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知っておきたい業務継続計画(BCP)の要点(第2回)~計画策定の基礎知識(前編)
BCP推進体制には各部署のスタッフ参加が不可欠
書籍『サバイバル時代の介護経営メソッド』より

 2021年度介護報酬改定では主な方針として「感染症や災害への対応力強化」が打ち出され、業務継続計画BCP)の策定が全介護事業者に義務化された。「BCPとは何か」「経過措置の3年間に何から着手すればよいか」などのポイントを、リスクマネジメントの専門家の本田茂樹氏に3回にわたって解説してもらう。
(※この記事は書籍『サバイバル時代の介護経営メソッド』の内容の一部です。本稿に加えて「BCPの策定・運用の実際」は、書籍で詳述しています)

(III)BCP策定の基礎知識
1.基本方針

 BCPの目的は、「身体・生命の安全確保」「物的被害の軽減」に加え、「優先的に継続・復旧すべき重要業務の継続または復旧」である。

 この目的は、何の準備もなく達成されるものではなく、また優先業務の選定などさまざまなことを検討する際の原点となる。そのため、BCP策定に当たっては、介護サービス事業者として基本方針を定めておくことが必須である。基本方針には、次の項目を含めて記載する。

(1)身体・生命の安全確保
①利用者の安全確保
 介護サービス事業者の利用者の多くは、体力や免疫力が弱いことから、自然災害が発生したり、感染症が流行した場合、深刻な健康被害が生じる可能性がある。介護サービス事業者は、そのような危機的事象が起こった場合でも、利用者の安全を守るための準備を進め、最善を尽くす必要がある。

②職員の安全確保
 自然災害の発生時、また感染症の流行時にも、職員は利用者のために、介護サービスを提供し続けることになる。一方で、被災時の混乱の中で業務継続を図ることは、長時間勤務や精神的な打撃などから、職員の労働環境悪化が懸念される。また、感染症流行時の業務継続においても、職員の感染リスクが高まる可能性がある。

 よって、使用者の「安全配慮義務」の観点からも、介護サービス事業者は職員の過重労働やメンタルヘルスへの対応、そして感染防止対策など、的確な措置を講じる責任がある。安全配慮義務の定義について、労働契約法第5条は「使用者は、労働契約に伴い、労働者がその生命、身体等の安全を確保しつ労働することができるよう、必要な配慮をするものとする」としている。

(2)介護サービスの提供継続
 介護サービス事業者は、利用者の生活を守るために必要不可欠な役割を担っていることから、自然災害発生時や感染症の流行時にも、業務を継続できるように準備を進めておくことが重要である。特に入所施設は、入所者に対して生活の場を提供していることから、緊急事態に陥った場合でも、そのサービス提供を中断することはできない。そのような場合に備えて、自施設でサービス提供を継続する場合と、同一法人内の他の施設の支援を仰ぐ場合など、事前の検討や体制構築を行うことが求められる。

 また、通所サービス・訪問サービスを提供する介護サービス事業者においても、可能な限り、サービス提供を継続できるよう努めるとともに、万一、業務を縮小する、あるいは中断することを余儀なくされる場合でも、利用者への影響を極力抑えるようにすることが肝要である。

 併せて、介護サービスの提供を継続するためには、現場の職員だけではなく、建物・設備、ライフラインなど他の要素も欠かせないことから、それらの経営資源を守る体制を整えておくこともポイントとなる。

(3)地域社会への貢献
 介護サービス事業者の社会的使命を踏まえると、自施設が無事であることを前提に、施設が持っている機能を生かすことで地域に貢献することも大切な役割である。例えば、平常時に地域住民と連携して防災訓練を実施する、また被災後に地域の復旧活動に協力することなどが考えられる。

2.BCPの推進体制

 介護サービス事業者におけるBCPは、職員の参加と意識付けの下で推進すべきである。BCPの運用は、台風シーズンだけ、感染症の流行時だけのように一過性のものではなく、継続して取り組むべきものであるから、それを推進する体制を構築しておかなければならない。また、この推進体制は、必ずしも一から構築する必要はない。多くの介護サービス事業者には、既に防災体制やリスクマネジメント体制があるので、それらの体制を前提とし、足りない役割を加えるなどして立ち上げることでよい。

