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副作用症状のメカニズム
第20回 下痢
日経DI2012年5月号

2012/05/10

日経ドラッグインフォメーション 2012年5月号 No.175

講師
名城大学薬学部
医薬品情報学准教授
大津 史子(おおつ ふみこ)
1983年、神戸女子薬科大学卒業。滋賀医科大学外科学第2講座勤務を経て、名城大学薬学部専攻科に入学。87年に同大学薬学部医薬情報センターに入職、同学部医薬品情報学講師などを経て、2008年から現職。
イラスト:長岡 真理子

症例
 80歳男性。脳梗塞の既往があり、自宅で介護を受けている。発熱して尿が出なくなり、急性前立腺炎との診断の下、尿道カテーテルが挿入され、尿路感染予防のためにレボフロキサシン水和物(商品名クラビット他)500mgが投与された。尿の出は良好であり尿道カテーテル抜去時に、排尿障害が遷延しないようにジスチグミン臭化物(ウブレチド他)10mgとタムスロシン塩酸塩(ハルナール他)0.2mgが投与された。その後、発熱は治まったが、約1週間後、下痢をするようになった。

 下痢とは、水分量の多い液状またはそれに近い泥状の便を排出する状態をいう。便の水分量が増加せず、回数だけが多い場合は「便意頻回」といい、下痢とはいわない。つまり、下痢は消化管における水分の吸収と分泌のバランスが何らかの原因で乱れた場合に起こる症状である。

「下痢」が起こるメカニズム

 成人では、食事や飲料で1日2L程度の水分を摂取する。それに加えて唾液1~1.5Lが胃に到達する。胃では、胃液2~2.5Lが分泌され、内容物は約4時間かけて十二指腸に排出される。小腸では、腸液1~3Lによって中和され、胆汁0.5~1Lが加わって、脂肪の消化が促される。膵液1~2Lも混ざり、三大栄養素の消化が7~9時間かけて行われる(引用文献1、2)。

 食物が空腸、回腸に達すると、ナトリウムと塩素イオンが能動的に吸収されるため、浸透圧勾配が是正される。それに伴って回腸の末端(回盲部)に到達するまでに約8Lの水が再吸収され、泥状の便ができる。大腸では、約15時間かけてナトリウムと塩素イオンの能動的再吸収により、水が再吸収され、便が形成される。最終的には、腸に入った約9Lの水分の99%が再吸収され、残りの1%程度が便とともに排泄される(引用文献2)。S状結腸に蓄えられた便は、食後の強い蠕動運動によって直腸に到達し、直腸壁が伸展することで、便意がもよおされて排泄される。

 食物から栄養素と水分を十分に吸収するには丸1日以上の時間が必要だが、下痢が起こると、腸内滞在時間が激減し、栄養素や9Lもの水の再吸収(回収)ができず脱水が起こる。

 下痢の原因をNothnagelは、4つに分類している(引用文献3)。 

(1)自律神経系変調による下痢

 腸管は、交感神経と副交感神経に支配されている。夜は、副交感神経が優位となりエネルギーを蓄える方向に働き、蠕動運動が亢進し消化吸収が高まる。日中は、交感神経が優位となり、エネルギーを放出する方向に働く。そのため、筋肉への血液(酸素)供給を優先するため、蠕動運動が抑制され消化吸収を抑える。

 ストレスが過剰になると、交感神経と副交感神経のバランスが乱れ、種々の異常が起こる。特に腸は自律神経の混乱の影響を受けやすい。旅行先など環境が変わると便秘になることはよく経験する。交感神経が優位となり蠕動運動が抑制されるためである。

 過緊張から自律神経が乱れると、本来、日中は活発でないはずの副交感神経の活動が亢進し、蠕動運動が盛んになる。すると腸管で十分に水分を吸収する時間が確保できず、「おなかがギュウルルと鳴って痛み、トイレに駆け込む」状態が起こる。疾患では、過敏性腸症候群や甲状腺機能亢進症で見られる。

(2)腸壁の炎症や刺激による、蠕動運動亢進、腸液分泌亢進による下痢

 炎症の原因は、病原微生物の侵入・増殖が最も多い。細菌が毒素を出したり増殖することで、腸粘膜が破壊され、炎症が起こる。すると、サイトカインにより蠕動運動が亢進し、腸粘膜の透過性が亢進するため、腸液の分泌が促進され、腸管内の水分量が増加し下痢が生じる。粘膜の障害が激しいと、出血し下血が起こる。

