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MAOが関与する相互作用
日経DI2012年4月号

2012/04/10

日経ドラッグインフォメーション 2012年4月号 No.174

 神経伝達物質であるドパミン、ノルアドレナリン(NAd)、アドレナリン(Ad)、セロトニン(5-HT)、一部のヒスタミンなどは、アミノ基を1つ持つ生体モノアミンである。これらを酸化的に脱アミノ化して不活性化するモノアミン酸化酵素(MAO:monoamine oxidase)は、生体内のモノアミンや基質となる薬剤の濃度を調節する重要な役割を担っている。MAOによるモノアミンの代謝過程は、次の反応式で表せる。

 MAOは細胞内のミトコンドリア外膜に存在し、基質特異性と阻害物質に対する感受性によって、A型とB型のサブタイプに分けられる(表1)。A型は主に胎盤、腸管壁、肝臓、末梢神経、B型は血小板、脳(グリア細胞)、肝臓に存在する。

表1 MAO-AおよびMAO-Bの生体内での局在、基質、阻害物質(カッコ内は主な商品名)

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 モノアミンのうち、MAO-Aは主にNAd、Ad、5-HT、チラミン、MAO-Bはドパミンとチラミンを代謝する。加えて、MAO-Aは、プロプラノロール塩酸塩(商品名インデラル他)、3種類のトリプタン系薬(スマトリプタンコハク酸塩、ゾルミトリプタン、リザトリプタン安息香酸塩)などの薬剤も代謝する。

MAOが関与する阻害作用

 MAOの活性を阻害する薬剤は、(1)MAO-Aのみを阻害するMAO-A阻害薬(2)MAO-Bのみを阻害するMAO-B阻害薬(3)MAO-AとMAO-Bの両方を阻害する非選択的MAO阻害薬─の3種類に分類される。

 かつては抗うつ薬として非選択的MAO阻害薬のサフラジンが使用されていたが、中枢神経系や循環器系などの重篤な副作用や多くの薬剤との相互作用などの報告を受け、販売中止となっている。現在、MAO阻害薬として承認されているのは、MAO-Bを阻害するパーキンソン病治療薬のセレギリン塩酸塩(エフピー他)のみである。

 しかし、多くの医薬品の添付文書には、MAO阻害薬の併用による相互作用について記載されている(表2)。中でも、交感神経刺激薬、三環系抗うつ薬、セロトニン作動薬、トリプトファン含有製剤などは、非選択的MAO阻害作用を持つ薬剤と併用する際にも、モノアミン過剰による毒性の発現に注意すべきである。

表2 添付文書中の相互作用欄に(非選択的)MAO阻害薬との併用について記載がある主な医薬品(カッコ内は主な商品名、→は起こり得る事象)

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 また、MAO阻害作用がある薬剤を服用している患者が、チーズやワイン、酵母エキスといったチラミンを多く含む飲食物を摂取すると、急激な血圧上昇(高血圧クリーゼ)、顔面紅潮、心拍数増加などの症状を呈することがある(チーズ効果)。これは、腸管壁に局在するMAO-Aが阻害されることで、経口摂取したチラミンが代謝されないまま吸収され、神経終末におけるNAdの遊離を促進するためである。

 加えて、赤身魚はヒスチジンを多く含み、腐敗過程でヒスタミンに変化することから、MAO阻害薬を服用中の患者が鮮度の低下した赤身魚を摂取すると、ヒスタミン中毒を起こすリスクが高くなる。同様に、5-HTの前駆物質であるトリプトファン(健康食品やアミノ酸製剤など)を摂取すると、セロトニン症候群を発症する恐れがある。

臨床現場で求められる対応

 臨床現場では、セレギリンのほか、MAO阻害作用を有するゾニサミド(エクセグラン他)と、MAO-Aの基質であるプロプラノロールが処方された場合に注意が必要である(表3)。

表3 MAOが関与する主な相互作用

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 セレギリンは、セロトニン作動作用を持つ抗うつ薬、ペチジン塩酸塩、トラマドール塩酸塩と併用した場合、セロトニン症候群とほぼ同様の症状を発現することなどから、これらの薬剤との併用は禁忌とされている。

