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知っておきたい業務継続計画(BCP)の要点(第3回)~計画策定の基礎知識(後編)
BCPの被害想定と優先業務選定で失敗しないコツ
書籍『サバイバル時代の介護経営メソッド』より

 2021年度介護報酬改定では主な方針として「感染症や災害への対応力強化」が打ち出され、業務継続計画BCP)の策定が全介護事業者に義務化された。「BCPとは何か」「経過措置の3年間に何から着手すればよいか」などのポイントを、リスクマネジメントの専門家の本田茂樹氏に3回にわたって解説してもらう。
(※この記事は書籍『サバイバル時代の介護経営メソッド』の内容の一部です。本稿に加えて「BCPの策定・運用の実際」は、書籍で詳述しています)

(III)BCP策定の基礎知識(※前回の続き)
4.自施設の被害想定

 国や自治体から、それぞれの地域に影響を与える主な自然災害について、「被害想定」の資料やデータが発表されている。これらを踏まえて、自施設の立地や建物の耐震性などを勘案し、自施設への被害状況を想定する。併せて、介護サービスの提供に欠かせない電気・ガス・水道などライフラインの被害状況も想定しておく。そして、「見える化」された自施設の被害想定を前提に、その被害を軽減するための対策を検討し、準備することが有用である。

 ここでは地震を例に取り、自施設の被害を想定する流れを紹介する。

(1)建物の耐震性がポイント
 自施設の建物が、地震の大きな揺れに耐え、その中にいる職員・利用者、設備などを守れるかどうかが、その後の業務継続の成否を左右する。1950年に制定された建築基準法は、1978年6月の宮城県沖地震の後、1981年に改正され、それが「新耐震基準」と呼ばれている。この改正の前後で耐震基準は次のように区分される。

● 新耐震基準
 1981年6月1日以降に建築確認申請が行われた建物が該当
● 旧耐震基準
 1981年5月31日以前に建築確認申請が行われた建物が該当


 新耐震基準では、中規模(震度5強程度)の地震に対しては、ほとんど損傷を生じず、極めてまれにしか発生しない大規模地震(震度6強から震度7程度)に対しては、人命に危害を及ぼすような倒壊等の被害を生じないことを目指している。

 ただし、新耐震基準の下で建てられた建物は、震度6強以上の揺れでも倒壊する可能性が低く、職員・利用者の命は守られる半面、必ずしも被災後に使用できるとは限らないことを押さえておく必要がある。また、新耐震基準で建てられていても、時間の経過とともに劣化し、地震の揺れに耐えられない可能性があることも認識しておくべきである。

(2)自施設の被害を具体的に想定する
 自施設の被害を想定した例を表1に示す。この資料を作成するときに重要なことは、自施設への地震の被害をできるだけ具体的に想定することである。もし、この段階で自施設に起こり得る被害、つまり弱点を認識できなければ、それに対する準備がないまま、実際の地震に見舞われることになる。

表1 自施設の被害想定の例(※クリックすると拡大表示されます)

 この被害想定の作業は、それぞれの現場の職員を中心にして行うことが不可欠である。厨房の被害は調理を担当する職員が想定し、利用者の居室の被害は介護職員が想定するといった具合だ。現場の状況を知り、現場で実際どのような業務が行われているかを知らなければ、想定される被害を的確に指摘することは難しいからである。

(3)被害想定は、できるだけ具体的な数字で示す
 被害想定を具体的な数字で示すことで、それにふさわしい対策を講じることが可能になる。

①具体的な数字で示せる場合
 非常用自家発電設装置の運転可能時間は、使用する電気器具と備蓄燃料の量を踏まえ、「運転可能時間は約36時間」などと具体的に記載する。この数値を認識することで、さらに備蓄燃料の量を増やすのか、あるいは電気を使用する機器類を見直すのかなどの判断が可能となる。

②具体的な数字を示すことが難しい場合
 電気・ガス・水道などのライフラインは、介護サービスの提供に不可欠であるにもかかわらず、首都直下地震クラスの大地震が発生すると必ず供給が停止する。その場合の復旧見込みは、過去に起こった地震の例から想定することになるが、実際に地震が発生した場合の復旧時期は、そのときの状況によって異なる可能性がある。

