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CaseStudy
かりん薬局(埼玉県三郷市)
日経DI2012年4月号

2012/04/10

日経ドラッグインフォメーション 2012年4月号 No.174

 特定薬剤、いわゆるハイリスク薬が処方された患者にどんな服薬指導を行い、特定薬剤管理指導加算の算定につなげるかは、どの薬局でも悩みの種だろう。だが、かりん薬局(埼玉県三郷市)の鈴木正史氏は「当薬局では加算の算定率アップ計画に取り組んだことで、ハイリスク薬が処方された患者の9割以上で算定できるようになった」と話す。

「ハイリスク薬が処方された患者に指導・確認すべき内容をまとめたマニュアルを作り、薬歴の書き方を改善したことで、指導の質が向上し、加算の算定率アップにつながった」と話す、かりん薬局の鈴木正史氏。
写真:柴 仁人

 ハイリスク薬が処方されている患者に対しては、日本薬剤師会の『薬局におけるハイリスク薬の薬学的管理指導に関する業務ガイドライン(第2版)』の内容を基に、患者の状態を聴取・確認することが要請されている。さらにこうした管理を行った場合に、調剤報酬では特定薬剤管理指導加算(処方箋受け付け1回に付き4点)が算定できる。

 しかし、「日薬のガイドラインには具体的な管理内容までは書かれていないこともあり、算定要件が不明確で、算定しづらいという問題があった」と鈴木氏は話す。

 指導をきちんと行うためのバックアップ体制を整えれば算定率をアップできるはず─。そう考えた鈴木氏は、2010年秋に、写真1の『ハイリスク薬の服薬指導マニュアル』を作成した。

 

写真1 ハイリスク薬の服薬指導マニュアル

ハイリスク薬の指導を充実させ、特定薬剤管理指導加算の算定率をアップするために作成したマニュアル。指導や確認をすべき内容が、30ページにわたってまとめられている。商品名の頭3文字(エクセグランであれば「えくせ」など、(1))を電子薬歴に入力すると、このマニュアルの項目が表示される(写真2参照)。

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 マニュアルはハイリスク薬の服薬指導に当たって患者に指導・確認すべき内容をまとめたもので、A4判の30ページにも及ぶ。この全ページをラミネート加工して投薬カウンターに配置し、ハイリスク薬の服薬指導時に薬剤師がすぐに参照できるようにした。

 このマニュアルとセットで鈴木氏が考案し導入したのが、新しい薬歴の記載方法である「T-SOAP方式」だ。

SOAPの前にT(特定薬剤)欄を

 T-SOAP方式の薬歴の大きな特徴は、SOAPの前に特定薬剤のTの欄を設けた点だ(写真2の[2])。電子薬歴の画面(写真2の[1])で前回や前々回のTを確認すれば、これまでハイリスク薬についてどのような指導がされてきたかが一目で分かる。

写真2 T-SOAP方式の薬歴の記載方法(ハイリスク薬のテオドール[一般名テオフィリン]が処方されている60代男性への指導の流れ)

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 こうした過去の指導内容を踏まえつつ、今回は何を指導・確認すべきかを考える。この薬剤師の思考をアシストするのが写真2の[3]のウィンドーだ。

 この機能は、パソコンの「単語登録機能」を利用したもの。Tの欄にカーソルを移動し、ハイリスク薬の商品名の頭3文字(例えばテオドールなら「ておど」)を入力してスペースキーを押すと、指導すべき項目がリスト表示される。リストは、日薬のガイドラインなどを参考に治療領域ごとに「T1:患者に対する処方内容の確認」「T4:併用薬や食事、一般用医薬品や健康食品との相互作用の指導」などの項目立てを行った。

 これらの項目の中から今回指導・確認する項目を選ぶと、Tの欄にその文章が青字で入力される。各項目で具体的に指示・確認すべきことは、投薬カウンターにある『ハイリスク薬の服薬指導マニュアル』に記載してある(写真2の[4])ので、それを参照しながら聴取した内容を薬歴に記載していく。

 「指導すべき項目が電子薬歴ですぐに表示・入力できるので、薬歴を書く時間が短縮できた。また、これまでうろ覚えだった細かい指導内容は、マニュアルを参照できるので着実に指導できるようになった」とかりん薬局管理薬剤師の村山ふじ子氏は話す。

「これまでうろ覚えだったハイリスク薬の指導内容が示された結果、着実に指導でき、特定薬剤管理指導加算を自信を持って算定できるようになった」と話す、かりん薬局管理薬剤師の村山ふじ子氏。

 鈴木氏はT-SOAP方式の薬歴記載方法を、かりん薬局が所属する東都ファーマシーグループ内の14の薬局が集まる勉強会で発表した。すると、「分かりやすい」「うちの薬局でもできそう」との声が上がり、算定につながる薬歴の書き方をグループ内に広めることができたという。

