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薬歴添削教室
チェックシートを用いた糖尿病患者の服薬支援
日経DI2012年5月号

2012/05/10

日経ドラッグインフォメーション 2012年5月号 No.175

 今回は、のぞみ薬局須田町店に来局した48歳の男性、小山浩典さん(仮名)の薬歴をオーディットしました。小山さんは糖尿病と診断され、初めて薬を飲むことになりました。

 のぞみ薬局では糖尿病の患者に対して、糖尿病薬管理指導チェックシートを用いて検査値などを継続的に把握し、指導に役立てています。初来局から2011年1月までの3カ月間は、知っておきたい患者の情報のリストアップを行い、チェックシートでモニタリングを開始した1月以降は、患者のアセスメントとケア方針の確定、さらに具体的な服薬指導を中心にディスカッションをしました。

 本文は、会話形式で構成しています。薬歴作成を担当したのが薬剤師A~C、症例検討会での発言者が薬剤師D~Fです。
(収録は2012年1月)

講師 早川 達
北海道薬科大学薬物治療学分野教授。POS(Problem Oriented System)に基づく薬歴管理の第一人者。著書に『POS薬歴がすぐ書ける「薬歴スキルアップ」虎の巻』基本疾患篇、慢性疾患篇、専門疾患篇など。

今回の薬局
のぞみ薬局須田町店(東京都千代田区)

 のぞみ薬局須田町店は、全国的に薬局を展開する株式会社ファーコスが、1998年12月に開設した。応需している処方箋は1カ月当たり1000枚程度。近隣にある病院からの内科、皮膚科の処方箋が比較的多いが、他のクリニックや病院からの処方箋も受けている。

 同薬局には、20代2人、30代2人のの薬剤師が勤務している。

 薬歴はSOAP形式で、手書きで記載している。薬歴の記載に当たっては、どの薬剤師が見ても内容が理解できるようにすることや、その日に担当した薬剤師が評価をした上で次につなげるようにすることを心掛けている。また、ハイリスク薬が処方されている患者に対しては、薬効分類ごとに作成したチェックシートを活用している。

薬歴部分は、PDFでご覧ください。

早川 まず、小山さんの個人データファイル(薬歴(1))から見ていきましょう。個人データファイルは、薬歴の表書き部分に相当するものです。

 初回記入日は2010年11月4日とあります。これは初来局の日ですね。アレルギー歴、副作用歴などが順に書かれています。これらは11月4日に記入したのですか。

A はい、そうです。

早川 初回来局日にこれだけの情報が取れている点は素晴らしいと思います。皆さん、この個人データファイルで着目したい点を挙げてください。

D 食事が1日2回となっており、朝食が抜けています。 

B 喫煙。1日15本とあるので、けっこう吸っている印象です。

A 飲酒も気になります。

E 体重が記載されていませんが、知っておきたいです。

早川 皆さんは薬歴から既に、この患者が糖尿病であることを知っています。糖尿病の患者であれば、当然、体重を知っておきたいという意味ですね。

E はい。

早川 食事、喫煙、飲酒あたりが気になるということですね。分かりました。

 では、11月4日、11月22日、さらに12月2日の薬歴を一緒に見ていきましょう(編集部注、12月2日の薬歴は略。薬は11月22日と同じで14日分)。11月4日は、糖尿病の薬は出ていません。口角炎のためケナログ口腔用軟膏(一般名トリアムシノロンアセトニド)が処方されています。確認しておきたいのですが、11月4日の段階では、小山さんが糖尿病であることは分かっていなかったのでしょうか。

A そうです。うちの薬局では、糖尿病であることが分かった時点で、個人データファイルの表紙の色をピンクにしています。この患者さんの場合、11月22日に糖尿病であることが分かったので、12月2日に表紙を変更し、現病歴として糖尿病を追加しました。その他の情報は、11月4日に得られたものです。

糖尿病患者で気になる生活習慣は?

