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副作用症状のメカニズム
第19回 下血
日経DI2012年4月号

2012/04/10

日経ドラッグインフォメーション 2012年4月号 No.174

講師
名城大学薬学部
医薬品情報学准教授
大津 史子(おおつ ふみこ)
1983年、神戸女子薬科大学卒業。滋賀医科大学外科学第2講座勤務を経て、名城大学薬学部専攻科に入学。87年に同大学薬学部医薬情報センターに入職、同学部医薬品情報学講師などを経て、2008年から現職。
イラスト:長岡 真理子

症例
 72歳男性。2年前に心筋梗塞を発症し、その後、再発予防のためにアスピリンを服用している。来局時に顔色が悪かったので尋ねると、昨日、排便時に黒っぽいねっとりとした便が出て、めまいを起こしたとのこと。今日は、特にめまいなどの症状はないという。

 血液が肛門から排泄されることを「下血」という。健康診断などで行う便潜血反応が陽性であっても、下血とはいわない。

下血の色調と出血部位

 下血時の便の色調は、出血部位によって変化する。食道、胃から上行結腸までで、50~100mL以上の出血が起こると、血液は蠕動運動によって肛門まで送られる。この間に、血液中のヘモグロビンが胃液や腸内細菌の作用を受けて酸化し、塩酸ヘマチンやヘマトポルフィリンに変化して黒褐色となる(引用文献1、2)。さらに、腸内で発生する硫化水素などの影響で、ネバネバした悪臭を放つタール便となる。

 横行結腸から肛門までの出血では、塩酸の作用を受けないため、鮮紅色や暗赤色を呈することが多い。これは「血便」と呼ばれる。

 ただし、大量出血で腸管の蠕動運動が亢進すると、上部消化管出血であっても鮮紅色を呈することがある。また反対に、下部消化管出血でも、便秘で長時間、腸管内にとどまると黒色のタール便となることがある。

 上部消化管出血を伴う疾患としては、食道炎や食道静脈瘤破裂、胃潰瘍、十二指腸潰瘍、胃炎、胃癌、マロリー・ワイス(Mallory-Weiss)症候群などがある。

 上部消化管出血では、吐血を伴うことが多い。吐血とは血液が口から吐き出されることである。通常は、大量の出血があった場合に起こる。食道、胃、十二指腸からの出血では、大量出血時や出血直後には吐物が新鮮血色を呈する。例えば動脈性、噴出性の胃潰瘍出血の場合は、大量出血で胃液に触れる時間が短いので、鮮紅色の吐血になる。食道静脈瘤破裂では、静脈出血なので、やや暗赤色の吐血となる。

 しかし、胃十二指腸潰瘍などによる吐血では、出血から吐血までに時間がかかることが多いため、タール便と同様の機序で、ヘモグロビンが酸化して塩酸ヘマチンなどに変化し、黒褐色のコーヒーを抽出した残渣のような吐物となる(引用文献3)。

 下部消化管出血の原因としては、クローン病、潰瘍性大腸炎、感染性腸炎、出血性腸炎、大腸癌、痔疾などがある。これらの出血は、胃酸に触れないため、タール便のようにはならず、暗赤色のことが多い。痔疾は排便時のみに鮮紅色の出血がある。

 ちなみに、気管支や肺などの呼吸器疾患で血液を吐出する場合は、喀血という。咳嗽に伴い、鮮紅色の血液を吐出する。

 消化管出血は、消化器疾患以外でも起こり得る。例えば肝障害が進行すると、肝臓における蛋白合成ができなくなり、蛋白である凝固因子の産生が低下するため、出血傾向になる(引用文献4)。また、尿毒症でも血小板機能異常によって出血傾向が見られる。また、白血病などの血液疾患でも出血傾向が見られる。

