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特集:精神科
処方箋の裏側Special2012:精神科
日経DI2012年4月号

2012/04/10

日経ドラッグインフォメーション 2012年4月号 No.174

 「72歳の私に『隣の若い男に色目を使ってやがる。浮気しただろう』って怒るんですよ」。越谷太郎さん(仮名、76歳)と一緒に診察室に入ってきた奥様はこう訴えた。

 配偶者が浮気をしているという妄想は「嫉妬妄想」と呼ばれる。このほか越谷さんは、夜になるとイライラして機嫌が悪く家族に当たり散らしたり、眠れないといって夜中に起きたりすることもあり、奥さんはほとほと困っていた。越谷さんには脳梗塞の既往があるが、物忘れは軽度で、「認知症」とは確定診断されていない。

 越谷さんのような妄想や不安、不眠など心理行動症状(Behavioral and Psychological Symptoms of Dementia:BPSD)を抑えるために、私は非定型抗精神病薬であるオランザピン(商品名ジプレキサ)を極少量で処方している。

 オランザピンは、多数の神経伝達物質受容体に対する作用を介して、統合失調症の陽性症状のみならず、陰性症状、認知障害、不安症状、うつ症状などに効果を示すほか、錐体外路症状の副作用が少ないことも知られている。

 日本では、2000年12月に「統合失調症」の適応で承認され、その後「双極性障害における躁症状」、「双極性障害におけるうつ状態」の適応で承認を取得している。

 現在のところ、日本ではBPSDの適応は認められていないが、国際老年精神医学会ではBPSDに用いる薬剤の一つとしてオランザピンが推奨されており、エビデンスも示されている。

 オランザピンを統合失調症ないし双極性障害に使用する場合の開始用量は5~10mg/日、最大量は20mg/日とされているが、BPSDに対してはより少量の2.5mg/日から開始する。効果が不十分なときは7.5mgぐらいまで増量することもある。

 多くの場合、数日~数週間で症状の改善が見られるので、改善が見られたら徐々に減量し、さらに回数を減らして頓用にする。睡眠が取れるようになり症状が軽減すれば、治療を中止することができる。

 越谷さんには、初診時に「不穏時頓用」として、オランザピンを7回分処方した。7日後に再び診察室に入ってきた越谷さんの表情は穏やかで、付き添ってきた奥様も「夫の機嫌が良くなって、家の中が明るくなった」と喜んでくれた。

 なおジプレキサには耐糖能異常などの副作用がある。糖尿病の危険因子を有する患者に対しては、薬局でも口渇、多飲、多尿、頻尿などの異常に注意するように指導してほしい。(談)

獨協医科大学越谷病院
こころの診療科教授
井原 裕 氏
1987年東北大学医学部を卒業、自治医科大学精神科に入局。94年同大大学院修了。2001年英ケンブリッジ大学大学院博士号修得。順天堂大学医学部精神科准教授などを経て、現職。
(写真:山下裕之)

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