 セレギリンはMAO-Aに対する阻害効果は弱いため、非選択的MAO阻害薬に見られる高血圧クリーゼやチーズ効果は起こしにくいと考えられるが、セレギリンの代謝酵素(CYP2D6、3A4)を阻害する薬剤との併用やセレギリン過量投与などによって、MAO-B選択性が低下した場合、交感神経刺激薬やチラミン含有飲食物との相互作用が問題となる。また、抗ドパミン作用を有する薬剤との併用は、セレギリンの薬効減弱を引き起こす可能性がある。

 具体的には、セレギリンとこれらの薬剤の併用により、(1)血圧上昇や頻脈などの交感神経刺激作用(2)幻覚、妄想、眠気、痙攣などの中枢神経系(CNS)作用(3)起立性低血圧、動悸、不整脈、消化器症状といったドパミン作動作用─などが現れる恐れがある(ケース1)。

 一方、ゾニサミドに関しては、セロトニン作動薬を含む抗うつ薬(セレギリンとの併用禁忌薬剤)との併用時にセロトニン症候群の発現に注意する。患者には、(1)体温上昇、異常発汗、高血圧、動悸、消化器症状(胃腸障害、吐き気、食欲不振、下痢)などの自律神経症状(2)筋強剛、振戦、反射亢進、緊張緩和の繰り返し(歯をがちがちさせる)などの神経・筋肉症状(3)混乱、興奮、錯乱、頭痛、昏睡などの精神症状─といった症状への注意を促す(ケース2)。

 プロプラノロールは、トリプタン系薬のMAO-Aによる代謝を競合阻害し、血中濃度を上昇させる可能性がある。また、いずれの薬剤もβ2遮断による末梢血管収縮作用を有していることから、著しい血管収縮が起こる恐れもある。トリプタン系薬のうち、リザトリプタンのみ併用禁忌とされているが、MAO-Aで代謝されるスマトリプタンとゾルミトリプタンでも注意すべきである。これらの併用時には、血圧上昇や末梢循環不全といった副作用症状の発現に留意する(ケース3)。

 当薬局で実際に対応した例を以下に示す。

 パーキンソン病と高血圧症のため(1)~(3)を服用中のAさんに、かぜ症候群のため(4)(5)が追加された。

 高齢者で代謝能が低下していること、またエフピー(一般名セレギリン)は主にCYP2D6および3A4で代謝されることから、クラリス(クラリスロマイシン)の強力なCYP3A4阻害作用によって代謝が阻害されてエフピーの血中濃度が上昇し、MAO-B選択性が損なわれる恐れがあると判断した。

 クラリス服用により血圧上昇、脈拍増加、起立性低血圧、不眠、吐き気など、いつもと違う症状が現れた場合は直ちに連絡するよう薬剤師が伝えたところ、Aさんはクラリス服用を拒否した。そこで処方医に連絡し、他の抗菌薬への変更を提案。その結果、クラリスからクラビット錠500mg(レボフロキサシン水和物、1日1回)へと処方変更になった。

 Bさんは、てんかんの治療薬として長年(1)のエクセグラン(ゾニサミド)を服用してきたが、うつ病も発症したため(2)のパキシル(パロキセチン塩酸塩水和物)が追加された。

 エクセグランとパキシルとの併用により、脳内5-HT濃度が上昇し、セロトニン症候群が発現する恐れがある。そのためBさんには胃腸障害、吐き気、下痢などの消化器症状やかぜのような症状(体温上昇、頭痛など)、また動悸、震えなどの症状に注意するよう説明した。

 幸いにもこれらの症状は認められず、パキシル投与量は漸増され10mgとなった。病状は安定しており、経過観察中である。

 本態性振戦でインデラル(プロプラノロール)が適応外処方されているCさんは、片頭痛を発症することがあり、年に数回程度、イミグラン(スマトリプタン)を服用している。インデラルとのMAO-Aの競合阻害や協力作用の結果、著しい血管収縮が起こったり、イミグランの血中濃度が上昇したりする可能性が考えられることから、Cさんには血圧上昇や手足の冷え、しびれ、変色といった末梢循環不全の症状に注意するよう指導した。

 現在のところ、これらの症状の発現は認められていないが、イミグランが処方された時は、常にこのような注意を促すようにしている。

(杉山薬局・ラララ薬局[福岡市]
落合寿史、杉山正康)

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