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薬歴添削教室
滞在先で骨折した透析間近のCKD患者
日経DI2012年4月号

2012/04/10

日経ドラッグインフォメーション 2012年4月号 No.174

講師 早川 達
北海道薬科大学薬物治療学分野教授。POS(Problem Oriented System)に基づく薬歴管理の第一人者。著書に『POS薬歴がすぐ 書ける「薬歴スキルアップ」虎の巻』基本疾患篇、慢性疾患篇、専門疾患篇など。

今回の薬局
みやこ薬局山科店(京都市山科区)

みやこ薬局山科店は、京都市内に6店舗の調剤薬局と1カ所の居宅介護支援事業所を展開するみやこ薬局株式会社が1998年3月に開局した。応需している処方箋は月2500枚ほど。

 近隣にある内科、外科、整形外科、産婦人科、小児科など12の診療科を標榜する中規模病院をはじめ、約50の医療機関からの処方箋を受けている。耳鼻科、眼科、泌尿器科などの診療科からの処方箋も応需している。

 同薬局には、20代2人、30代4人、40代1人、50代1人の薬剤師が勤務している。うち、常勤薬剤師は7人。

 電子薬歴を導入しており、変型SOAP形式で記載している。サマリーを随時更新したり、ハイリスク薬などを適正に算定するよう心掛けている。

 今回は、みやこ薬局山科店に来局した69歳女性、石井千鶴さん(仮名)の薬歴をオーディットしました。

 石井さんは他県に離れて住む家族の所に遊びに来ている時に骨折で入院してしまい、退院後に初めて来局しました。腎臓病を患っており、透析導入も視野に入れて管理されています。腎臓内科と整形外科の双方から多数の薬を処方されているほか、住み慣れた土地を離れて療養生活を送ることになったため、様々な問題が生じてくると考えられます。このような患者に対してどのようにケアを行っていくかに着目して、オーディットの内容を読み進めてほしいと思います。

 本文は、会話形式で構成しています。薬歴作成を担当したのが薬剤師A~E、症例検討会での発言者が薬剤師F~Iです。
(収録は2011年12月)

薬歴部分は、PDFでご覧ください。

早川 初めに薬歴管理シートから見ていきましょう(薬歴(1))。こちらの「患者基本情報」が表書きに当たるものですね。石井さんは腎臓病の病歴があって、他の地域で大学病院に通院していると書かれています。初回の来局は7月25日ですが、その前に骨折して入院していたということです。初来局までの経過をまとめて記載しているのは非常に良いと思います。

 このような経過の腎臓病患者に対して、何を確認したいですか。

C 食事について。病院で食事療法を経験したことがあるかどうかも含めて聞きたいです。

A 食事の回数は聞いています。1日3回きちんと取られているそうです。

G 糖尿病や心臓病などの合併症の有無。

D 併用薬。

早川 具体的には。

F 降圧薬。

早川 その辺りが書かれていないということは、処方薬はこれ以外にはなかったのでしょうか。

A 7月25日の初来局時に、整形外科からの処方なのに腎臓の薬がたくさんあったので、以前から服用していた薬がそのまま出されたのだろうと判断しました。

D マグネシウムの入った胃薬を飲んでいないかが気になります。

G カルシウム、アルミニウムなどが入ったOTC薬も。

早川 処方薬、OTC薬ともに、今の病態に悪影響を及ぼす薬剤について確認できるといいですね。飲酒や喫煙についてはどうでしょうか。

F クレアチニンクリアランスの値にもよりますが、飲酒は肝機能に影響すると思います。

E 喫煙は血管収縮作用があるのでやめた方がいい。

F その前に喫煙量を知りたいです。

早川 喫煙は慢性腎臓病(CKD)の進行のリスク因子であることを押さえておきましょう。実際はどうでしたか。

A この時は聞けませんでしたが、後で、喫煙・飲酒いずれもないことを確認しました。

早川 必ずしも初回でなくとも、把握しておくようにしましょう。この患者さんは体重はどれくらいでしたか。

A 小柄で軽そうな方でした。

早川 なぜそう聞いたかと言うと、メタボリック症候群もCKDのリスク因子だからです。この患者さんを管理していく上で、重要な順にリスク因子を確認していく。病歴、経過については最初にしっかり把握できています。CKDであれば心臓の合併症、糖尿病、血圧などを考慮すると同時に、腎臓に何らかの影響を及ぼすOTC薬やその他の摂取頻度について確認すべきでしょう。体型・体重についてもサマリーに記録しておくといいですね。

