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漢方のエッセンス
其の七 黄連解毒湯
日経DI2012年4月号

2012/04/10

日経ドラッグインフォメーション 2012年4月号 No.174

講師:幸井 俊高
東京大学薬学部・北京中医薬大学卒業、米ジョージ・ワシントン大学経営大学院修了。中医師、薬剤師。2006年に完全予約制の漢方薬局「薬石花房 幸福薬局」を開局。

 熱は、人が生きていくために必要不可欠なものである。腰やおなかが冷えない方が、消化器系や婦人科系の疾患にかかりにくい。平熱が高い方が、低体温よりも免疫力は高い。しかしこの熱、一概に多ければいいというものではない。多過ぎると、病気や体調不良の原因になる。この場合の熱を「熱邪」(用語解説1)と呼ぶ。そして熱邪が原因で体調を崩しているときに役立つ処方の一つが、黄連解毒湯である。

どんな人に効きますか

 黄連解毒湯は「実熱」証を改善する基本処方である(用語解説2)。

 実熱は熱邪が勢いよく暴れている状態で、主に炎症の症状を指す。同時に自律神経系の興奮や異化作用の亢進、各種機能の亢進、充血も意味する。症状は激しく、進行が速い。この実熱に対し、もう一つの熱邪のタイプを「虚熱」という。こちらは熱を冷ます陰液(用語解説3)が不足するために相対的に熱邪が勢いを増している状態である。火が弱くてもやかんのお湯が少なければ加熱されやすいのと似ている。激しい炎症というよりは、熱がこもるような感じである(用語解説4)。黄連解毒湯は、これら2つの熱邪のうち実熱を改善する。

 実熱でみられる症状は、高熱、顔面紅潮、目の充血、体の熱感、口や喉の渇き、口が苦い、いらいらする、不眠などである。各種炎症や発疹、蕁麻疹、皮膚化膿症、酒さ鼻、感染症などと関係が深い。特に出血や発疹を伴う場合を「血熱」と呼ぶ(用語解説5)。

 実熱のうち、熱邪が五臓の心(しん)の機能を乱した証を「心火」という。中枢神経系や自律神経系、脳、心臓の亢進状態で、動悸、悶々として眠れない、夢をよく見る、そわそわ落ち着きがない、焦燥感、胸が暑苦しい、のぼせ、顔面紅潮、口渇、口内炎などの症状が現れる。かかりやすい病気には、自律神経失調症、不眠症、神経症、統合失調症などがある。

 実熱が肝(かん)に影響を及ぼすと「肝火」証になる。自律神経系や異化作用が過亢進し、いらいらする、怒りっぽい、あれこれ考えて寝つけない、胸脇部の張った痛み、割れるような頭痛、めまい、難聴、のぼせ、顔面紅潮、目の充血、口が苦い、尿が濃い、便秘などの症状が出る。自律神経失調症、神経症、更年期障害、高血圧、胆嚢炎、肝炎などと関係が深い。

 五臓六腑の胃に実熱が及ぶと「胃熱」証である。臓器の胃だけでなく、上部消化器系全体に熱証が生じ、上腹部の痛みや熱感、口臭、胸やけ、吐き気、呑酸、歯痛、歯ぐきからの出血などの症状がみられる。唇から胃・十二指腸あたりにかけて熱くなっている感じだ。胃炎、胃・十二指腸潰瘍、口内炎、歯周病などの病気になりやすい。

 本方は、「湿熱」証にも有効だ。湿熱は、熱邪とともに湿邪が生じている状態。炎症に加えて、体液の滲出や、水分の吸収・代謝・排泄障害がある。みられやすい症状は、口臭、口が粘る、口が苦い、歯や歯ぐきの痛み、吐き気、嘔吐、腹や脇の膨満感および痛み、黄疸、下痢、裏急後重(しぶり腹)、排尿痛、頻尿など。胃腸炎や肝炎など消化器系の炎症や、膀胱炎などの泌尿器系の炎症に相当する。

 黄連解毒湯は、熱が体の奥でしぶとく燃え、血液や尿が熱く色濃くなったような症状に効く。上記いずれの証でも、舌が赤く、舌苔が黄色いのが特徴である。この処方の出典は『外台秘要(げだいひよう)』(用語解説6)である。

