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Interview
中野正治氏
日経DI2012年4月号

2012/04/10

日経ドラッグインフォメーション 2012年4月号 No.174

 全国に先んじて、訪問指導の依頼をネットワークで受ける仕組みを作った長崎の「P-ネット」。小規模薬局の連携によるこの試みは軌道に乗り、医師や看護師からの熱い信頼を獲得している。新・調剤報酬でも、サポート薬局制度の導入などで後押しされている小規模薬局の「在宅」は、どうやれば成功するのか。P-ネット世話人会代表の中野正治氏に、秘訣を聞いた。(聞き手は本誌前編集長、田島健)

中野正治氏(Masaharu Nakano)
 1982年、東京薬科大学薬学部卒業。ドラッグストア勤務などを経て、98年にあおぞら調剤薬局(長崎市)を開局。P-ネット発起人の一人で、2008年から世話人会代表を務める。長崎県薬剤師会常務理事。

―P-ネットの現状を教えてください。

中野 2007年に設立したP-ネットには、現在、長崎市内の薬剤師39人が所属しています。うち5人は病院薬剤師で、薬局数でいうと30薬局です。

 P-ネットは、主に長崎市内の医師からの訪問薬剤管理指導の依頼の受け皿になっています。事務局に依頼があったら、P-ネット会員のメーリングリストにその情報を流して、手挙げ式で担当する薬局を決める仕組みです。

─どんな経緯で設立したのですか。

中野 長崎には、「長崎在宅Dr.ネット」という、訪問診療を積極的に行う医師の組織があります。そのDr.ネットのある先生から「薬剤師に訪問の依頼を出したいんだが、知り合いの薬局に断られてしまった。どこに出したらいいのか教えてほしい」という話が来たんです。それを聞いて、「それはいかん」ということになって、医師からの依頼の受け皿となる組織をつくることになりました。

 最初に集まったのは、私を含めて5人です。受け皿になるなら、ネットワークを作った方がよいだろうということになって、それぞれの知り合いに声を掛けて、27薬局から始めました。

 その時点では、Dr.ネットのように事務局を置いて、依頼が来たらメンバーの誰かに受けてもらえばいい、と考えていました。でも現実には、形だけ作っても、依頼は出してもらえないんです。P-ネットの中の誰が受けるか分からない、どのくらいきちんとやってくれるか分からない、では、さすがにドクターも出してくれない。結局、最初の半年ぐらいは、ほとんど依頼は来ませんでした。

 半年を過ぎたころにそのことに気づいて、まずは自分たちからアピールしようということになって、関係先などに何回か説明をしたりしました。

 メンバーの知識やスキルを向上させるために、研修にも力を入れました。今も月に1回のペースで勉強会を開いています。勉強会を通じて、訪問指導のノウハウをP-ネットの全員が共有すれば、それを知った医師も「P-ネットに出せば、きちんと在宅業務をしてもらえる」と安心してくれます。また勉強会は、会員のモチベーションを維持するという意味も大きかったように思います。P-ネットという組織で在宅の依頼を受けるんだ、という意識付けにもなりました。

 それと、こうした勉強会は、経験のない人が経験のある人に聞けるという雰囲気も大事だと思います。友達なら普通に相談できますが、そうでないと意外に、同業者に相談したり、教えを請うことは、なかなかできない。でも、同じ目標を持った仲間が集うP-ネットの勉強会なら、経験のある人に気軽に色々と聞くことができるんです。

─全国にも似たようなネットワークがありますが、あまり機能していない例が多いようです。

中野 長崎では、数は少ないながらも、じっくりと実績を積み上げてこられたことが大きいと思います。初めは「試しに少し出してみるか」みたいな感じで医師から依頼が来るわけですが、そこでP-ネット会員がきっちりと仕事をしてくれたから、「それじゃあ、こっちの患者も出してみるか」となって広がっていく。