ステージ4のCKDと推定

早川 では、初回の7月25日の処方箋を見ていきます。たくさん処方されていますね。疼痛時としてロルフェナミン(一般名ロキソプロフェンナトリウム水和物)も出ています。担当薬剤師は腎臓病のことを聞き取り、患者の状態をよく把握しています。「8年間」という情報は、表書きにも書いておくといいでしょう(薬歴(2))。病期はどれくらいでしょうか。

A 最初はそれほどひどくないという印象を受けました。透析をほのめかされていますが、ロルフェナミンも出ていたので。

H ステージ5が透析なので、この患者はステージ4と捉えることができます。

早川 先ほど食習慣について確認したいという意見がありましたが、ステージ4の場合、どのような生活上の制限があるでしょうか。

F ナトリウム制限。食塩は6g以下。

B カリウムと蛋白も。

早川 エネルギー、脂質は身体活動度にもよりますね。担当薬剤師はその辺りについて聞いています。

A 「とりあえずお薬をもらって帰りたい、しんどい」と訴えていました。

早川 この「しんどい」という言葉は、どのように捉えますか。

F むくみが出ていて体が重い。

E 熱がある。

H 尿毒症。

C 貧血。

早川 担当された方はどう思いましたか。

A 私は退院後、自宅に戻れるほどには体力が回復していないという印象を受けました。

早川 そのようなアセスメントを薬歴に残しておくことで、他の薬剤師にも、その時の患者の状態が分かりやすくなるでしょう。

 ここで、「まだ左腕を固定したまま」とありますが、気に掛かりませんか(薬歴(3))。

F 分包紙を破れるのでしょうか。

A 「コンプライアンス良好」は入院中のことです。腕を吊った状態で、手は使えるとおっしゃっていました。

早川 一人で服薬できることの確認が取れました。この点も大事ですね。

CKDへの認識を促そう

早川 7月27日、腎臓内科から処方箋が出ています(薬歴(4))。「肺炎になりかかっている」というS情報が得られました。CKDの患者であることを考慮した場合、療養指導の上で何を考えますか。

C 腎排泄性の薬剤で用量調節がなされているかどうか。

早川 投与量ですね。どうでしたか。

C サワシリン(アモキシシリン水和物)は1日1回に減量されているのでOKと判断しました。

E 前回からわずか2日間で肺炎になった経緯を知りたい。例えば「寒い中で寝てしまった」ということであれば、温まるよう指導します。

F 今回、鉄剤が追加されているので、食事量の低下や、買い物に行けないといった状況があるかもしれません。

早川 日常生活で注意を促していく必要性と、その具体例が挙がりました。それは肺炎だからということでしょうか。

A 免疫機能が落ちているのでは。

早川 私たちは、そのような認識を患者本人が持っているかどうかを探りながら、高齢でCKDの場合には肺炎が死亡の大きなリスクになるといった注意を促す必要があるでしょう。

A 家族がそれを分かっていないといけませんね。

早川 まさにそうです。肺炎球菌やインフルエンザのワクチンの接種歴は。

C 分かりません。

早川 65歳以上では接種が推奨されています。確認し、接種勧奨を行うのは私たちにもできるケアですね。

 続いて貧血についてです。ここで「ひどい」というのはどういうことでしょうか。

B 家族の言葉です。

早川 フェロミア(クエン酸第一鉄ナトリウム)が追加されています(薬歴(4))。一般的に、腎性貧血がひどくなってくると、どのような症状が現れますか。

F 顔色が悪い、息切れがする。

I ふらつき。

早川 貧血がどの程度になるとそのような症状が出ますか。

F ヘモグロビンが7g/dLくらい。通常は11~12g/dLくらいです。

早川 貧血の具体的な症状を聞くことで、おおよそのヘモグロビンレベルが推定できるということです。治療目標についてはいかがでしょうか。

F 11までは上がらない。9~10g/dLでしょうか。

早川 もっと広い意味で考えると?