 女性の場合は、下血ではなく、月経や性器出血によって便に血が混じっている可能性も考慮すべきである。

副作用による下血のメカニズム

 薬によって下血が見られるのは、食道や胃、腸に何らかの障害が起こった場合である。

(1)食道障害

 食道は、本来、食物を消化する器官ではないため、胃や腸の粘膜細胞よりも皮膚に似た細胞でできている。そのため、酸や刺激に対する防御機構が非常に弱い。食道に錠剤やカプセルが停滞すると、その内容薬物が溶け出すことがあるが、溶け出した薬物の性状(酸性、アルカリ性、浸透圧が高い、溶解するときに発熱するなど)によって、食道の細胞を直接、傷つけてしまうことがある。例えば、ビスホスホネート製剤は強い酸性で、水なしや少ない水で服用すると食道粘膜が傷害される。

 また、PTPシートの誤飲など、薬の包装による物理的な傷害もいまだに、多数報告されている。最近のPTPシートでは誤飲防止のため、1錠ずつ切り離せないようになっているにもかかわらず、患者自身が切り分けたり、医療従事者や介護者が1回分ずつに切り分けて配薬することにより、そのまま服用してしまうという事故が起きている(引用文献5)。

 食道が傷害された場合は、鮮紅色の吐血が起こることがある。また、胸骨の下あたりの痛みや嚥下障害、嚥下痛が併発することが多い。食道潰瘍は、患者側の要因で起こることが多いため、適切な指導で防止できる。

(2)胃、十二指腸、小腸の障害

 胃や十二指腸、小腸の障害を最も起こしやすいのは、非ステロイド抗炎症薬(NSAIDs)である。NSAIDsは、プロスタグランジンの合成を阻害することで薬効を示すが、この作用メカニズムが副作用に直結する。プロスタグランジンは、消化管の粘膜を防御する働きがあるため、NSAIDsでプロスタグランジンの合成が阻害されると、粘膜を保護する働きが低下し、胃粘膜は脆弱化し、その隙を狙って、胃酸やペプシンが消化管を攻撃する。すなわち自己消化が始まる。

 また、NSAIDsは分子量が小さいため容易に粘液層を通過し、胃粘膜を刺激して傷害を起こす一因になる。アスピリンを空腹時に2錠服用しただけでも、胃粘膜を内視鏡で観察すると胃壁がうっ血を起こしている様子を観察することができる(引用文献6)。

 日本においては、H.ピロリの感染がなく、NSAIDsの服用もない胃潰瘍の発生頻度は、数%程度と推定されている7)。2006年に上部消化管出血について行われたケースコントロール研究では、アスピリン以外のNSAIDsはオッズ比が6.1、アスピリンは5.5と報告されている(引用文献8)。

 米国の統計では、アスピリンもしくはNSAIDsの使用による死亡率は、100万人当たりに年間20~25人と推定されており、その3分の1が低用量アスピリンといわれている(引用文献9)。また、08年9月にドイツで開催された第30回欧州心臓学会では、低用量アスピリン、ピロリ感染と胃潰瘍、十二指腸潰瘍の関連について報告された。これによると、低用量アスピリン服用者におけるピロリ感染は、十二指腸潰瘍については有意なリスク因子だ(オッズ比:4.96、信頼区間:1.39-17.76、P=0.014)。また、100mg/日を超える群では、100mg/日以下の投与群に対する潰瘍発生のオッズ比が3倍近くになったと報告された。

 現在、NSAIDsの長期服用による胃・十二指腸潰瘍の予防に適応を有する抗潰瘍薬は、プロスタグランジン製剤のミソプロストール(商品名サイトテック他)のみである。ミソプロストールは、下痢、腹痛、腹満感などの消化器症状の発現頻度が高いため、患者の服薬コンプライアンスがよくないことがある。

 低用量アスピリン服用患者において、プロトンポンプ阻害薬(PPI)の併用が有意に消化性潰瘍の発生を予防したとの報告もある(引用文献10)。PPIでは、タケプロン15mg(一般名ランソプラゾール)に、低用量アスピリンやNSAIDs投与時における胃・十二指腸の再発抑制の適応があるが、NSAIDs潰瘍の予防には適応はない。また、NSAID潰瘍の予防や治療のためにH.ピロリ除菌をすべきか否かについては、一定の結論は出ていない。

 NSAIDsによって、胃、十二指腸、小腸が傷害されたときの下血は、黒色タール便のことが多い。吐血を伴う場合は、黒褐色のコーヒー残渣のような吐物となる。出血すると血液が不足するため、動悸、息切れ、顔色が悪いなどの貧血症状が見られることもある。

