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CaseStudy
かもめ薬局 平塚店 (神奈川県平塚市)
日経DI2012年6月号

2012/06/10

日経ドラッグインフォメーション 2012年6月号 No.176

 かもめ薬局平塚店は、JR平塚駅から車で15分ほどの住宅地の一角に位置する。近隣にある医療機関は、消化器内科などを標榜する診療所1軒のみだ。開局当初こそ同薬局は、この診療所の受診患者への対応を主な業務とし、訪問指導も診療所が受け持つ在宅患者だけに実施していた。ところが予想外に地域に在宅患者が多く、次第にケアマネジャーなどからの依頼が増え、現在では160~200人の在宅患者を担当するまでに至った。およそ6割が施設入居者、4割が自宅での療養患者だ。地域の要望に合わせて在宅業務を拡大させてきた同薬局にとって、大きな武器となったのが「P-Pass」という訪問支援ソフトを入れたiPadの導入だ(写真1)。

iPadで訪問支援ソフト「P-Pass」を立ち上げると、薬局に戻らなくても、次の訪問先への移動の合間などに居宅療養管理指導報告書を作成できる。(P-Passの問い合わせ先:高園産業)。
写真:室川 イサオ(訪問写真および写真2を除く)

写真1 P-Passで作成した居宅療養管理指導報告書

患者情報などはサーバーから読み込めるため入力は不要。薬の保管状況や副作用、他科受診などAの項目は、選択肢を選ぶだけで情報を入力できる。Bの項目のみ薬剤師が入力すればよく、報告書を効率良く作成できる(表を参照)。過去の報告書もサーバーを通じて随時閲覧できる。

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 かもめ薬局平塚店で訪問指導を主に担当する森雅哉氏は、「iPadを持ち歩くようになってから、出先の駐車場などで医師への報告書を書けるようになり、書類作成の時間が大幅に減った」と話す。iPadを起動すると、P-Passで居宅療養管理指導報告書の作成画面をすぐに開くことができ、内容を入力して印刷するだけで報告書を作成できる。以前は、訪問先で指導内容をいったんメモし、薬局に帰ってからパソコンを起動して報告書を作成していた。こうした時間を大きく短縮できた。

訪問指導を主に担当している、かもめ薬局平塚店の森雅哉氏は「薬局で他の薬剤師が調剤を担ってくれるからこそ、訪問指導の時間を捻出できる。在宅業務を推進できるのは薬局内のチームワークのおかげ」と話す。

きめ細かな疼痛管理を実施

 このようなデスクワークの効率化を進める一方で、在宅患者のケアには惜しみなく労をつぎ込み、質の高い訪問指導を実施している。医師に提出した居宅療養管理指導報告書から、その一端を見てみよう。

 下の表は、森氏が担当している60代男性患者Aさんの居宅療養管理指導報告書から、「患者からの訴え・要望等」「指導・伝達・報告事項等」「処方内容変更」「処方内容」を抜粋したものだ。Aさんは末期大腸癌を患い、人工肛門を造設している。Aさんには癌による強い痛みがあり、いかに薬の種類や用量を調整して痛みに対応するかが重要な課題だ。さらに、Aさんは人工肛門を造設しているので、オピオイド鎮痛薬で起こりやすい便秘の副作用を最小限に抑えて排便コントロールを良好に保たなくてはならない。

表 末期癌のため自宅で療養している60代男性Aさんの居宅療養管理指導報告書(抜粋)

人工肛門を造設していて、癌性疼痛がある。ここには報告書のうち、訪問日の「患者からの訴え・要望等」「指導・伝達・報告事項等」「処方内容変更」の3項目と、当日の「処方内容」を抜粋して示した。

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 3月12日の報告書(1)は、1日前からひどい痛みが生じ、森氏が臨時訪問したときのものだ。それまでは痛みに対して弱オピオイド鎮痛薬のトラマール(一般名トラマドール塩酸塩)を使用し、激しい下痢症状を改善するために処方されたアヘンチンキ(アヘン末)でも痛みを抑えられていた。

 しかし、前日から強い痛みが出たため、強オピオイド鎮痛薬のオキノーム散(オキシコドン塩酸塩水和物)とオキシコンチン(オキシコドン塩酸塩水和物徐放剤)が新たに処方された(2)。癌性疼痛がある程度まで強くなって以降は、ベースラインの鎮痛薬として持続性製剤を定時服用してもらいつつ、突出痛には速効性製剤をレスキューで投与して対応するのが基本だ。

