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ケースに見る訪問看護の事業成功のヒント(第2回)
高額の「訪問手当」で看護師の重度者対応を促す
書籍『サバイバル時代の介護経営メソッド』より

 2021年度介護報酬改定では、団塊世代が75歳以上の後期高齢者になる「2025年」、現役世代が劇的に減少する「2040年」を見据え、数多くの見直しが行われた。民間企業の中には、高収益の事業モデルを創意工夫で編み出し、改定にもいち早く対応した経営者が登場。介護サービスを提供する病院・診療所にとって、その経営手法から学ぶべき点は多い。

 訪問看護は地域包括ケアシステムを担う主力サービスの1つ。その事業成功のポイントについて、(株)在宅支援総合ケアーサービス(千葉市稲毛区)代表取締役の依田和孝氏に3回にわたって解説してもらう。
(※この記事は書籍『サバイバル時代の介護経営メソッド』の一部です)

POINT④
外部のコールセンターと提携し
緊急連絡を担当看護師へ振り分ける

(株)在宅支援総合ケアーサービス代表取締役の依田和孝氏

 当社では、1人の看護師が15~20人の利用者を担当し、自分の担当以外の利用者からのコールは受けないのがルール。他法人のコールセンターと提携し、利用者や家族からの緊急連絡などを担当スタッフに振り分ける仕組みを導入している点も、看護師にとってはメリットが大きい。

 コールセンターを運営するのは、首都圏で訪問診療クリニックを展開する医療法人社団悠翔会(東京都港区)の関連法人である。沖縄県内にあるコールセンターの職員が当社の訪問看護の利用者・家族の連絡を受けると、「ただ今、担当の看護師におつなぎします」と伝え、該当する看護師へ転送する仕組み。あくまでもファーストコールに対応するのは、コールセンターではなく担当看護師という位置付けだ。看護師がオンコール対応で感じるストレスの1つとして、自分の担当以外の利用者・家族からの電話がかかってくる点が挙げられるが、この負担が解消されたため就労環境は大幅に改善した。

POINT⑤
重度者の受け入れを促すため
「訪問手当」を創設

 当ステーションでは重度者の受け入れを促すため、手当を設けて職員のモチベーションアップを図っている。各看護師が担当する利用者は会社側が決めるため、ケアの負荷が大きい重度者を担当することも少なからずある。そこで、常勤の訪問看護師の場合、月24万円の基本給に加え、訪問看護に従事する時間に「訪問手当」として1時間2200円を支払う。この手当が、重度者を担当するインセンティブとなっている。

 1日5件、5時間訪問すれば1万1000円、月20日に換算すれば22万円が基本給の24万円に加算され、総額46万円になる。訪問看護の介護報酬を1時間当たり9000円とすれば、1日5時間で4万5000円、20日間で収入は90万円。看護師に高額の手当を支給しても人件費が6割程度になり、事務経費、家賃、車両リース費などを勘案しても、利益を2割程度確保できるわけだ。

POINT⑥
ICT活用で直行直帰の看護師の
勤怠管理が可能に

 事務作業を効率化するため、ICT(情報通信技術)機器も積極的に活用。当ステーションでは(株)ロジック(金沢市)の訪問介護・看護支援システム「Care-wing」を導入している。Care-wingはシールタイプのICカードとスマートフォン(スマホ)やタブレット端末を利用したクラウドシステムで、訪問予定のスケジュール管理やサービス内容、訪問時間の記録などの機能を持つ。

 ICカードには職員用と利用者用があり、職員は自身のICカードにスマホなどをかざして本人認証する。利用者宅ではベッドサイドなどにICカードを取り付けておく(写真1)。職員が利用者宅のICカードにスマホなどをかざすと、「業務開始」とみなされ、開始時刻を正しく記録できる。同様に、訪問看護の終了時には終了時刻が記録される。看護師一人ひとりの利用者宅への訪問をCare-wingで把握できるほか、スマホに搭載されたアプリのGPS機能で各職員の位置情報も確認可能。これにより、出退勤の状況を正確に管理している。

