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特集:心臓外科
処方箋の裏側Special2012:心臓外科
日経DI2012年4月号

2012/04/10

日経ドラッグインフォメーション 2012年4月号 No.174

 大動脈弁狭窄症のため人工弁(機械弁)置換術を受けた大西百合子さん(仮名、62歳)は、小柄で普段から食が細い患者さんだった。術後10日を過ぎたある日、ベッドサイドに診察に行くと、「ただでさえ食欲がないのに、朝食後に飲む薬の量を考えると朝ご飯が食べられなくなっちゃって。ちゃんと食べないといけないとは思うのですが…」と話された。

 機械弁は弁の周りに血栓ができやすいため、人工弁置換術後は抗凝固薬(血液凝固阻止薬)であるワルファリンカリウム(商品名ワーファリン他)を服用しなければならない。一般には手術の翌日からワルファリンの投与を開始し、プロトロンビン時間国際標準比(PT-INR)の値が2.0~3.0の範囲になるように、ワルファリンの用量を0.5~1mg刻みで調節して最適な用量を探っていく。多くの場合は、術後10日~2週間ぐらいの入院期間中にワルファリンの最適な用量を見極め、その後は外来で用量を調節することになる。

 ところが、時にワルファリンを増量しても、なかなか目的とする効果が得られない患者もいる。大西さんも、そんな患者の一人だった。術後10日間、ワルファリンを増量し続け、9.5mgまで増量しても、やっとPT-INRが1.5前後だった。

 人工弁置換術の適応となる50代、60代になると、ほとんどの患者に基礎疾患があるものである。大西さんも高血圧と脂質異常症、骨粗鬆症があり、他科で処方されているそれらの薬も服用しなければならない。薬の多くは1日1回朝食後、1日2回朝夕食後などで処方されるため、特に朝食後に服用しなければならない薬の数が多くなる。これらに加えて術後は、利尿薬や整腸剤も服用してもらっていた。そして、ワルファリンが増量されていく……。大量の薬を服用するためには、かなりの水も飲むことになる。これは、食の細い大西さんにとっては非常につらいことだったのだ。

 大西さんのように、1錠でも薬を減らしてあげたいケースでは、私はワルファリンの量を減らすために、尿酸排泄促進薬のブコローム(パラミヂン)を併用している。

 ブコロームが肝薬物代謝酵素チトクロームP450(CYP)2C9を競合阻害することによって、ワルファリンの代謝速度が低下し、ワルファリンの抗凝固作用が増強される。このため、ブコロームの添付文書ではワルファリンは併用注意とされているが、この相互作用を逆手に取るのである。

 実際に大西さんは、ブコロームの併用により、ワルファリンを9.5mg(5mg錠1錠、1mg錠4錠、0.5mg錠1錠の計6錠)から3mg(1mg錠3錠)に減量することができた。

 大西さんのようなケースでなくても、ワルファリンの用量が多いと、体調や食事内容の変化などによる変動の幅が大きくなりやすい。また、錠数が増えるほど、誤って多く飲んだり足りなかったりする可能性が高まる。ワルファリンは生涯にわたって毎日飲み続ける薬であり、良好なコンプライアンスを維持するためにも、用量は少ないに越したことはないと考え、ブコロームの併用を考慮することがある。

 患者の多くは「ワルファリンは大切な薬」という認識があるのできちんと飲んでくれるのだが、時にブコロームの重要性をなかなか理解してもらえないこともある。両剤が処方された患者には、ブコロームを服用する前提でワルファリンが少なくなっていること、ブコロームを服用しないとワルファリンの効果が十分に得られないことを、薬局での服薬指導で繰り返し伝えてほしい。(談)

東京女子医科大学
心臓血管外科助教
津久井 宏行 氏
1995年新潟大学医学部卒業。2003年渡米。06年ピッツバーグ大学メディカルセンターAdvanced Adult Cardiac Surgery Fellow。09年より現職。
(写真:山下裕之)

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