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日経ヘルスケア12月号特集「胎動する認知症マーケット」より
見守りシステム刷新で重大事故が10分の1に激減

 国が認知症対策に本腰を入れる一方、認知症分野で商品・サービスの開発に乗り出す一般企業も目立ってきました。医療・介護現場でも、認知症に対して「効果的・効率的ケア」「予防」の両面からのアプローチが広がりつつあります。

 医療・介護の経営誌日経ヘルスケア12月号特集「胎動する認知症マーケット 『予防』『効果的・効率的ケア』の実現が軸」から、新システムの導入により事故防止や職員の負担軽減などの成果を上げた先進事例の一部を紹介します。
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社会福祉法人緑愛会・あたご苑(東京都あきる野市)

 介護施設や高齢者住宅では認知症の入所(居)者が多く、徘徊や転倒の危険性が常に伴う。人手の少ない夜間は特にそのリスクが高まるだけでなく、介護職員の負担は大幅に増す。そこで、入所(居)者の室内での行動を見守るセンサーを導入するケースが増えている。

 「見守りセンサーの機能強化により、重大事故の減少と介護職員の負担軽減を実現できた」──。社会福祉法人緑愛会が運営する特別養護老人ホーム「あたご苑」(東京都あきる野市)の理事・施設長の増田俊一氏はこう振り返る。

(※クリックすると拡大表示されます)

 1986年に開設された同施設は、東京の秋川渓谷などに近い自然豊かな地にある。入所定員100人、全室が4人居室の多床室型特養で、3つある各フロアには32~34人が入所する。

 同施設が見守りシステムをリニューアルしたのは2018年2月のこと。それまでのシステムは、各入所者のベッドサイドに敷いたセンサーマットで移動を感知したり、入所者から呼び出しの連絡があると、職員室にコールが届くと同時に居室の廊下のランプが点灯する仕組みだった。

 しかし、コールが鳴るのは入所者ごとではなく4人居室単位だったほか、職員は事前に入所者がどんな状態なのかを把握することはできなかった。そのため、職員はまず居室に駆け付けて4人の中のどの入所者からのコールなのかを確認した上で、どうして連絡が来たのかを調べなければならなかった。

 介護課介護室室長の阿部豊志也氏は、「特に1フロアを1人で担当する夜勤では、毎回急いで居室に向かわなければならず、職員の身体的・精神的な負担は大きかった」と語る。

居室単位から個人の見守りに

 そこで、センサーとスタッフステーションへのコールシステムを刷新。以前からフランスベッド(株)(東京都新宿区)のベッドを使っていたので、2018年2月に同社のセンサー内蔵型ベッド「見守りケアシステムM-2」を新たに9台導入。コールシステムは、(株)平和テクノシステム(静岡県沼津市)の「Yuiコール」を採用した。さらに同施設の改修に伴い、館内に無線LANのWifiも整えた。

 新システムでは、ベッド上での入所者の動き出し、起き上がり、端坐位、離床の動作を感知。各フロアの職員室に設置したモニターで、入所者の各動作をリアルタイムに確認できる(図1)。さらに、入所者の状態やリスクに合わせてどの動作が生じたらコールが鳴るようにするか選択が可能になった。

図1 あたご苑の見守りセンサーシステムの概要
(※クリックすると拡大表示されます)

 同施設では、見守りセンサーの見直しに先駆けて情報室を設置し、室長の大原俊之氏を中心に入所者の状態や事故に関するデータを収集して分析した。結果、特に注意して見守る必要のある入所者は全体の約3割と判断。具体的には、認知・身体機能の低下により移動などの日常生活動作が低下している入所者だ。

 大原氏は、「認知症スクリーニング検査の長谷川式簡易知能評価スケールで調べると、健常な入所者は100人中10人いるかどうか。それだけ認知症の人が多く、徘徊リスクだけでなく、歩行困難なのに無理に歩こうとして事故が起きるリスクが高まっていた」と話す。

 見直し後は、コールが鳴ったら基本的に近くにいるスタッフが対応するほか、PHSから該当の入所者に話し掛けることもできるので、職員は緊急の状態でなければ急いで駆け付ける必要がなくなった。阿部氏は、「入所者の元に行く前にコールが鳴った理由も分かり、職員の心理的・身体的負担が大きく減った」と評価する。新システムを整える前は年10件前後起きていた重大事故(自治体への報告が義務付けられている死亡事故、継続治療や入院が必要な負傷など)も、今年は1件にとどまっているという。

左から社会福祉法人緑愛会 の増田俊一氏、浅岡恵子氏、 阿部豊志也氏、大原俊之氏

高額投資だが介護の効率化を優先

 新システムの導入費用は、「見守りケアシステムM-2」が1台約27万円、「Yuiコール」とWIfi工事がそれぞれ約994万円。「見守りケアシステムM-2」に関しては、都の「次世代介護機器の活用支援事業」から1台10万円の補助を受けた。

 管理課課長の浅岡恵子氏は「大きな投資だったが、介護の効率化が求められる中、必要な対応のため施設長らと何度も話し合って決定した」と振り返る。今後は補助金の活用などを視野に入れて、より多くの見守りセンサーを導入したい考えだ。

 このほか同施設では、育児休暇などの働き方改革や入浴作業の専門職の配置、給与の改善などを実施。見守りセンサーの刷新の効果と相まって職員の離職率は1桁台にとどまっているという。今後は、入所者ごとにコール状況などを詳細に分析し、より効果的・効率的な介護を実現していく考え。どういう状態の入所者がどんなときに介護が必要になるのかが分かれば、予防的介護も可能になるわけだ。


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