血圧が30も高いですが、なぜでしょうか。

A 家庭血圧の測定が食事前か食事後か確認しなければなりません。2月6日には110/80と下がっているので、何らかの努力をしたのかもしれません。

早川 2月6日には、パリエットも減量されていますね。

A 患者さんはすっきりした表情で、食欲が出て体重も増えたとおっしゃっていました。

患者にねぎらいの気持ちを示す

早川 ここで、禁煙治療における服薬支援の基本的な流れを、時系列を追って振り返ってみましょう(薬歴(10))。

 まず、治療開始時には、服用方法やスケジュールを確認しました。そのほか開始時に押さえておくべきことはありませんか。

E チャンピックスは、精神疾患のある患者には禁忌です。併用薬だけでなく精神疾患の有無も確認すべきです。

早川 アンケートには「ない」と書かれていても、よくよく聞くと「ある」ということはままあります。ピンポイントで聞く必要がありますね。

A 最初に、禁煙を決意したきっかけについて聞くべきでした。

C 市販薬を含めて、これまで禁煙補助薬を使ったことがあるかどうか。

E 保険適用の有無も確認する必要があります。過去に保険診療で禁煙治療を受けたことがあると、場合によっては保険適用されないことがあるので。

早川 治療の中盤ではどんなことを確認しますか。

F 禁煙への意欲がどう変化しているか。開始時に比べて意欲が減った場合、禁煙に対して不安があったり、効果を期待していないのかもしれません。

早川 4~8週目に禁煙の効果を確かめるためには、何を指標にしますか。

A 食欲の変化。この患者さんでは、2月6日の時点でようやく聞き取ることができました。肌のつやも次第に良くなったように思います。

早川 6週目以降は、効果を確認するとともに、具体的な問題に対して対応していきましょう。例えば、食欲が出て体重が増えたことに対して、どんなアドバイスをしますか。

C プリン体を多く含むビールを避けるよう指導します。

D 奥様と一緒にウオーキングを始めるよう勧めてみる。

A 主食が多くなったのか、禁煙によって口寂しくなって間食が増えたのかを確認する。間食が増えたならば、低カロリーの食べ物を薦めます。

早川 患者の不安や問題点を聞き出すだけでなく、それに対する具体的な対応法を提案することが重要ですね。

 10週ごろからは、禁煙治療が終わった後の注意点を伝えます。12週目の薬歴を見ながら確認していきましょう。「45人目の卒業生」と書いてあるのはどういう意味ですか(薬歴(11))。

A この診療所では、禁煙プログラムを終えた患者さんを“卒業生”として表彰しているそうです。いつも付き添っていた奥様には、頭が下がる思いでした。

早川 「お疲れさまです」というねぎらいの姿勢はいいですね。今後は狭心症、高血圧、高尿酸血症といった基礎疾患の管理が中心になります。予後を改善するための服薬支援に焦点を移し、継続的に対応していきましょう。

やまぐち薬局関城店でのオーディットの様子。

参加者の感想

中村 貴美子氏

 これまで日常業務の中で、何かにポイントを当てて振り返る機会は少なかったのですが、今日はチャンピックスや基礎疾患である狭心症に焦点を当てて議論でき、勉強になりました。今後は私たち薬剤師が患者さんと認識や問題点を共有し、良きパートナーとして治療や支援を進めていきたいと思います。

山口 克子氏

 薬歴を時系列で追っていくことで、観察したりアウトプットしたりするタイミングや、場面に応じた対応法を学ぶことができました。また、患者さんとのコミュニケーションにおいては、何気ない一言の中に重要な情報が隠れていることがあると改めて気づきました。

全体を通して

早川 達氏

 狭心症を持つ患者の禁煙プログラムを、12週にわたって追ってきました。各ポイントを掘り下げていく中で、様々な支援ができることと、そのために押さえておくべき情報が明らかとなりました。薬歴には書かれていませんでしたが、実際には情報を入手していた点もたくさんありました。オーディットでは非常に活発に発言していただき、幅広い視点が明らかになったと思います。

 薬の面からだけではなく、日常生活も含めて患者の全体像をしっかりと把握し、薬剤師としての対応法や確認すべき事項を論理的に組み立てていくことが、真の意味でのケアにつながります。近年の診療報酬上の評価の流れを見ても、将来的には「病名や検査値が分からないから」という言い逃れは通用しなくなるでしょう。限られた時間の中で、少しでも論理的にケアを実践していく思考回路はますます重要になると思いますし、そのような薬局が地域の患者さんに評価されるようになるのは間違いありません。今日のオーディットをきっかけに、より良い薬局の形を作っていただければと思います。

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