 森氏は、訪問してすぐにAさんにオキノームを服用してもらい、20分後、鎮痛効果が現れたことを確かめ、医師にも電話で効果があったことを伝えてから退出した。報告書には、オキシコンチンの服用時点や、痛みや鎮痛薬の効果の記録など、指導した内容を記載して処方医に提出した。

 3月17日には、ベースラインの鎮痛薬がオキシコンチンから、便秘の副作用がより少ないデュロテップMTパッチ(フェンタニル貼付剤)4.2mgに変更となった(3)。その後は疼痛と排便の良好なコントロールが得られていたが、4月16日に、デュロテップMT4.2mgを貼付しているにもかかわらず、Aさんが激しい痛みを訴えたため、森氏が臨時訪問した。

 痛みが強いので、午前中にAさんは医師に電話で相談。4.2mgをもう1枚追加貼付するよう指示を受けていた(4)。森氏は、その2時間後に訪問。医師と相談の上、古いデュロテップMTを剥がして新たに2.1mgを貼付してもらい、以降はデュロテップMT6.3mgで痛みをコントロールすることとした。

必要に応じて処方変更を提案

 4月24日時点で、デュロテップMTは8.4mgまで増量している(5)。報告書には、3日に1回の貼り替え日を明記し、さらにデュロテップMTの残薬が1枚あることを記した。オキノーム散の残薬数も記載。森氏は、「在宅医療、特に癌の疼痛管理では、医師が次回処方するときの参考となるよう、鎮痛薬の残薬数や貼り替え日を報告書にしっかり記入することが大切だ」と語る。

 5月2日の訪問時に、Aさんは「腹部痛が強くなっている」と訴えた(6)。突出痛に対応するオキノームを1日6回服用したり、服用間隔が1時間くらいのときもあると言う。

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 それを聞いた森氏はすぐ医師に電話し、レスキューで用いるオキノームを倍量に増やして1回20mgとするよう提案した。ベースラインのデュロテップMT8.4mgは、モルヒネ経口量に換算すると135~224mg/日、オキシコドン経口換算量は90~149mg/日となる。一般にレスキューに用いる鎮痛薬の1回量はベースの鎮痛薬の6分の1程度なので、速効性オキシコドンのオキノームを1回20mgとするのは妥当だと森氏は医師に説明した。

 この提案は受け入れられ、オキノームは1回に20mg服用となった。癌患者の疼痛管理では、刻々と変化する患者の状態に合わせて薬剤師が処方変更の提案をすることも必要になる。

チームワークで在宅を推進

 個々の患者の状態に合わせて、薬がきちんと管理できるよう工夫を凝らすのも、薬剤師の大切な役割だ。写真2の(1)~(3)は、患者宅での薬の保管状況を撮影したもの。こうした保管法の個別対応に加え、調剤自体も、在宅患者では来局患者よりもきめ細かな対応が求められる。

写真2 在宅患者の服薬管理の工夫例(提供:森氏)

(1)お薬カレンダーや薬剤情報提供文書、薬剤師の連絡先などは、誰もがすぐに保管場所が分かるよう1カ所にまとめて壁に張っている。(2)外用薬がたくさんあって整理できなかった患者には、外用薬の管理箱を用意した。(3)片麻痺がありお薬カレンダーでの管理が不向きな患者には、手製の薬の管理箱を作製した。

 例えば、在宅患者ではほぼ全員一包化が必要で、一人ひとりの薬の服用日を把握した上で分包紙に日付を入れなくてはならない。一包化せずシートで渡す薬の要望は、施設や患者によって異なる。自宅で過ごす末期癌患者が増え、担当するケースが多くなってきたので、麻薬の取扱量も増えてきた。

 かもめ薬局平塚店には4人の薬剤師が常勤している。森氏が訪問指導の専任で、在宅患者の処方箋調剤を主に行っているのは残り3人の薬剤師だ。管理薬剤師の小島達朗氏は、「森さん以外の薬剤師は、実際には会ったことのない在宅患者の調剤を行っているが、負担に感じたことはない。在宅患者さんの状況は調剤のときに森さんが教えてくれるし、在宅患者さんでも来局患者さんでも、一人ひとりの要望に合わせた調剤を行うことで、患者さんが楽に薬を飲めるようになってくれれば、それが一番うれしい」と語る。薬剤師たちが業務を分担し、協力し合っているのが、同薬局がここまで在宅業務を拡大できた秘訣だろう。

かもめ薬局平塚店の小島達朗氏は「在宅患者の処方箋調剤は、施設によって一包化の表示法が微妙に違うなど、手間が掛かる。それでも患者や介護者が混乱しないようきめ細かに対応している」と話す。

(土田 絢子)

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