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DIクイズ1(A)
DIクイズ1:経口血糖降下薬が追加された透析患者(A)
日経DI2012年5月号

2012/05/10

日経ドラッグインフォメーション 2012年5月号 No.175

出題と解答 : 笹川 大介
(はらだ薬局[鹿児島県薩摩川内市])

A1

(1)シタグリプチンリン酸塩水和物(商品名グラクティブ、ジャヌビア)

 糖尿病腎症で腎不全に至ると、一時的に血糖値が下がる現象が見られるケースが少なくない。インスリンの約40%は腎臓で分解されるため、腎不全ではインスリンの代謝や排泄が低下し、インスリンの血糖降下効果が長く続くようになるからである。Kさんのように、インスリン製剤が一時的に不要になることもある。

 一方で、腎不全は代謝性アシドーシスや尿毒症性物質の蓄積など、インスリン抵抗性を増大させて血糖値を上昇させる要因も抱える。さらに、糖尿病腎症患者では神経障害も進行しており、消化管運動に異常が生じるため、食後の血糖値が一定しない。加えて透析を始めると、透析液に血中のブドウ糖が拡散したり、血中のインスリンが透析膜に吸着されるなどの要因から、透析日と非透析日で血糖の日内変動パターンが変わる。

 こうした理由から、糖尿病の透析患者では血糖値の変動が予測しづらい。Kさんの場合、腎不全で透析を始めた頃は血糖値の低下からインスリン製剤が必要でなくなったが、上記のような要因で再び上昇し、高血糖による致命的な合併症を防ぐため血糖降下薬が追加されたのだろう。

 とはいえ透析患者では、使用できる血糖降下薬が少ない。腎排泄型の血糖降下薬は代謝や排泄が遅延するので、血中の薬物濃度が過度に上昇して低血糖などの副作用を起こしやすいからである。多くの経口血糖降下薬は透析患者に対して禁忌または慎重投与となっている。インスリン製剤は、透析日と非透析日で投与量を変えなくてはならない。

 今回、Kさんに処方されたリナグリプチン(商品名トラゼンタ)は、4成分目のジペプチジルペプチダーゼ4(DPP4)阻害薬として2011年9月に発売された。シタグリプチンリン酸塩水和物(グラクティブ、ジャヌビア)、ビルダグリプチン(エクア)、アログリプチン安息香酸塩(ネシーナ)といった腎排泄型のDPP4阻害薬とは異なり、リナグリプチンは胆汁排泄型であることが大きな特徴である。主に糞中に未変化体として排泄され、腎臓からはほとんど排泄されない。このため、透析患者にも用量調節の必要なく投与できる。現にリナグリプチンの添付文書には、禁忌や慎重投与の項に透析患者や腎障害患者の記載がない。

 他のDPP4阻害薬を見ると、シタグリプチンは透析患者には禁忌であり、アログリプチンは透析患者に投与可能だが減量が必要である。ビルダグリプチンは、腎排泄型であるが肝での加水分解で主に代謝されるので、透析患者にも用量調節せずに投与が可能である。ただ、ビルダグリプチンは透析患者に対する使用経験が少ないため、透析患者には慎重投与となっている。

 リナグリプチンは、胆汁排泄型であることに加え、単剤使用であれば低血糖を起こしにくいというDPP4阻害薬に特有の利点も持つ。このような特長は、血糖値が変動しやすい透析患者にはメリットが大きい。

 ただし、リナグリプチンでも低血糖や腹部膨満感、便秘などの副作用は起こり得るので、そのことは患者に指導しておく必要がある。

こんな服薬指導を

イラスト:加賀 たえこ

 腎臓の機能が弱ると、血糖値を下げるインスリンというホルモンが尿から排出されにくくなります。それで、透析を始めた頃から一時的に血糖値が下がって、インスリン注射がいらなくなっていたのですね。ただ、糖尿病という病気そのものが治ったわけではありませんから、血糖値が上がってくれば、これを下げる薬が必要となります。

 確かに、透析患者さんが使える糖尿病の飲み薬は少ないのですが、今回の処方に追加されたトラゼンタは、去年の9月に発売された新薬で、腎臓の機能にほとんど影響しないため、透析をしていても安心して使うことができます。

 副作用は比較的少ない方ですが、血糖値を下げるお薬ですので、ふるえ、寒気、冷や汗といった低血糖の症状には注意してください。また、便秘や、おなかが張ることもあります。気になりましたら、先生か私どもにご相談ください。

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