C 自覚症状を減らす。

A 生活に支障が出ないようにする。

早川 腎臓病において腎性貧血の治療を行うことは、生命予後の観点からはどうでしょうか。

E 腎機能の悪化を防ぐ。

G 心臓に負担を掛けないため。

早川 そうですね。生命予後を改善するという目標があります。それに対して患者と家族の認識が不足している場合は、私たちからもアプローチできると思います。

 次回の7月29日に輸血を実施されていることから、病院で赤血球造血刺激因子製剤(ESA)の注射を受けていたとも考えられます。また、代理の人が来局したということで、患者との関係を確認しておくことも重要です(薬歴(5))。

食事療法へのアセスメントを

早川 8月8日は再び痛みの話が出てきました。ロルフェナミンが処方されたことについて、気になることはありますか(薬歴(6))。

C 頓服なので、服用頻度が知りたい。

早川 まずそれが大事ですね。

 続いて8月10日の腎臓内科の処方箋を見ると、処方が変化しています。カリメート(ポリスチレンスルホン酸カルシウム)が増量、炭酸カルシウム製剤が追加されました(薬歴(7))。皆さんはどのように対応しますか。

I 果物や野菜など、カリウムの多いものをどれくらい取っているか聞きます。

早川 食事療法についてですね。

G 炭酸カルシウムが出ているので、リンが高いと考え、牛乳やジャコのような蛋白質を多く含むものを減らしていくよう説明します。

早川 ステージ4と見積もっているので、食事療法がうまくいっていないという見方もできますね。

E 腎臓病が悪化している可能性があります。

I となれば、血圧や塩分摂取の状況も確認したいです。

早川 そうですね。血圧が上がれば腎機能をさらに悪化させる可能性があります。

F 服薬回数が1日6回にも上ります。きちんと服用できているのか。クレメジン(球形吸着炭)が食後に出ているので、他剤が吸着されて効果がなくなってしまう恐れがあります。

I 薬の管理はどうなっているのかが気になります。

A 家族のうち誰が食事の管理を行っているのかも聞きたかったです。

早川 そのような情報を薬歴に残しておけば、腎機能の悪化を食い止めるために取るべき対応が見えてくると思います。本人の身体活動度は結構高いのですね。

C そう思います。

早川 透析間近で貧血もあり、動くのも大変となれば、普通は家で座っているか寝ているかで、身体活動度はレベル1くらいでしょう。ただ、この患者さんはもっと活動度が高いようなので、摂取エネルギー量の目安も基準値より高めかもしれません。指導のポイントが見えてきますね。

服薬コンプライアンスにも懸念

C  8月17日、「貧血の薬がない」と来局されました(薬歴(8))。確実に渡したはずだったので、「ご自宅に伺って探しましょうか」とお伝えしました。管理が大変とのことで、次回から一包化することを伝えています。残薬がたくさんあって、薬が分からなくなっている可能性があります。

早川 前回の8月10日にも、以前処方されたことがあるカリメートが「初めて」とおっしゃっています(薬歴(8))。これらの経過から、患者さんと家族のコンプライアンスについてどう思いますか。

I 高齢のため理解力がやや乏しい。

A 集中力が落ちているのでは。

H 家族が協力的ではなく、病気についての認識も浅い。

H カリメートや炭酸カルシウムはずっと飲まなければならないはずですが、薬を飲まなければいけない理由を理解しているのでしょうか。

C 貧血については意識が高い。

A 腎臓病だからなかなか治らないということは分かっていらっしゃるようです。

早川 様々な視点が出ました。家族を含めて病識不足も指摘されました。これらはまさにこの患者に対して必要なケアですね。病態、病期、治療内容、エンドポイントなどをベースとして押さえておくことで、服薬コンプライアンスの評価につながっていきます。