早川 11月22日に糖尿病薬のアマリール(グリメピリド)が出ました(薬歴(2))。患者に聞いてみたところ、「糖尿病です。初めて薬飲みます」とのS情報が得られたということですね。

C はい、そうです。

早川 糖尿病であることの確認がきちんとできています。先ほどDさんから、朝食を抜いていることが指摘されましたが、なぜそこに着目したのですか。

D アマリールは朝食後に服用することとされているのに、患者が朝食を取っていないのであれば、朝に薬を飲んでからお昼まで何も食べないことになり、低血糖になることがあるのではないかと思ったからです。

早川 そうですね。この日の担当薬剤師も、低血糖症状に注意するよう患者に説明しています。

C 実はこの時点では、患者さんが朝食を抜いていることに気がついていませんでした。単に、糖尿病の薬が出たので、低血糖に注意するようお伝えしたのです。今から考えれば、朝食を抜いていることにもっと注意しておけばよかったです。

早川 1日2食ということですが、この患者はどんな生活を送っているのでしょうか。想像してください。

B 通院はきちんとしているので、薬を飲んでいないということはないと思います。でも、いつ薬を飲んでいるのかはよく分かりません。低血糖症状は出ていないようなので、朝は薬も飲んでいないのではないでしょうか。

A 私は、薬は指示通りに朝に飲んでいるんじゃないかと思います。

C 確かに、この患者さんのお人柄からすると、朝にきちんと飲んでいそうな気もしますね。

B すごくいい人なので、朝食後に飲む薬が出たことをきっかけに、朝食を取るようにしたのかもしれません。

早川 薬は朝に飲んで食事は朝抜きで昼夜だけ、食事は昼夜だけで薬も昼または夜に飲む、朝食を取るようにして薬も朝に飲む、こうした3通りの見方が出ました。実際はどうなのかを確認するためには、患者にどのように問いかければよいでしょうか。

B 「食事は1日3回きちんと取っていますか」と聞く。

早川 「朝食後に飲む薬が出ていますが、食事は1日3回取っていますか」、あるいは「食事は昼夜の1日2回ということですが、お薬はいつ飲んでいますか」などと尋ねることにより、確認ができますね。医師がどのような食事指導をしているかを患者に聞く、というアプローチもあります。アンケートで食事の時間と回数を聞いているので、このようなアセスメントができるわけです。他に、薬歴で気になることはありますか。

B 「血糖170台」というS情報から、患者の病態を把握したい。

早川 「170台」という数値は、空腹時血糖値ですか、それとも随時血糖値でしょうか。

C その場で確認すればよかったのですが、確認できていません。

A 糖尿病と分かった時点で、飲酒や喫煙について、もう少し詳しく聞き取りをしておきたかったです。

B もしかしたら患者さんは、お酒やたばこが糖尿病の病態と関係することが分かっていないのかもしれません。

早川 その点を探るためにも、突っ込んで聞き取りをしたいところですね。次は12月17日です。アマリールが開始されて約1カ月後に増量になりました。増量に伴い、副作用に注意するようプランを立てており、大変良いと思います。増量のタイミングとしてはどうですか。

B やや早いと私も思いますが、この医師は比較的早い段階で薬を増量することが多いです。増量が必要なほどHbA1cが高かったのかもしれません。

早川 通常は、少量から開始して徐々に増量します。早めに血糖値を下げたいという医師の判断があったのかもしれません。

 続いて1月13日と1月27日です。本格的に療養指導をする時期です。詳しい情報を聞き取れているのは素晴らしいと思います。

B 薬を頑張って飲んでいる、食事にも気を使うようになったということを話してくれました(薬歴(3))。

早川 患者のパーソナリティーの把握につながる重要な情報ですね。ここで「GI表」とあるのは何ですか。

A 食品のグリセミック・インデックスの値が載っている表のことです。

早川 分かりました。ここまでの経過から、この患者はどんな人だと考えられますか。

F 糖尿病であるという認識はあり、自分の病状について気軽に話せる人。

E 治療に意欲的で、薬のコンプライアンスも良いのではないかと思います。

D 真面目な患者さんだと思います。GI表をもらっても見ない患者さんもいますが、この方はちゃんと見ていますし。最初のアンケートでは食事は1日2回と答えていたけれど、この時点では朝食も取っているかもしれません。

