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適応外処方のエビデンス
ベル麻痺による顔面の神経麻痺症状をバラシクロビルが改善
日経DI2012年4月号

2012/04/10

日経ドラッグインフォメーション 2012年4月号 No.174

表1 ベル麻痺患者へのバラシクロビルの処方箋例

疾患概念・病態

 ベル麻痺は、原因不明の末梢性顔面神経麻痺を指す。英国の解剖学者、ベル(Sir Charles Bell)が初めて報告したことにちなんで、彼の名前が付けられた(参考文献1、2)。

 ベル麻痺には、顔面神経の膝神経節に潜伏感染していた単純ヘルペスウイルス1型(HSV1)が関与している。寒冷や抜歯などの何らかの刺激やストレスによりHSV1が再活性化すると、ウイルス性の神経炎が生じ、神経軸索を包んで神経突起を保護したり、電気的情報伝達をスムーズに行ったりする髄鞘が壊れて(脱髄)、麻痺が起こる。ヒトの顔面神経には、骨性の顔面神経管が細くて長いことや、ところどころに狭窄部位があることなどの構造上の特徴がある。そのため神経炎により生じた浮腫によって神経自体が神経管の中で圧迫され、絞扼と虚血を繰り返す悪循環が生じて、神経障害が重症化すると考えられている(参考文献1、3)。

 ベル麻痺の患者では、半側顔面全域に明らかな麻痺が見られる。安静開眼状態では、麻痺側顔面は健側に比べて額のしわが浅く、瞼裂が大きく、瞬目が弱く、口角が下がる。閉眼が不十分になると、乾性結膜炎となり、眼球結膜に充血を生じて兎目となる。麻痺側の口角から口中の空気が漏れてしゃべりにくくなり、食物、特に液体が漏れて食べにくくなる。

 他に、麻痺側のアブミ骨筋の麻痺により、鼓膜の緊張が増し、聴覚が過敏となり音が大きく聞こえる。中間神経の麻痺により、麻痺側の涙腺、唾液腺の分泌低下と舌前3分の2の味覚神経障害が生じる。また、約半数で耳介あるいは顔面の痛みやしびれを伴う。

 さらに、隣接する神経に異所性再生や混信伝導を起こすことにより、病的な共同運動が起こる。例えば、瞬きをすると口周囲筋を支配する神経にも活動が伝わり、麻痺側の口角が不随意に動く。また、唾液腺を支配していた副交感神経が大錐体神経へ異所性に再生すると、食事の際に涙が出たりする。障害部位近くの神経に異所性興奮が起こると、麻痺側顔面に不随意な筋痙攣が起こる(参考文献1)。

治療の現状

 ベル麻痺の症状をもたらす神経浮腫や神経内圧上昇の軽減、および二次的に得られる血流改善を目的に、プレドニゾロン(商品名プレドニン他)などのステロイドが使用される。ベル麻痺は通常1~3日で進行する傾向があるため、経口ステロイドは発症後3日以内に開始するのが望ましいが、遅くとも10日以内に開始する。

 ただし、ステロイドは、感染症患者、免疫抑制状態にある患者、糖尿病、消化管潰瘍、腎機能障害、肝障害、ウイルス性肝炎およびキャリアの患者、妊婦などに対しては、基本的に投与を避けることが勧められている。症状の程度により、投与の可否を検討する必要がある。

 ステロイドに加えて、HSV1に対する抗ウイルス効果を目的として、バラシクロビル塩酸塩(バルトレックス)が適応外で使用されている。中等症以上、特に完全麻痺および重度麻痺では、プレドニゾロンとバラシクロビルとの併用投与がプレドニゾロン単独に比べて寛解率が有意に高いことが報告されている(参考文献4~6)。

バラシクロビルの有効性

 ベル麻痺患者56例に、バラシクロビル(1回1000mgを1日3回7日間)とプレドニゾロン(50mgを1日1回5日間、その後、5日間かけて毎日10mgずつ減量)を投与し、薬物治療を行わなかった56例と比較した。症状が回復したのは、無治療群67.9%(38/56)に対して治療群では87.5%(49/56)と有意(P<0.05)に多かった。最終的に改善しないか悪化した割合は、無治療群17.9%(10/56)に対して治療群では1.8%(1/56)と有意(P<0.01)に少なかった。60歳を超える患者で完全に回復したのは、無治療群41.7%(5/12)に対して治療群では100%(10/10)と有意(P<0.01)に多かった(参考文献4)。

