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科学的介護情報システム(LIFE)のデータ収集・活用のポイント(第3回)
LIFEの事業所データで他法人との比較・分析を
書籍『サバイバル時代の介護経営メソッド』より

 2021年度介護報酬改定では「科学的介護情報システム」(LIFE)への対応が多くの加算で要件化。算定の可否が介護経営を大きく左右するようになった。データ収集・活用など科学的介護の取り組みで先行する社会医療法人寿量会の野尻晋一氏に、その実践のポイントを3回にわたって解説してもらう。

(※この記事は書籍『サバイバル時代の介護経営メソッド』の内容の一部です。本稿に加えて、LIFEの申請手順や各種の実務、データ活用の方法や実例などは書籍で詳述しています。また、野尻氏が講師を務めるオンラインセミナー「LIFEへの対応、先行施設に見る導入・活用方法」が11月28日に開催予定です)

※前回の続き
(3)フィードバック結果の活用(事業所データの活用)
 事業所単位のVISITデータは、3カ月ごとにフィードバックされていた。まず利用者全体の基本属性に関する情報として下記の情報がある。
①年齢階級別人数(要介護度別)
②機能障害別人数(要介護度別、男女別)
③ADLスコア(要介護度別)
④IADLスコア(要介護度別)

 これらに加えて、リハビリテーションの提供内容に関する下記の情報が示された。
⑤リハビリテーションマネジメント/リハビリ提供状況
⑥リハビリ内容別人数(要介護度別)
⑦リハビリテーション内容別人数(要介護度)
⑧リハビリテーションの提供頻度、事業所のサービス内容

 そしてリハビリテーションの効果として、
⑨ADLスコア(BI)
⑩IADLスコア(FAI:Frenchay Activities Index)
の合計スコアの経時的変化とそれぞれの下位項目の変化がフィードバックされた。

 これらのデータは、事業所で使用しているカルテや請求ソフトからも得ることはできる。だが、VISITでは定期的にかつ経時的にデータを整理してフィードバックされるため、事業所全体から見た利用者像の変化や職員の提供サービスの変化を捉えて事業所の運営に活用しやすい。それでもVISITに限れば、事業所単位のフィードバック情報の分析結果を施設運営に十分生かせるとまでは言えない。

 その点、LIFEではリハビリテーションに特化したものではなく、複合的な視点でフィードバックされるので、大いに期待したい。

(4)事業所データフィードバックの課題
 前述した通り、利用者個人の変化を全国の同じような状況の他者と比較した内容については、個人のフィードバックデータで確認できる。だが、同じような利用者へのアプローチの効果(個人ではなく集団に対しての効果のデータ)が他の事業所より劣っているのか、あるいはより良い結果を出しているのかは、VISITのフィードバックでは十分に分からない。取り扱いや表現が難しいところだが、今後LIFEでは可能な限り詳細なフィードバックが求められる。

(5)事業所独自のデータ活用
 介護記録ソフトがLIFEに対応している場合、提出前にCSVデータとしてまとめて出力される。そのデータをエクセルやアクセスなどのソフトで別途管理し、介護記録ソフトにはない他のアセスメント結果をカルテ番号等でひも付けすることによって、施設の研究発表や独自のフィードバック用紙の作成などにも応用できる。

(V)LIFE導入で期待できる経営面の効果

 筆者がVISITのデータを活用した経験から、LIFEを導入した際に経営面でどんな効果を期待できるのか、以下で述べてみたい。

(1)ケアの質向上および利用者満足度向上
 2015年度介護報酬改定で通所リハビリテーションのリハビリテーションマネジメントが手厚く評価されたのに続き、2018年度介護報酬改定ではVISITが導入され、データ提出とフィードバック情報の活用を要件とするリハビリテーションマネジメント加算(IV)が新設された。リハビリテーション計画への医師の関与や利用者・家族への説明・同意を要件とするリハビリテーションマネジメント加算(III)を算定している事業所で、VISITへデータを提出した場合、3カ月に1回、加算(III)より月100単位多く算定できる。当通所リハビリ事業所では2018年度からほとんどの利用者でリハビリマネジメント加算(IV)を算定していた。

 加算を算定すれば利用者負担が上がることを踏まえ、導入前にはケアマネジャー、利用者、家族を対象にリハビリマネジメントの意義と重要性を伝える説明会を30回程度実施した。一部のケアマネジャーやご家族からは「経営のための加算ありきの方針ではないか」などの批判も受けたが、医師も一緒になってリハビリテーション会議やアセスメントの内容を丁寧に説明するとともに、リハビリ・ケアを見直した結果、状況が好転。1年後およびその後の毎年の調査で利用者・家族の満足度は年々向上し、現在では80%以上の利用者・家族から「大変良い」との評価を受けている。これにより、通所リハビリの利用者の安定確保にもつながっているのは言うまでもない。

 LIFEの導入に当たっては、「厚生労働省にデータを提出し、結果がフィードバックされます」と説明するだけだと、利用者・家族に理解してもらうのは難しい。LIFEの結果が現場のリハビリ・ケアに生かされている実感がなければ利用者・家族の満足度は高まらない。形だけのデータ提出にならないよう、LIFEを活用した取り組みをケアマネジメントやリハビリマネジメントのPDCAサイクルにしっかり組み込むことが重要である。

(2)増収効果
 当事業所では、VISITを導入した初年度からデータ活用に積極的に取り組んだ。利用者の90%以上がリハビリテーションマネジメント加算(IV)の算定対象であるため、特に1年目の2018年の作業量はかなりのものだった。正直なところ、3カ月に1回、加算(III)より100単位収入が増えるだけでは、残業代にもならなかった。だが将来の方向として、「科学的介護の実践に向けたデータの提出からは逃げられない」と考え、いち早く取り組む決断を下した。

 2021年度介護報酬改定では、リハビリ・機能訓練、口腔、栄養の領域でLIFEへのデータ提出を要件とする多くの加算が設けられた。100人定員の通所リハビリテーション事業所で利用者の8割程度にLIFE関連の加算を算定できたと仮定した場合、年間120万円前後の増収となる。大幅な増収になるとは言えないが、前述したようにデータ提出に対応している介護記録ソフトであれば入力・提出業務はかなり省力化できる。

 フィードバックの仕組みを利用したリハビリテーション・ケアの質の向上をはじめ、ICT環境の整備に伴う労働生産性の向上、今後の介護報酬改定への対応など、間接的に収益増につながる要素も多い。

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連載の紹介

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