 推進体制の立ち上げの際は、次の点を押さえておくことが求められる。

(1)BCP推進体制の責任者は、介護サービス事業者のトップにする
 BCP推進体制の責任者は、施設長など介護サービス事業者のトップにすることが大切である。これはBCPを「策定する」、また「被災時に運用する」など、それぞれの段階で重要な決断を速やかに行うことが不可欠であることによる。例えば、介護サービスを中断させないために行う非常用自家発電装置の導入や防災備蓄の整備には費用がかかるが、それらの対策をいつ行うのか、実際に行う場合でもその優先順位をどうするかという点については、介護サービス事業者のトップの判断が求められるからである。

 また、自然災害発生時および感染症の流行時には、その後の社会情勢など不確実な要素が多い。そのような状況下でも、自施設の被災状況、介護サービスを提供する社会的責任、さらには施設としての収入の確保など、さまざまな観点を踏まえて業務継続レベルを決める必要があることから、介護サービス事業者のトップの関与が必須となる。

(2)BCP推進体制には、各部門のメンバーを参加させる
 BCP推進体制を総務部門や事務部門だけで進めようとすると実効性が伴わない。

 事務部門だけではなく、介護職や看護職、また給食部門やリハビリテーション部門などを含め、介護現場を熟知している職員を含めておくことによって、それぞれの部門の対策に漏れがなくなる。また、BCPの旗振り役が特定の部門や職種に偏っていると、それ以外の職種からの協力を得ることが難しくなり、被災時にお互いが協力して、中断した業務を復旧させようという意識も醸成できない。

(3)代行順位を決めておく
 BCPの推進体制においては、具体的に「誰が何をやるか」という役割分担が求められるが、その担当者が欠員となった場合の代行順位を必ず決めておかなければならない。

 自然災害の発生、あるいは感染症の流行の際、全ての職員が無事であるとは限らず、また本人が無事でも家族の事情で職場に来られない職員が出る可能性がある。そのような場合でも、あらかじめ、誰がその役割を代行するか決めておけば、緊急事態の役割分担に漏れが出ることはない。

3.リスクの把握

(1)認識しないリスクには備えられない
 介護サービス事業者は、介護サービスを提供するに当たり、利用者に転倒や誤嚥などの事故が起こらないように細心の注意を払っている。それは、「利用者の筋力が低下しているので転倒するかもしれない」、あるいは「利用者の飲み込む力が弱くなっているので、誤嚥するかもしれない」と認識しているから、そうならないように対策を講じているのである。

 自然災害のリスクについても同じことが言える。自施設がどのようなリスクを抱えているかを職員が十分に認識していない限り、そのリスクに対する準備は始まらない。

(2)ハザードマップを確認し、自施設のリスクを把握する
 地震、津波、風水害など自然災害リスクの頻度や影響度は、それぞれの施設の立地によるところが大きい。自施設の自然災害に対する弱点は、自治体などが公表している「ハザードマップ」によって知ることができる。

図1 「洪水ハザードマップ」の例(東京都江東区)(※クリックすると拡大表示されます)

 ハザードマップとは、災害による被害を予測し、その被害範囲を地図化したものである。予測される災害の発生地点、被害の拡大範囲およびその程度、避難経路、指定緊急避難場所、指定避難所等の情報を地図上に図示している。例えば、「洪水ハザードマップ」には、実際に洪水が発生した場合にどのくらいの範囲に浸水が及ぶのか、またその際の浸水の深さがどの程度かなどの情報が示されている(図1)。災害発生時にハザードマップを利用することにより、地域住民等は迅速・的確に避難できるようになる。

 このハザードマップを確認し、自施設が抱える自然災害リスクを把握した上で、それに応じた対策を検討し、準備することが有効である。また、ハザードマップ類は、最新の知見に基づいて見直されることがあるため、定期的に確認し、必要に応じて自施設の対策も修正することが求められる。
※次回の「後編」に続く

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