写真1 稲毛駅前訪問看護ステーションが導入する訪問介護・看護支援システム「Care-wing」

 訪問看護ステーションの規模が大きくなるにつれ、職員個々に目が行き届きにくくなる問題が想定される。その点、こうした仕組みを導入すれば、「サービス未実施による架空請求」などの発生も未然に防げるのだ。

写真2 Care-wingの画面例(提供:ロジック)

 Care-wingでは、当日実施したサービス内容やバイタルなどの情報も記録できる(写真2)。記録項目の多くが選択肢形式となっており、短時間で入力できる。Care-wingの利用料や通信費、スマホのリース代などを含めた費用は、月額固定で3万5000円程度だ。

 これまで述べてきたように、当社では就労環境の改善に向けて、サテライトの展開、外部のコールセンターとの提携、ICT機器の活用など様々な方策を実施。看護師の出勤などの負担を軽減し、自分が住むエリアで業務に従事できるようにした結果、看護師の居住地域で利用者が増えてくる好循環が生まれるようになった。地域内の顔なじみの病院関係者やケアマネジャーから新規利用者を紹介されることが多いためだ。利用者宅が看護師の自宅に近くて移動時間が短縮されたことから、看護師本人の希望で1日8件訪問しているケースもある。

 こうした就労環境の向上により、看護職員の離職率は1割程度まで改善した(2021年4月現在)。

POINT⑦
訪問看護事業の強みを生かし
看護小規模多機能にも進出

 当社はステーションの大規模化を進めつつ介護事業をさらに拡大し、2017年5月には看護小規模多機能型居宅介護事業所「Nursing Home稲毛東」(登録定員29人、千葉市稲毛区)を開設した。その後、同じ稲毛区、隣接する八千代市にも事業所を新設し、2021年4月現在で看護小規模多機能型居宅介護事業所は3カ所ある。医療依存度が高かったり、金銭的な理由で有料老人ホームなどに入居できない高齢者が主な対象だ。訪問看護を利用していた要介護者に同居家族がおらず、通いや泊まりのニーズが拡大した際、看護小規模多機能型居宅介護の利用につながることも見込んでいる。事業所の建設などに要する費用の一部は、県と市の助成を受けた。

 看護小規模多機能型居宅介護の採算ラインは、登録者12人、平均要介護度2.5である。第1号事業所のNursing Home稲毛東は2021年4月現在、登録者数が22人に達して黒字化。気管切開などで医療的処置を必要とする要介護4・5の利用者が多い。第2号事業所「Nursing Home園生」(千葉市稲毛区)は登録者数が12人で、収支はトントンだ。

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 国内の少子高齢化の進展で、将来、医療・介護・年金の財政の逼迫が大きな問題になります。2020~30年代に15~64歳の生産年齢人口が急速に減少し、2040年には1人の高齢者を1.5人の現役世代で支えなければなりません。いわゆる社会保障の「2040年問題」です。
 介護の問題に置き換えれば、介護保険の財政や制度運営が厳しくなるのはもちろん、高齢者の介護を担う人材の不足が深刻化します。介護事業者は、限られた介護職員や経営資源で質の高いケアを効率的に提供できるサービス提供体制を早期に構築しなければなりません。
 そんな問題意識から、本書では「2040年問題」を克服する経営手法のヒントを提示しました。後期高齢者が急増する2025年のさらに先、2040年も見据えた2021年度介護報酬改定の内容を踏まえ、地域包括ケアシステムにおける介護事業の成功の秘訣、新たにスタートした「科学的介護情報システム」(LIFE)の詳細、介護現場でのICT(情報通信技術)の活用事例などを網羅。今後、経営戦略を検討される介護事業者にとって必携の1冊です。

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連載の紹介

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