 実際に、P-ネットで受けた依頼の数は、2年目が一番多くて、次の年からは減ってきているんです。減るのは、最初にP-ネット経由で在宅を担当した薬局が評価されて、2回目以降はドクターが直接、その薬局に依頼しているからだと推測しています。よっぽど患者の家が遠いとかでなければ、2回目以降はわざわざP-ネットに依頼する必要がない。今現在、P-ネットで受けている依頼は年に数件ほどしかありませんが、P-ネットの会員が直接依頼を受けたものを合わせると、昨年1年間で、500症例を超える訪問指導を受けていることになります。

─ということは、ネットワークは最初こそ意味がありますが、だんだん意味が失われていくということですか。

中野 受け皿としての機能は、次第に薄れていくでしょう。そもそも、受け皿としてのネットワークは、ただの通過点にすぎません。われわれの本当の目標は、薬剤師が関与する在宅医療が地域の中で根付いていくことです。ネットワークがなくても、それが実現できるなら、それで構わない。極論すると、薬剤師がたくさんいるような大きな薬局がどーんとやってきて、その地域の在宅医療に薬剤師がちゃんと貢献できるようになるなら、それはそれで目的は達成できることになります。

 ただ、それだと、地理的にカバーできる範囲に限界があります。首都圏など人口が密集した大都会はいいんでしょうが、長崎市のように、ある程度の広さがある中核都市だと、いくら大きな薬局でも市内全域を1軒ではカバーできません。

 今回の改定で、16kmという距離制限ができたのもそうした理由なのでしょうが、やはり目の届く範囲ごとに在宅業務ができる薬局が点在していて、その薬局の薬剤師が、その地域の在宅医療の仕事を担う形が理想だと思います。

 さらに言えば、それぞれの薬剤師が一緒に研鑽を積んで、みな同じレベルの在宅業務ができるようにならなくてはいけない。P-ネットで行っている勉強会がその役割を果たし、長崎市全体の薬剤師による在宅業務のレベルアップにつながればよいと思っています。

─最初に声を掛けた27薬局は、どのように選んだのですか。

中野 5人の発起人が、知り合いに適当に声をかけました。この人なら受けてくれそうだなとか、前に在宅をやっていたと聞いたことがある、とか。

 必ずしも在宅業務の経験のある人ばかりではありません。今は世話人の一人で、大活躍しているアクア薬局の佐田悦子先生も、声をかけた時点では、在宅の経験はゼロでしたし、その頃は1人薬剤師の薬局だったんです。でも、その地域の薬局も必要だということで、一番信頼できる人に声を掛けた。結果的に、それが大正解でした。

 大切なのは、メンバーで地域全体をカバーできることと、会員全体の「質」でしょうか。全員が同じレベルで在宅業務ができないと、医師や看護師から信頼してもらえませんから。

─今回の調剤報酬改定で、訪問薬剤管理指導にサポート薬局という仕組みが導入されました。P-ネットでは、以前からその仕組みがありますね。

中野 P-ネットでは、サポーター薬剤師と呼んでいます。メーリングリストに情報を流して手挙げ式で担当者を決めるときに、サポーター薬剤師も決めます。サポーター薬剤師は、担当者が何らかの事情で訪問指導ができないときに代わりに訪問します。

 実際に、サポーターが出動するケースは多くありませんが、特にスタートから2年目くらいまでは、各会員に在宅の経験が不足していたので、比較的経験のある薬剤師がサポーターになって、色々と相談にのったりしていました。

 今回の改定で、サポート薬局の制度が認められたことは、われわれも歓迎しています。これまでは、サポートが出動した場合は、訪問薬剤管理指導料の算定はできない状況でしたから。

インタビューを終えて
 P-ネットの成功には、インタビュー中にも登場する「長崎在宅Dr.ネット」が少なからず影響しています。P-ネットのスタート前、「在宅に薬剤師なんて必要ない」と言っていたDr.ネットの医師に、今や「在宅の現場に薬剤師が来てくれて、本当に楽になった」とまで言わしめたそうです。そんなDr.ネット医師による座談会や、P-ネット会員薬剤師の活躍ぶりを収めた書籍『長崎P-ネット式 在宅事始め』を4月下旬に刊行します。ぜひご一読ください。(田島)

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