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ケースに見る訪問看護の事業成功のヒント(第3回)
訪問看護でリハビリ職の配置割合を抑える秘策
書籍『サバイバル時代の介護経営メソッド』より

 2021年度介護報酬改定では、団塊世代が75歳以上の後期高齢者になる「2025年」、現役世代が劇的に減少する「2040年」を見据え、数多くの見直しが行われた。民間企業の中には、高収益の事業モデルを創意工夫で編み出し、改定にもいち早く対応した経営者が登場。介護サービスを提供する病院・診療所にとって、その経営手法から学ぶべき点は多い。

 訪問看護は地域包括ケアシステムを担う主力サービスの1つ。その事業成功のポイントについて、(株)在宅支援総合ケアーサービス(千葉市稲毛区)代表取締役の依田和孝氏に3回にわたって解説してもらう。
(※この記事は書籍『サバイバル時代の介護経営メソッド』の一部です)

POINT⑧
経営面の相乗効果を狙い
グループの医療法人を設立

(株)在宅支援総合ケアーサービス代表取締役の依田和孝氏

 当社では、介護と医療の経営面の相乗効果を見込んで、訪問看護事業への参入当初から医療法人の設立を準備してきた。要介護高齢者の医療ニーズと介護ニーズの両方に対応できれば、地域包括ケアシステムの中で利用者の在宅生活の継続を手厚くサポートし、より安定した経営モデルを構築できると考えたのだ。

 人材紹介会社経由で招き入れた60歳代の医師に院長を務めていただく形で、2017年に在宅診療を主に手掛ける「稲毛駅前ホームクリニック」を開業。訪問リハビリテーション事業所も併設した。2020年には組織を法人化して医療法人社団響心会を設立し、院長が理事長、私が理事に就任した。

 理事長医師には訪問看護の利用者の訪問診療を担当してもらっている。訪問診療の患者数の増加に伴い、2020年には2カ所目となる分院「稲毛ベイサイドホームクリニック」を開業。2021年4月現在、医療法人としては2カ所の在宅医療クリニック、2カ所の通所リハビリ事業所、1カ所の訪問リハビリ事業所を運営するまでに拡大した。当社の居宅介護支援事業所に在籍する13人のケアマネジャーが訪問看護と訪問診療の連携を強め、訪問看護の利用者に在宅医療クリニックを紹介したことも訪問診療の患者増加を後押しした。訪問診療では1日10件の患者を診れば月800万円の収入を得られ、法人経営も安定している。

 在宅医療クリニック、訪問看護ステーション、居宅介護支援事業所がそろうと、新規の患者・利用者をグループ内にワンストップで確保でき、経営面の相乗効果が大きいことが分かるだろう。

POINT⑨
「看護師割合」を求める要件にも
グループの医療法人が対応可能

 2020年11月、介護現場に衝撃が走る出来事があった。2021年度介護報酬改定の方向を議論していた厚生労働省社会保障審議会・介護給付費分科会で、訪問看護の人員配置基準に「看護職員が6割以上」の要件を設ける案が示されたのだ。理学療法士(PT)や作業療法士(OT)などを多数配置し、実質的に訪問リハビリテーションを提供する訪問看護ステーションがここ数年急増していることへの適正化の方策と考えられる。

 これに対して、リハビリ職の各団体が「人員配置基準を満たせないステーションが撤退すれば、リハビリを受けられない高齢者が発生する地域が出る」「リハビリ職の雇用の受け皿がなくなる」と強く反対。結局、同案は白紙撤回された。それでも次の2024年度改定では再び人員基準の見直しが議論され、「看護師を中心とするケアは訪問看護ステーションで、リハビリ職によるケアは訪問リハビリテーション事業所で提供する」というすみ分けが明確になっていくだろう。

株式会社のリハビリ職を医療法人へ移籍
 大きな問題は、現行制度で訪問リハビリ事業所の運営が営利法人に認められていない点だ。仮に訪問看護の人員基準が見直されれば、リハビリ職の配置割合が高い訪問看護ステーションを持つ民間会社は、PTなどの雇用の受け皿を別に確保しなければならない。対応は非常に難しいが、方策の1つとしてグループ法人の医療法人を設立し、リハビリ職を配置転換する道がある。