 併発する症状としては、胸やけ、消化不良、胃不快感、食欲低下、胃膨満感、腹満感、みぞおちあたりの痛みなどがあるが、無症状の場合も多く、突然の下血で気づかれることも多い。また、NSAIDsを服用しているため、痛みを感じにくい傾向にある。

 患者背景としては、消化性潰瘍の既往が挙げられる。胃壁が萎縮していると、胃壁の血液循環が悪く、胃粘膜が脆弱化するためである。また、加齢に伴い胃粘膜の萎縮も進む。さらに、ストレスで交感神経が興奮すると胃壁の血管が収縮し、血流が低下し、粘液の分泌も低下する。たばこ、コーヒー、香辛料、酒なども消化管出血を助長する。実際に、消化性潰瘍の既往、H.ピロリ感染、60歳以上、NSAIDs使用、ステロイド使用、クロピドグレル(商品名プラビックス)や抗凝固薬の使用患者で、消化管障害リスクが増加することが分かっている(引用文献11)。

(3)大腸障害

 大腸からの出血は、抗生物質によるものが多い。抗生物質が投与されることによって、細菌叢が変化することがその一因と考えられている。

 NSAIDsによる出血性大腸炎の機序は、消化性潰瘍とほぼ同じで大腸粘膜または栄養血管におけるプロスタグランジン合成阻害が主なものと考えられている。大腸の主な仕事である水分の吸収が阻害されるため、排泄される便は下痢になり、排便頻度が高くなる。大腸からの出血なのでトマトケチャップのような赤い便になる。併発症状としては、下腹部痛はほぼ必発で、悪心や嘔吐、発熱を伴うことも多い。さらに出血に伴う貧血が起こり得る。高齢者では、ひどい下痢から脱水を起こし、急性腎不全を起こすこともある。

(4)その他

 二次止血の異常、すなわち凝固系に異常が起こった場合は、関節内出血、筋肉内出血、臓器出血、月経過多、不正出血などが起こる。そのため、血尿、血便、吐血、喀血などが見られることがある。

 一方、消化管の異常などは起こっていないが、薬の服用によって便が着色する場合がある。特に、タール便のような黒い便は、タンニン酸アルブミン(タンナルビン他)、ビスマス製剤、鉄を含む製剤、プロトポルフィリン二ナトリウム(プロルモン他)などで観察される。いずれも成分が酸化、または硫化して、便に排泄されるため黒くなる。

 また赤色便は、セフジニル(セフゾン他)、テトラサイクリン系抗菌薬、塩酸ペンタゾシン(ペンタジン他)、リファンピシン(リファジン他)などで観察される。患者は、見た目の便の色の変化に非常に驚くので、事前の説明が必須である。

 さて、冒頭の症例について考えてみよう。薬剤師は、患者の話のうち、便がタール状であったことに着目。胃、十二指腸、小腸からの出血によるものだと考えた。アスピリンを服用していることを勘案し、NSAIDs潰瘍を疑った。ふらついたとの訴えは、貧血によるものと判断し、すぐに受診を勧めた。

 患者は、すぐに受診し、低用量アスピリンによる胃潰瘍と診断され、入院加療となった。

図2 副作用で下血が起こるメカニズム

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引用文献
1)南家貴美代、資格試験2007;48(10):56-7.
2)上藤和彦ら、外科治療1998;79(6):751-2.
3)森谷満、臨床研修プラクティス 2009;6:74-81.
4)檀和夫、Medical Companion 1982;2:1145-8.
5)厚生労働省『PTP包装シート誤飲防止対策について』
6) NHK取材班『驚異の小宇宙人体 消化吸収の妙』(日本放送出版協会)、1989年
7) Nishikawa K, et al. Eur J Gastroenterol Hepatol 2000;12:635-40.
8) Sakamoto C,et al. Eur J Clin Pharmacol 2006;62: 765-72.
9) Lans A,et al. Am J Gastroenteol 2005;100:1685-93.
10) Yeomans N, et al. Am J Gastroenterol .2008;103: 2465-73.
11) Lans A,et al.Curr Med Res Opin 2007;23:163-73.

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