 特に、コレラ菌が産生するエンテロトキシンは、小腸の上皮細胞の受容体に結合し、細胞内cAMPの上昇を介して、腸管からのナトリウムや塩素イオンの過剰分泌を起こす。それに伴い水分移動が生じるため、激しい下痢が起こる。腸管出血性大腸菌O157は、回腸から大腸の粘膜に定着し、小腸粘膜の細胞を変成させる。そのため、水、電解質が再吸収できず、水溶性下痢を起こす。さらに、外毒素であるベロ毒素により出血性腸炎や溶血性尿毒症症候群などの重大な症状が惹起される。

 暴飲暴食によって腸管が過度に伸展したり、寒冷による物理的な刺激や有害化学物質の粘膜への直接刺激なども腸壁神経を刺激し、蠕動運動が促進され、腸液の分泌が亢進するため下痢が起こる。下剤のビサコジル(テレミンソフト他)やセンナなどは同様の機序と、さらに腸管からのナトリウムや塩素イオンの吸収を阻害することで水分を保持し、瀉下作用を示す。

(3)腸管腔内の浸透圧変化による下痢

 経口摂取した食物は、唾液、胃液、膵液の消化酵素により分解・消化される。そして、小腸粘膜の細胞膜に結合している消化酵素により最終的に単分子(ブドウ糖やアミノ酸)になり、直ちに小腸トランスポーターにより吸収される(引用文献3)。脂質は脂溶性であり、細胞膜を簡単に通過でき吸収されやすい。

 消化液分泌異常や消化不良が起こると、移動できない分子が小腸管腔内に増え浸透圧が上昇するため、水分が小腸管腔内に移動し、下痢を引き起こす。この作用を利用しているのが、硫酸マグネシウムなどの塩類下剤である。ソルビトールやマンニトールなどの糖質も同様の作用を持つ。ノンシュガー商品にはソルビトールなどが含まれており、食べ過ぎると下痢を起こすことが知られている。また、乳糖不耐症は、乳糖を分解するラクターゼが欠損しているため、乳糖が分解されず小腸管腔内に停留し、下痢を起こす。

 慢性膵炎では、膵臓からの消化酵素が不足し、脂肪の消化不良が起こり脂肪酸が増加。回腸で水分が増え、脂肪性下痢を引き起こす。糖尿病神経障害や強皮症、アミロイドーシスなどでは、腸管運動が低下し、腸内細菌が異常増殖する。腸内細菌は、抱合されて胆汁に捨てられるはずの胆汁酸や脂肪酸を脱抱合してしまうため、大腸管腔内での浸透圧が高くなり、水分分泌を刺激し、下痢を引き起こす。

(4)免疫反応による下痢

 腸管は、口から肛門までの一つの管であり、外界と接している。そこで、外界からの病原体の侵入などを防御する免疫機能が発達している。腸管内に有害物質や病原体が入ると、樹状細胞が取り込み、抗原提示によってヒスタミン分泌や粘液分泌亢進が起こり、炎症が起こる。この免疫が過剰となると、自己免疫疾患であるクローン病や潰瘍性大腸炎などが起こることがある。通常、食物は、自己物質ではないので排除されるはずであるが、免疫寛容により排除されない。しかし、この免疫寛容に異常が起こると、食物アレルギーとなり、腸炎を起こす。

副作用で下痢が起こるメカニズム

 医薬品の副作用で下痢が起こるメカニズムも上記の(1)~(4)で説明できる。

(1)自律神経系変調による下痢

 前立腺肥大症治療薬のα受容体遮断薬を投与すると、副交感神経が相対的優位になり、蠕動運動が亢進し、下痢が誘発される。ジスチグミンは、持続的なコリンエステラーゼ阻害薬であり、アセチルコリンが分解されずに過剰になり、副交感神経が優位となって蠕動運動が激しくなり、急性の下痢が起こることがある。重症化するとコリン作動性クリーゼという状態になり死亡することもある。また、抗癌剤のイリノテカン塩酸塩水和物(カンプト、トポテシン他)もコリンエステラーゼ阻害作用があり、激しい下痢を起こす。