 事実、当社はグループ内で医療法人を持っていたことが功を奏した。株式会社に勤務するリハビリ職を2020年に順次、医療法人に移籍させ、訪問看護ステーションのリハビリ職の配置を一定割合以内に抑えた。給与などの待遇条件は株式会社と医療法人で同じだ。これにより、介護保険サービスの訪問看護は株式会社の訪問看護ステーションが担い、訪問リハビリは医療法人の訪問リハビリ事業所が行うように機能を分担。次期改定で訪問看護の人員基準に看護師の配置割合が仮に導入されても、対応可能になった。

POINT⑩
医療法人が軽度者の訪問リハを担当
「看護体制強化加算」の要件をクリア

 2021年度介護報酬改定では訪問看護の人員基準における看護師割合の要件化が見送られたが、その代わりに「看護体制強化加算」の算定要件に「事業所の職員のうち看護職員が6割以上」が新たに導入された。2022年度末までの経過措置が設けられたが、それでも前述の通り、当社は既に要件をクリアできる条件を整えている。

 看護体制強化加算の算定要件の1つは、末期癌など医療ニーズの高い利用者の受け入れを評価する「特別管理加算」の算定者割合が20%以上であること。併せて、ターミナルケア加算の算定者が過去12カ月間で5人以上の要件を満たせば上位区分の看護体制強化加算(I)(550単位/月)を、同1人以上だと加算(II)(200単位/月)を算定可能だ。加算の報酬単価が高いため、取得できれば訪問看護の経営はかなり安定化する。

 当社の訪問看護ステーションでは2021年4月現在、利用者約550人のうち特別管理加算の算定者が3割以上を占め、看取り件数も毎月発生するため、看護体制強化加算(I)を取得している。本連載「ケースに見る訪問看護の事業成功のヒント」の第1回で述べたように、算定要件となる看取り件数の実績を本体事業所とサテライト拠点で合算できることが強みだ。また、リハビリ職の医療法人への移籍に伴い、リハビリのニーズが高い軽度者を訪問リハビリ事業所で受け入れたことも、重度者の割合を高く維持できる要因の1つになっている。

訪問リハビリでは医師の業務支援が鍵に
 ただし、医療法人の訪問リハビリ事業所の運営には難しさもある。3カ月に1回、事業所の医師による診察が必要になり、診察できなければ基本報酬が50単位の減算になるためだ。

 減算を受けない運営体制を築くには、事業所の医師のスケジュール管理がポイントになる。医療法人社団響心会の場合、本部の職員が事前にグループウエア内のカレンダーで各利用者に対する医師の診療予定を組んでいる。このほか「リハビリテーションマネジメント加算」のうち、リハビリ計画書への医師の関与を算定要件とする上位区分の加算(B)イ(450単位/月)、ロ(483単位/月)を取得するため、Zoom等のオンライン形式で医師がリハビリ会議に参加できる環境も整えている。

POINT⑪
看護師中心のステーション経営で
中重度者ケア中心の経営を目指す

 介護保険財政の逼迫した情勢を踏まえれば、今後、介護報酬の大幅な伸びは見込めない。中重度者ケアを担う訪問看護への追い風はまだ続くと思われるが、リハビリ職の配置が中心の訪問看護ステーションへの締め付けには注意を要する。看護師による中重度者ケアを特色に経営モデルを構築する必要があるだろう。

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 国内の少子高齢化の進展で、将来、医療・介護・年金の財政の逼迫が大きな問題になります。2020~30年代に15~64歳の生産年齢人口が急速に減少し、2040年には1人の高齢者を1.5人の現役世代で支えなければなりません。いわゆる社会保障の「2040年問題」です。
 介護の問題に置き換えれば、介護保険の財政や制度運営が厳しくなるのはもちろん、高齢者の介護を担う人材の不足が深刻化します。介護事業者は、限られた介護職員や経営資源で質の高いケアを効率的に提供できるサービス提供体制を早期に構築しなければなりません。
 そんな問題意識から、本書では「2040年問題」を克服する経営手法のヒントを提示しました。後期高齢者が急増する2025年のさらに先、2040年も見据えた2021年度介護報酬改定の内容を踏まえ、地域包括ケアシステムにおける介護事業の成功の秘訣、新たにスタートした「科学的介護情報システム」(LIFE)の詳細、介護現場でのICT(情報通信技術)の活用事例などを網羅。今後、経営戦略を検討される介護事業者にとって必携の1冊です。

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連載の紹介

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