 発症7日以内のベル麻痺患者221例に、プレドニゾロン60mg/日を5日間、30mg/日を3日間、10mg/日を2日間と漸減して経口投与(漸減法)し、うち114例にはバラシクロビル500mg/回(VP群)、残りの107例にはプラセボ(PP群)を、1日2回、5日間経口投与で併用した。計10日間のプレドニゾロン治療の後、全例にビタミンB12製剤のメコバラミン1500μg/日を6カ月間にわたり経口投与した。

 その結果、回復した割合は、PP群89.7%(96/107)に対してVP群では96.5%(110/114)と有意(P<0.05)に高かった。重症度別に見ると、完全麻痺患者ではVP群90.1%(29/32)対PP群75.0%(21/28)、重度麻痺患者ではVP群98.3%(59/60)対PP群92.6%(50/54)で、いずれもVP群の方が高かった。

 発症後3日以内に治療を開始した患者の回復割合は、VP群96.6%(84/87)、PP群88.6%(78/88)で、バラシクロビルを発症早期に投与することで治療効果が高まることが示唆された。発症後4日以降に治療を開始した患者では、VP群96.3%(26/27)、PP群94.7%(18/19)で同程度だった(参考文献5)。

 ベル麻痺患者73例に、プレドニゾロンを先の報告と同じ漸減法で経口投与し、バラシクロビルは水痘・帯状疱疹ウイルス(VZV)感染症治療に相当する3000mg/日を7日間経口投与で併用した(VH群)。そして、プレドニゾロン漸減法単独の66例(P群)、およびプレドニゾロン漸減法にバラシクロビル1000mg/日を5日間併用投与した84例(VL群)と比較した。なお、全例に治癒もしくは発症後6カ月までの間ビタミンB12製剤を投与した。

 その結果、VL群はP群と比べて、平均治癒日数、治癒率ともに有意差は認められなかった(P=0.977)。しかし、VH群ではP群と比べて、累積治癒率が有意(P=0.0115)に高かった。副作用は各群とも見られなかった(参考文献6)。

作用機序

 バラシクロビルは投与後、速やかにアシクロビルに変換される。アシクロビルがHSV1、HSV2、VZVが感染した細胞内に入ると、ウイルス性チミジンキナーゼ(TK)により一リン酸化された後に、細胞性キナーゼによりリン酸化され、アシクロビル三リン酸(ACV-TP)となる。

 ACV-TPは、正常基質であるデオキシグアノシン三リン酸(dGTP)と競合して、ウイルスDNAポリメラーゼにより、ウイルスDNAの3'末端に取り込まれる。その結果、ウイルスDNA鎖の伸長を停止させ、ウイルスDNAの複製を阻害する。

 アシクロビルのリン酸化の第一段階である一リン酸化は、感染細胞内に存在するウイルス性のTKによるため、ウイルス非感染細胞に対する傷害性は低いものと考えられている(参考文献7)。

適応外使用を見抜くポイント

 患者本人の表情、経口ステロイド、バラシクロビル、メコバラミンの処方から、ベル麻痺への処方であることは見抜きやすい。そこに、ヒアルロン酸ナトリウム点眼液が併用されていれば、ほぼ確定的である。

 しかし、突発性難聴も原因としてウイルスが考えられており、同様の内服薬が処方されるので、患者に確認することが必要である。難聴では、内耳循環障害が原因の一つであるとの考えから、アデノシン三リン酸二ナトリウム(アデホスコーワ他)が併用されることが多い。

 当初、ベル麻痺の治療に使用された抗ウイルス薬はアシクロビルであった。バラシクロビル同様、プレドニゾロンとの併用による有効性が報告(参考文献8、9)されている。しかし近年は、アシクロビルよりバイオアベイラビリティーが高いバラシクロビルが多く用いられている。

参考文献
1)神経治療 2008;25:169-85.
2) Phil Trans R Soc Lond. 1821; 111: 398-424.
3)日本臨牀2006;64:267-80.
4) Ann Otol Rhinol Laryngol.2003;112:197-201.
5) Otol Neurotol.2007;28:408-13.
6) Facial N Res Jpn.2006;26:75-8.
7)グラクソ・スミスクライン株式会社.バルトレックス錠500・顆粒50% インタビューフォーム(第11版、2010年10月改訂)
8) Ann Otol Rhinol Laryngol.1996;105:371-8.
9) Otology & Neurotology.2003;24:948-51.

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