状態に応じてTを選択

 それでは実際の薬歴を見てみよう。図1は、糖尿病のため3種類の経口糖尿病薬を服用している60代の男性患者の薬歴だ。

 1月12日には、ハイリスク薬(調剤内容欄の医薬品名の後ろに(H)と表示される、(2))である経口糖尿病薬の指導項目(T1~T6)のうち、T5の「HbA1cや血糖値の検査結果などによる治療経過の確認」を行った(3)。

図1 糖尿病でハイリスク薬を3種類服用している60代男性の薬歴

患者は糖尿病のため月1回通院しており、処方されている3種類の薬剤はすべてハイリスク薬(H) である。

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 薬局では検査値の聴取が難しいと考えがちだが、「積極的に聞くようにしたら、最近では、患者から『今日は8.0だったよ』などと自発的に教えてくれるようになった」と鈴木氏。数値を言ってくれない患者には、「前回から上がっていましたか、下がっていましたか」という情報だけでも聞き出すようにしている。

 この患者の場合、この日のHbA1cは8.2%で、前回の7.7%から悪化していた。そこで、運動や食事を見直して7%台に戻すように指導した(4)。

 1カ月後の2月16日の来局時には前回と同じ処方に加えて、かぜのため総合感冒薬が7日分処方されていた。担当した薬剤師は、発熱による食欲不振などから、いわゆるシックデー状態となる危険性があると考え、この日に行う指導項目としてT6のシックデーの対処法の説明を選択(5)。算定マニュアルを参考に脱水症状を防ぐためにスープやおかゆで栄養を補給し、体調が悪化したらすぐに医療機関を受診するよう指導した。

自信を持って加算を算定

 ハイリスク薬の指導が充実するにつれ、「患者の意識も変わってきたのを感じる」と村山氏は話す。

 例えば、T-SOAP方式の導入後、かりん薬局ではアスピリンなどの抗血栓薬が処方されている患者に「ちょっとした鼻血や歯ぐきからの出血などでも、血が止まりにくいことがあるので、心配なときはすぐに先生に連絡してください」という注意事項を定期的に伝えるようになった。患者の一人は鼻血が出たとき、かりん薬局での指導を思い出して、とっさに自分で救急車を呼び、事なきを得たという。

 収益面にも好影響があった。当初、特定薬剤管理指導加算の算定率は全処方箋の1%にも満たなかったが、現在はその30倍の20%超となった(図2)。これはハイリスク薬が処方されている患者の実に9割以上に上る。「以前の指導内容を踏まえた確認を行い、患者さんの経過を把握した薬歴を記載できるようになったためか、自信を持って加算を算定できるようになった」と村山氏は話す。

図2 かりん薬局における特定薬剤管理指導加算の算定率の推移

 折しも、今春の調剤報酬改定では、ハイリスク薬の算定要件の文言が分かりやすく改変され(別掲記事参照)、かりん薬局が実践している指導内容や薬歴の記載を支持するような文面となっている。鈴木氏は「ハイリスク薬の指導を充実する一助として、ぜひT-SOAP方式を試してみてほしい」と話している。(河野 紀子)

今改定でハイリスク薬加算の要件が分かりやすく

 ハイリスク薬が処方された患者に服薬指導を行っても、特定薬剤管理指導加算の要件が分かりにくくて、算定できない─。こうした現場の不満の声に応えるべく、2012年4月の調剤報酬改定では、特定薬剤管理指導加算に関する通知の文言が修正された。

 具体的には、「これまでの指導内容等も踏まえ適切な指導を行った場合に算定する」「薬局で得ることが困難な診療上の情報の収集については必ずしも必要とはしない」と明記され、日本薬剤師会のガイドラインにある項目の全てを毎回確認する必要はないこと、血液検査の結果などが算定に必須でないことが示された。

 算定要件そのものが変わったわけではないが、これまでの通知には算定要件が、「服用に際して注意すべき副作用に係る自覚症状の有無等について確認するとともに、過去の薬剤服用歴の記録を参照した上で、服用に際して注意すべき副作用やその対処法、服用及び保管に係る取り扱いの注意事項について詳細に説明し、必要な指導を行った場合に算定する」と漠然とした表現で、「詳細な説明」や「必要な指導」が何を指すのか分かりにくかった。

 また、薬局経営者の間では「ハイリスク薬加算の算定率が高いと、個別指導の対象になる」といった噂から、算定を控えるという向きもあったようだ。

 実際、2011年11月に行われた中央社会保険医療協議会総会で、厚生労働省は全国711軒の薬局を対象に行った「かかりつけ薬局調査」の結果を報告。その中で、ハイリスク薬の薬学的管理指導を行う上での問題点について複数回答で尋ねたところ、「確認すべきで実際には困難な項目(がある)」、「算定基準がはっきりしない」と答えた薬局はそれぞれ47.6%、46.7%と半数近くに上った。

 ある調査ではハイリスク薬が処方された患者のうち、特定薬剤管理指導加算を算定しているのは3~4割にとどまるとのデータもある。今回の改定で算定基準が分かりやすくなったことで、加算の算定率が増えることが期待される。

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