(2)腸壁の炎症や刺激による、蠕動運動亢進、腸液分泌亢進による下痢

 フルオロウラシル(5-FU他)のように細胞毒性が強い薬剤は、小腸粘膜細胞の炎症や壊死を引き起こし、その数日後、プロスタグランジンなどのサイトカインやフリーラジカルによって下痢が起こる。これを遅発性下痢と呼ぶ。特にイリノテカンは、活性代謝物の腸肝循環により小腸粘膜を直接障害する。TS-1などのフッ化ピリミジン系でも多く見られる。

 ゲフィチニブ(イレッサ)、エルロチニブ塩酸塩(タルセバ)などの分子標的薬では、腸管上皮細胞の成長抑制が下痢を起こす原因と考えられる。

 抗菌薬の投与によって、腸管内の偏性嫌気性菌であるClostridium difficileが増殖し、炎症やアレルギー反応、腸管の虚血が起こると下痢となり得る。これらをClostridium difficile関連下痢症(CDAD)と呼ぶ。出血性大腸炎や偽膜性腸炎もその一つである。セファロスポリン系、フルオロキノロン系、マクロライド系で多く起こる。

 2012年2月、米食品医薬品局 (FDA)はプロトンポンプ阻害薬(PPI)の使用により、CDADリスクが上昇するとして警告を発している(引用文献6)。PPI服用患者で、特に高齢者や抗菌薬の併用患者が難治性の下痢を発症した場合は、CDADを考慮すべきである。

 一方、ジゴキシン(ジゴシン他)は、Na/K-ATPaseによるナトリウムイオンのくみ出しを阻害し、細胞内ナトリウム濃度を上昇させる。これは小腸上皮細胞でも起こり、小腸管腔からナトリウムをくみ出せず水分とともに貯留することになり、下痢が起こる。ジギタリス中毒の初期症状でもある。

 また、選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)やセロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬(SNRI)は、セロトニン(5-HT)系を賦活する。5-HTの95%が消化器官に存在しており、食物を摂取すると、消化管にあるクロム親和性細胞が刺激され、5-HTの分泌が起こる(引用文献4)。5-HTは、小腸上皮細胞の5-HT3、5-HT4受容体を介して腸管の筋肉に伝わり、蠕動運動が亢進される。SSRIやSNRIは、強い5-HTトランスポーター阻害作用を有しているため、腸管に放出された5-HTの取り込みも阻害し、腸管の筋肉に対する刺激が持続し、下痢となる。抗癌剤も消化管にあるクロム親和性細胞を刺激し、早期下痢を引き起こす(引用文献4)。また、プロスタグランジンE1製剤であるミソプロストール(サイトテック)は、腸管収縮作用があり下痢を起こす。

(3)腸管腔内の浸透圧変化による下痢

 抗菌薬の投与により、腸内細菌叢に変化が生じ、脂肪酸の代謝などが影響を受けることで浸透圧が高まり、下痢が起こることがある。抗菌薬を中止することで治癒することが多い。免疫抑制剤の服用によっても腸内細菌叢が変化し、消化に影響があるとともに、腸管感染症により腸管の炎症や腸粘膜の毛細血管障害などを起こし、(2)の機序でも下痢が起こる(引用文献5)。

 コルヒチンは、乳糖分解酵素の活性低下を起こすため、乳糖の消化不良が起こり、下痢が発生する。経腸栄養剤では、投与速度が速かったり、濃度が濃いと、腸管に大量の分子が存在することになり、浸透圧性の下痢を引き起こす。制酸剤、造影剤、ラクツロースやソルビトール含有製剤は吸収されず、浸透圧性下痢を起こす。

(4)免疫反応による下痢

 薬剤に対するアレルギーによって下痢が起こることがある。最初は、薬疹で2回目に下痢が起こるような場合、次はアナフィラキシーショックとなることもある。

 最初の症例を考えてみよう。患者はレボフロキサシンを服用していたことから、下痢の原因としてCDADが疑われ、同薬が中止された。しかし、その後も下痢が続いたため、ジスチグミンによる下痢を疑った薬剤師は医師に相談し、同剤も中止となった。その後、下痢は軽快した。

図1 副作用で下痢が起こるメカニズム

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引用文献
1)月刊ナーシング編集部、月刊ナーシング 2009:29(12);53-6.
2)須田憲男、准看護婦資格試験 2002:43(14);64-6.
3)當瀬規嗣、薬局 2009:60(12);3674-81.
4)後藤伸之、薬局 2011:62(3);349-55.
5)厚生労働省『重篤副作用疾患対応マニュアル 重篤な下痢』
6) FDA『Drug Safety Communication』

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