 この場合に大切なことは、例えば、電気の復旧見込みが「1週間後」なのか「10日後」なのかにこだわるのではなく、ある程度長い間停電した場合にどのように克服するか、その対策を具体的に検討することにある。

5.優先業務の選定

 自然災害の発生時、そして感染症の流行時には、あらゆる経営資源が足りなくなる、あるいは欠けるという状況になる。限られた経営資源で全ての業務を継続することが困難であることを理解し、平常時に決めた優先順位に従って業務を進めることが肝要である。優先すべき事業の考え方は、次の通りである。

(1)複数の事業を運営している場合
 入所、通所、訪問など複数の事業を運営する介護サービス事業者は、自然災害の発生や感染症の流行で経営資源が限られた際、どの事業を優先するか、どの事業を縮小・休止するかを決めておくことが求められる。

 例えば、入所施設など24時間365日体制の介護サービスを、休止できない事業として優先することが考えられる。また、それぞれの法人で中核をなす事業、具体的には収入割合の大きい事業も休止することは難しい。

(2)優先する業務
 優先すべき事業を入所部門と決めた場合でも、限られた経営資源を有効活用するために、もう一歩踏み込み、優先する業務を洗い出し、選定することが必要となる。優先すべき業務の選定は、入所者の生命・健康維持の観点で行う。優先業務の例として、次の項目が考えられる。

● バイタルチェック
● 口腔ケア
● 食事介助
● 水分補給
● 排泄介助
● 与薬 など


 また、医療依存度の高い入所者が多い施設では、痰吸引や点滴などの医療的ケアも優先業務に含まれる。

 優先業務の洗い出しと併せて、それぞれの業務に必要な人数について検討することも有用である。被災時に参集できる職員数を想定し、優先業務の実施に必要な職員数を賄えない場合は、優先業務の手順を見直すことも検討しておくとよい。例えば、入浴介助が難しいときは、適宜、清拭で対応するなどの考え方である。

6.研修・訓練および見直し

(1)研修・訓練
 BCPを策定することは重要であるが、策定するだけでは実効性が伴わない。介護サービス事業者におけるBCPは、不測の事態が発生しても重要な業務を中断させない、また中断しても可能な限り短い期間で復旧させるための方針、体制、手順等を示したものである。つまり、BCPに示された方針、体制の下で、手順通りのことを実践できなければ意味がない。そこで必要になるのが、研修・訓練である。

①研修
 まず、職員が自施設のBCPの内容を理解していなければ、それを実践することはできない。平常時から、BCPで定めたこと、また被災時における初動のアクションなどに関する研修を実施しておくことが必須である。

②訓練
 BCPの内容を理解していても、それを行動に移せるとは限らない。自施設のBCPの内容に沿った訓練を行うことで、実践力が高まる。具体的には、初期消火の訓練、職員の安否確認訓練、また非常用自家発電装置の使用訓練など、BCPに記載されていることが実際にできるかどうかを訓練で確認する。訓練を通じて、自施設のBCPが「使えるBCP」であるかどうかを検証しておかないと、「残念なBCP」を持ったまま、実際の災害に直面することになる。

(2)BCPの見直し
 訓練を行った結果、BCPの内容が施設の現状と合わない、あるいは実際に実行することが難しいなどの課題が見つかった場合は、BCPを見直し、修正する。訓練で洗い出される課題には、次のようなことが考えられる。

● 備蓄してある食料の量が足りない
● 避難通路が段ボールなどでふさがっている
● 非常用自家発電装置の使い方が分からない
● ラジオや懐中電灯の電池が切れている
● 職員の連絡先情報が古い など


 また、国や自治体が最新の知見に基づき新たな被害想定の資料やデータを発表した場合は、それに対応して自施設の被害想定を修正することも求められる。介護サービス事業者のBCPは、自施設の業務を継続するためのものであるから、業務の手順や方法が変わる、新入職員・中途採用など職員が入れ替わる、などの変化を反映させることも必要であり、定期的な見直しが肝要である。

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