皆さん、こんにちは。神戸市ポートアイランドにある兵庫医療大学薬学部の清水忠です。今回から、本コラムで化学構造式の楽しみ方について紹介をしていきます。どうぞよろしくお願いします。

 さて、読者の皆さんは「化学構造式」や「有機化学」にどのようなイメージを持っていますか? 大学時代に学習した「SN2反応」や「Friedel-Crafts反応」と言った多くの有機反応名や、反応が起きる様子を電子の巻矢印で書いたことを思い出す方もいるのではないか思います。

 もしかしたら、一部の読者の方は大学時代の有機化学のトラウマから「化学構造式は見たくない!」と感じている方もいるのではないでしょうか。ところが、“化学構造式=薬のカタチ”をよ〜く見ていると、医薬品の薬理作用、物性、薬物動態の知識とつながってきたりします。

 本コラムでは、医薬品の化学構造式を楽しむための基礎的な考え方について紹介します。既に医薬品の化学構造式を臨床現場で活用することについて解説している良書は複数ありますが、ここではウェブ連載の特徴を生かして、読者の皆さんから頂いたコメントの中で、もし、化学構造で解説できる事例があれば、この場で取り上げていきたいと考えています。ぜひ、皆さんと一緒に考えていく連載になればうれしいです。

化学構造式から薬の類似性を理解しよう

 第1回は、生体内物質と医薬品との類似性について紹介します。まず初めに、糖尿病の薬物治療に使われる血糖降下薬(α-グルコシダーゼ阻害薬)を題材に、グルコースとの類似性を見てみましょう。

 ショ糖はグルコースとフルクトースがグリコシド結合でつながった構造をしています。小腸粘膜に存在するα-グルコシダーゼと呼ばれる酵素は、このショ糖の構造を認識し、グリコシド結合を加水分解して、ショ糖をグルコースとフルクトースに分解します(図1)。ここで生じたグルコースが小腸から吸収されてヒトのエネルギー源となります。

図1 α-グルコシダーゼによるショ糖の加水分解(模式図)

 健常人では血液中のグルコース濃度(血糖値)は一定の範囲で調整されますが、糖尿病の患者さんは血糖値が高くなり過ぎないようコントロールする必要があります。そこで、血糖コントロールを行う薬物治療戦略として、α-グルコシダーゼがショ糖を認識できないようにするという方法が考えられます。

 α-グルコシダーゼがショ糖を認識する際は、図2の模式図で示すようなα-グルコシダーゼに存在する凹みの部分(鍵穴)が重要な役割を果たしています。α-グルコシダーゼ阻害薬はこの凹みの部分に結合して、α-グルコシダーゼがショ糖を認識することを防ぎます。ということは、同じ凹みに結合するグルコースとα-グルコシダーゼ阻害薬は「α-グルコシダーゼが勘違いしちゃうほどカタチが似ているのではないか?」ということが予想されます。

図2 α-グルコシダーゼ阻害薬による阻害のイメージ

 それでは、グルコースとα-グルコシダーゼ阻害薬であるボグリボース(商品名ベイスン他)、ミグリトールセイブル他)の化学構造式を見てみましょう(図3)。

図3 グルコースとα-グルコシダーゼ阻害薬(ボグリボース、ミグリトール)の構造

 ボグリボースミグリトールも、グルコースに非常に似ていると感じませんか?どちらも、グルコースに類似した糖鎖の構造を手掛かりとしてデザインされた医薬品ですので、グルコースとの類似性が高くなっています1〜3)

 1例ではありますが、医薬品のカタチをよく見ると、生体内物質と医薬品の類似性、同効薬の類似性について理解できそうだなと少しでも感じてもらえたらと思います。

 では、今回のトピックとなった化学構造の類似性について宿題を出題します!次回は、この宿題の解説を行いながら、もう少し類似性について皆さんと一緒に考えようと思います。

今日の宿題

 生体内のナトリウム・グルコース共輸送体(SGLT)2を阻害する医薬品は、A〜Cのどれでしょう?図3のグルコースの構造から予測してみましょう。

[参考文献]
1)ベイスン錠 インタビューフォーム
2)有機合成化学協会誌 2000;58(5):485-7.
3)セイブル錠 インタビューフォーム