どんな処方ですか

 配合生薬は、黄連、黄ごん(おうごん)、黄柏、山梔子(さんしし)の四味である。

 いずれも苦寒薬で、消炎解熱作用がある。黄連、黄ごん、黄柏は文字どおり黄色くて、苦い。山梔子はクチナシの赤い実だが、栗きんとんを黄色く染めるのに使われるとおり、煎液は黄色く、そして苦い。これらを合わせた本方は、とても黄色く、口が曲がるほど苦い。誤って液が服につくと黄色く染まる。漢方は、体に合っていればおいしいと言う人もいるが、この処方ばかりはどんなに合っていても苦いと言う人が多い。作用が強いので、胃腸が弱い人などには慎重に用いる。

 君薬の黄連は中焦や心(しん)の熱を冷ます。臣薬の黄ごんは上焦や腸の熱を瀉(しゃ)す。佐薬の黄柏は下焦の熱を冷ます。使薬の山梔子は三焦の熱を瀉し、諸薬を助ける。いずれの生薬にも抗菌作用や抗ウイルス作用があり、降圧、鎮静作用もある。以上、黄連解毒湯の効能を「清熱瀉火・解毒」という。

 発熱や口渇が激しければ白虎湯を合わせる。便秘には承気湯類を併用するか、三黄瀉心湯に変える。黄疸には茵陳蒿湯を加える。実熱が慢性化して陰液が枯れ、肌につやがないなど血虚の症状もある場合は、四物湯を併用する(用語解説7)。

 本方は二日酔いにも効果がある。アルコールは過度に飲むと体内で熱毒となり、頭痛、目の充血、口臭、ほてり、胃の不快感、濃い尿などの熱証を引き起こす。二日酔いで吐きそうなときの苦い漢方薬ではあるが、繰り返す醜態への反省の意を含めてこれを飲むと、すっと胃が楽になり、頭痛が消えていく。嘔吐、下痢など水っぽい症状があれば、五苓散を合わせ飲む。

こんな患者さんに…(1)

「胃が焼けるように痛みます。胸やけや吐き気もあります。病院で表層性胃炎と診断されました」

 胃粘膜に炎症があり、充血、出血、びらんが生じているという。口臭が強い。

 全て胃熱の症状である。黄連解毒湯を服用してもらったら、1カ月で完治した。

 逆に胃が冷えて痛むようなら呉茱萸湯、ストレスできりきり痛むなら四逆散が効く。

こんな患者さんに…(2)

「アトピー性皮膚炎です。痒みが強く、寝ている間にかいてしまいます」

 肘の内側と膝の裏側、首に赤い皮膚炎がある。皮膚は落屑し、熱感がある。かいた痕が出血している。病院の処方で外用薬を使っているが、夜間の痒みを抑えきれない。

 外用薬と一緒に黄連解毒湯を服用してもらったところ、1カ月で痒みが相当軽くなった。

 アトピーは虚熱の場合が多いので、本方を長期間続けることは少ないが、実熱なら効果がある。証をしっかり見極めて慎重に対応してほしい。

用語解説
1)熱邪は病邪「六淫」の一つ。自然界には「六気(風・寒・暑・湿・燥・火[熱])」があり、人はその中で暮らしている。ただしこれらが強くなり、人に病気を引き起こす状態になったとき、六気は六淫(風邪・寒邪…)と化す。
2)黄連解毒湯は全身の炎症に効くので「三焦の実火」を冷ます処方とされる。三焦とは上焦(胸から上)・中焦(体の真ん中)・下焦(臍から下)の総和で、全身を意味する。
3)陰液とは、人体の構成成分のうち血(けつ)・津液(しんえき)・精を指す。これらが不足すると「陰虚」証になり、虚熱が生じる。
4)虚熱の症状は、微熱、午後からの熱感、手のひらや足の裏のほてり、首から上ののぼせ、寝汗、唇や舌の乾燥などである。陰液が足りずに熱がにじみ出ている状態である。
5)血熱は虚熱で生じる場合もある。実熱による出血は、鼻血・喀血・血尿・血便など、突然で多量のことが多く、逆に虚熱による出血は、慢性化した皮膚炎・不正出血など、少量で繰り返し生じることが多い。
6)8世紀(唐代)に編纂された中国の古典医書。
7)黄連解毒湯に四物湯を合わせると温清飲になる。

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