 8月22日と9月5日は、マイスリー(ゾルピデム酒石酸塩)について触れられています(薬歴(8))。

A 以前から服用されていたのですが、効きが良くなってきたとおっしゃったので、代謝が悪くなってきたことを疑い、量を減らしていく必要があると思いました。

C なぜ眠れないのかも聞きたいです。

早川 どのようなタイプの不眠であるか確認したいところですね。9月5日には、「10mgを半錠にして飲むことが多い」というS情報が得られています。5mgで処方するよう、私たちから医師に伝えるのも一つの方法です。

 9月7日には腎臓内科の薬が一包化されました(薬歴(9))。本人に伝えられなかったということで、次回に引き継ぐ事項として記載しておくといいでしょう。

鎮痛薬による腎機能への影響は?

早川 10月3日もマイスリーが処方されています。「痛み止めは腎臓が悪いから飲まないよう言われている」というS情報が得られています(薬歴(10))。

A それまでロルフェナミンが引っ掛かっていたものの、痛みがあるので仕方ないのかなと思っていましたが、ついに中止になりました。

早川 痛みはどう経過したのか、鎮痛薬をどのように服用してきたのか、それが腎臓にどう影響を与えているのか、併せて評価できますね。ある程度腎臓病が進行している場合、クリノリル(スリンダク)ならいいというわけではありません。

C 整形外科と腎臓内科の連携が取れているのか。腎臓内科の医師がロルフェナミン中止を伝えたのかどうかが分かりません。

早川 まさにそこは薬剤師の出番です。検査値が全て分からなくても、一言聞くだけで、様々な患者の状況を把握できることが分かったと思います。

 今後、この患者さんにはどのような方向で対応していきたいですか(薬歴(11))。

A 腎臓病では薬と食事が大事だと思います。残薬の状況も含めて、薬を飲めているかどうかをもっと確認していかなければなりません。

E 家族の関係性についても考えた方がいいです。

I 透析に対してあまり認識していないようなので、透析導入を遅らせることが大事という話をしていきたいと思います。

早川 既に病院で医師や看護師から説明を受けているのでしょうが、薬剤師も含めて多くの医療関係者がタイミングを捉えて確認し、支援していくことが大事ですね。

参加者の感想

山中 京子氏

 この患者さんの初回来局時に対応しましたが、整形外科でCKDのお薬を出されていたところから「すぐにご自宅に戻られるだろう」と思っていました。そのような「印象」も薬歴に残しておくことが重要だと思いました。

前川 亜紀子氏

 患者サマリーをどう生かしていくかがとても大事だと思いました。今までは問診した内容だけを書いていましたが、経時的なことを書いておく必要が分かりました。家族の協力が必要なケースについては、家族構成についても把握していくようにしたいと思います。

全体を通して

早川 達氏

 オーディットを進める中で、患者への確認によって病状や管理状態など多くの事項を把握・評価でき、それらが具体的な対応につながることが分かりました。確認項目はそれほど多くはなく、日常業務にも応用できることを明らかにできたと思います。CKDの管理においては、病状と管理状態から患者の予後を推測できます。私たちも予後を意識した上で、日々の対応を行うことの重要性を認識できたのではないでしょうか。

 最後に記録方法について質問がありました。電子薬歴のため通常2、3回前までしか一度に表示できないことが多く、患者の全体像がつかみにくいとのことでした。そこで大事なのは、服薬コンプライアンスの状況や表情、態度を含めた患者の状態をできるだけ記載していくことです。状況を正確にアセスメントできない場合も、「印象」を記録します。その積み重ねが状態の正確な把握につながり、良いケアを提供するためのベースとなります。表書きにもどんどん転記して、情報を共有できるようにしていくことも大切です。

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