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特集:感染症科
処方箋の裏側Special2012:感染症科
日経DI2012年4月号

2012/04/10

日経ドラッグインフォメーション 2012年4月号 No.174

 「なんとか膝の再手術をしないで済む方法はないでしょうか」。肺癌で脳転移がある中山俊夫さん(仮名、77歳)は、65歳の時に右膝の変形性膝関節症のため、人工膝関節置換術を受けていた。1年ほど前、右膝の関節痛がひどく、赤く腫れて38℃台の熱が2~3日続いていると訴えて、当科を受診した。

 関節穿刺をしたところ、膿状の関節液から多量の黄色ブドウ球菌が検出され、化膿性関節炎と診断した。通常なら、すぐに人工膝関節を抜去して、感染が治まってから新しい人工膝関節を入れる再手術が推奨されるケースだった。

 だが77歳と高齢で、癌を患っている中山さんとそのご家族は、できるならば手術を避けたいと希望されたため、人工膝関節を保持する方向で治療を進めることになった。

 そこでまず、バンコマイシン塩酸塩の点滴静注を約1カ月間行った。その結果、熱が下がり右膝の腫脹も取れてきたため、退院して外来で治療を継続することにした。

 このような症例に処方するのが、ニューキノロン系抗菌薬のシプロフロキサシン(商品名シプロキサン他)と抗結核薬のリファンピシン(リファジン他)である。

 この処方については以前、薬剤師から「化膿性関節炎の治療に、なぜ結核の治療薬を使うのか」と聞かれたことがある。

 この質問に簡潔に答えるとすれば、「化膿性関節炎に対するシプロフロキサシン単剤での有効率は50~60%であるのに対し、リファンピシンと併用すると、ほぼ100%の有効率が得られることが海外で報告されているから」となる。

 シプロフロキサシンとリファンピシンを併用すると、なぜ高い治療効果が得られるのかについての詳細なメカニズムは、現在のところ明らかになっていない。一説には、人工関節の周囲に起こった化膿性関節炎では、黄色ブドウ球菌などがバイオフィルム(菌膜)を形成しており、抗菌薬が届きにくくなっているが、リファンピシンがそのバイオフィルムを破壊することで、シプロフロキサシンが効きやすくなるのではないかといわれている。

 いずれにしても、化膿性関節炎を内服薬で治療するためには、長期にわたって抗菌薬を服用する必要がある。特にリファンピシンは、肝機能障害を生じる恐れがあり、また肝薬物代謝酵素チトクロームP450(主にCYP3A4)を介した薬物相互作用もあるので、注意して使わなければならない。

 中山さんは、現在も人工膝関節を抜去することなく、シプロフロキサシンとリファンピシンの併用を続けながら癌と闘っている。(談)

静岡県立静岡がんセンター
感染症内科副医長
倉井 華子 氏
2002年富山大学医学部卒業。東京都立駒込病院レジデント、横浜市立市民病院感染症内科などを経て、10年から現職。
(写真:広瀬貴礼)

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