C チェックシート(薬歴(4))では、HbA1c(JDS値)は、もともと11.2だったのが、1月27日には8.7まで下がっています。薬だけではここまで下がらないと思うので、食事や運動にも気を付けていると思います。

早川 色々なアセスメントが出てきました。では、そういう患者に対して、皆さんはどのように接したいですか。

B 頑張っている人に対しては、「もっと○○しましょう」と言うより、「今の調子で頑張ってください」と拍手するのがいいと思うので、とやかくは言いません。

早川 患者の頑張りを応援するというスタンスですね。

B はい。ただ、食事やお酒については、「ポテトチップスは意外にカロリーが高いですよ」とか「食事だけでなくお酒にも気を付けて」などと、もう少し具体的なアドバイスができればよかったと思います。

HbA1c値の推移を管理に生かす

早川 2月14日からの薬歴を見ていきましょう。2月14日は眼科受診について聞いています。さらに、「健康診断でHbA1cが高かったのがきっかけ」という、受診に至ったという経緯も分かりました。よく聞き取りができています。

A 糖尿病の患者さんには、眼科受診についてお聞きするようにしています。

早川 そういう観点は大事ですね。それにより、眼底出血がなかったという重要な情報が得られました。これらの情報から、血糖コントロールのスピードについてはどう思いますか。

A 適切だと思います。

早川 そのように評価をすることが大事です。もし出血があるようなら、急にHbA1cを下げるのは問題です。3月7日の薬歴によれば、HbA1cが6.8まで下がりました。血糖値の192というのは食後ですか。

B おそらくそうだと思いますが、確認はしていません。HbA1cが下がったのがうれしくて、そこまで聞けませんでした。

早川 確かに、もともと11.2だったのが6.8まで下がったのはすごいですね。

B 6.8は2月に行った検査の結果です。患者さんは1月ごろから食事に気を付けるようになったので、その影響が出るのはもう少し後になるはずです。HbA1cはもっと下がるかもしれません。

早川 確かに、5月16日の薬歴を見ると、4月11日に検査したHbA1cは6.3でした。でも、もうそろそろ頭打ちという印象もありますね(薬歴(5))。

F ここでもう1歩、患者が実行できそうな提案ができればよかったと思います。

A そうかもしれません。そういえばこの頃、来局間隔が少し乱れてきました。コンプライアンスの確認もしていませんでした。

早川 経過によって、指導する内容にも工夫が必要ということですね。

 7月21日の薬歴を見ましょう。ジャヌビア(シタグリプチンリン酸塩水和物)が追加されました(薬歴(6))。8月25日と合わせて、このタイミングで私たち薬剤師はどんな対応をすべきでしょうか。

F 低血糖を起こす可能性が増えるので、低血糖症状について患者に改めて説明しておきたい。

D 手持ちのブドウ糖について確認する。

B SU薬にジャヌビアを追加投与する場合、アマリールなら2mg以下にすることは知っていました。これまで低血糖症状は特に出ていませんでしたので、あまり注目していませんでした。

早川 単に用量の観点だけではなく、もし服薬のタイミングが乱れるようなことがあるなら注意するといった対応も必要でしょうね。ただ、8月25日には「低血糖症状(ー)の様子」とアセスメントがきちんとできています(薬歴(6))。

薬が追加される背景因子を考える

早川 薬が追加された場合、副作用のチェックもさることながら、効果についてもチェックする必要がありますね。9月22日には「1カ月後に血液検査」というS情報が得られており、10月20日には実際に検査をしています。「検査の結果を聞く」というプランもきちんと挙げられており、よいと思います(薬歴(7))。皆さんならこの段階で、具体的に何をチェックしたいですか。

