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新設薬学部の存在意義はどこにある
日経DI2012年6月号

2012/06/10

日経ドラッグインフォメーション 2012年6月号 No.176

 2012年の薬剤師国家試験の結果が発表された。6年制薬学部になって初めての国家試験として注目されていたが、6年制卒業生の合格率は95%と高かった。さらに、新卒薬剤師の供給が2年間ストップしていたことから、就職状況もすこぶる良好だったようだ。こうして6年制薬学部の1期生は幸先のよいスタートを切ることができたが、薬学部(薬科大学含む)の前途は、決して楽観できるものではない。

 一昔前まで、薬学部に入るのは結構難しいはずだった。だが03年に始まった新設校ブームにより定員が増えたところに、2年間余計に学費がかかることに加え不況といった社会状況の変化を受け、志願者は激減した。この状況は現在も変わらず、薬学部の人気低落傾向に回復の兆しはない。

 特に新設校の中には、「名前さえ書ければ合格する」と言われるところもあるほどだ。実際、大手の大学予備校の分析では偏差値が35の薬学部だとか、不合格者が少なく合格できる偏差値のボーダーラインが決められないといった薬学部もあるという。恒常的な定員割れのため、一部の大学では国から入学定員の見直しといった自主改善を求められている。

 そもそもなぜ薬学部の新設ラッシュが起きたのかといえば、規制緩和とともに、空前の薬剤師不足の中で就職先に困らない薬学部人気に大学が目を付けたからに他ならない。今、これを読んでいる薬剤師の方は圧倒的に老舗校の出身者が多いはずなので、「単なるブームで薬学部を作っちゃって……」くらいの冷ややかな目で見ているかもしれない。だが当初は、硬直化した教育体制に新設校が新風を吹き込むのではという期待があったことも事実だ。

 新設校は単科大学が少なく、ほとんどが複数の学部を持つ総合大学である。他が医療系の学部でなくても、生活環境が大きく異なるであろう他学部の学生との交流は、高いコミュニケーション能力を備えた薬剤師の素地を作るのに役立つはずだ。

 さらに新設校なら、全く新しい教育システムやカリキュラムも作りやすいだろう。最近、東京大学が欧米に合わせて秋入学実現に向け一歩踏み出したが、このような大胆な改革が、今の薬学教育には求められている。

 出口が国家試験と決まっている上、文部科学省の基準や日本薬剤師会が提唱している薬学教育モデル・コアカリキュラムもあるので、実際の改革の範囲は限られるのかもしれない。それでも生き残りがかかっている以上、各大学が特色づくりに取り組まざるを得ない。

 例えば、世界各国からの留学生の受け入れをもっと積極的に考えてもいいのではないだろうか。立地が首都圏から遠くても、安い生活費や治安の良さを考え、地方を選択する留学生はいるはずだ。実際に他の学部や高校では、われわれが考えているより留学生への対応がずっと進んでいる。国家試験や就職での不利さ、学費負担などを考えると、日本の薬学部に魅力は少ないのかもしれないが、門戸を開くことは悪いことではない。

 医療人として質の高い人材を育成するというのは、「医療(薬)ヲタク」を育成することではない。老舗の薬学部は、ともすればそちらの傾向が強かった。ところが現在では、現場で薬剤師が患者とコミュニケーションを取る場面が急速に増えており、その重要性も日に日に増している。

 このような現場での新しいニーズに対応するために、新設校は既存のシステムにとらわれずに、幅広い視野に立った新しい教育モデルを提案してほしいのだ。それができないところは、本当に淘汰されてしまっても仕方ないとは、言い過ぎだろうか。(少彦名)

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