B HbA1cの値。

F 薬をきちんと飲めているか。

D 合併症が出ていないか。

B 頑張っているのに薬が追加されて気の毒な感じもするので、患者さんの気持ちも聞いておきたい。

早川 治療に対するモチベーションが下がっていないかということですね。大事な点です。ジャヌビアが追加された場合、HbA1cはあとどのくらい下がるのが目標ですか。

A 0.5くらい。

早川 HbA1cはこのところ6.3~6.4あたりを推移していますので、6.0未満になれば治療効果ありと評価するということですね。

 次に行きたいと思います。11月24日です。今度はリピディル(フェノフィブラート)が追加されました(薬歴(8))。

B HbA1cがどうだったのか聞くつもりだったのに、リピディルが出たので聞けませんでした。

E アルコールを含む食生活の影響が出ているのではないでしょうか。

B 結局、お酒を毎日飲んでいたことが分かってしまったんですよね(薬歴(8))。

E 薬を飲んでいるから、お酒は少しくらい大丈夫という気持ちがあるのかもしれません。

F HbA1cが6.5くらいまで下がった段階で、患者さんとしては“合格”しているつもりになっているのかも。

早川 患者自身が、自分の治療目標をどこに置いているのかを確認することによって、そのあたりのことが分かってきますね。リピディルが出たこの時点は、確認するタイミングですね。

B リピディルが出たということは、脂質異常症ということなので、心血管疾患のリスクについても、これまで以上に注意が必要と思います。

早川 心血管疾患のリスクが高くなっていることをどの程度認識しているのか、患者に確認してみる必要がありそうですね。

B 喫煙もされていますし。

D 食事に気を付けているようですが、栄養のバランスはきちんと取れているのか。

B 頑張っている割にはお酒がセーブできていないので、何か勘違いをされているのかもしれません。

早川 初めの段階で、この患者の病気に対する認識や行動パターンについて、詳しくアセスメントができていればよかったですね。

 ここまで、約1年間にわたって経過を見てきました。最後に改めてチェックシートを見てみましょう。チェックシートの形式や運用に関して、改善できることがあるでしょうか。

B HbA1cの値は書いてきましたが、評価ができていませんでした。シートの中で評価ができればいいと思います。

D 検査値について、HbA1cや血糖値に加えて、腎機能など合併症に関連するものも記録したい。

F 薬が増量された日や、追加された日は、チェックシート上でも分かりやすくすればいいと思います。

早川 チェックシートに「その他気になること」という欄がありますね。これはとてもいいと思います。薬を増量した日についても、この欄に書いておけます。チェックシートを、その患者に対するケア方針のまとめとして役立てられるような気がします。時系列で整理することにより、効率的に、なおかつ個別の事情を踏まえた服薬支援ができるようになるのではないかと思います。

のぞみ薬局須田町店でのオーディットの様子。

参加者の感想

長岡 翔氏

 アマリールが処方された時、なぜ病院を受診したのかを患者さんに聞けていませんでした。その時点ではそういう発想がなかったのですが、聞いておくことが大事だと思いました。薬歴上で患者さんの経過を追うことは難しいこともありますが、意識していきたいと思います。

五十嵐 千恵氏

 チェックシートに記録することで精いっぱいで、指導に生かせていなかったということに気づきました。患者さんの経過を改めて振り返ると、治療の目標についてあまり意識してこなかったと思うので、これからは患者さんと一緒に目標を確認しながらやっていけたらいいと思いました。

吉富 由梨氏

 薬剤師の間で治療の目標が統一されていれば、チェックシートを使いつつ、チームワークでフォローし、患者さんの状態を良くすることができたかもしれないと思いました。他の生活習慣病の患者さんにも生かせる方法だと思うので、今後が楽しみになってきました。

春日 弥生氏

 糖尿病の薬が処方されている患者さんに対しては、HbA1cや血糖といった、糖尿病関連の検査しか意識できていませんでしたが、よく考えれば背景には生活習慣があるのだから、コレステロールや中性脂肪などにも気を付けないといけないと思いました。

全体を通して

早川 達氏

 今回のオーディットでは、初めて糖尿病を指摘された患者に対して、薬剤師として押さえておきたい基本情報、継続してチェックする項目、指導内容などを検討しました。検討内容を踏まえてチェックリストを見直し、さらに改善させて、業務の中に取り入れていってもらいたいと思います。そして、その成果を学会などでもどんどん発表してください。期待しています。

 薬歴は単なる記録ではなく、薬剤師がアセスメントを繰り返すことにより患者の問題・ニーズを的確に把握し、対応していくプロセスとその結果を残しているのです。そのことを十分に認識して薬歴管理業務を実践していただきたいと考えます。

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