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知っておきたい業務継続計画(BCP)の要点(第1回)~BCPとは何か
BCPの鍵はリスクの事前想定と優先業務の選定
書籍『サバイバル時代の介護経営メソッド』より

 2021年度介護報酬改定では主な方針として「感染症や災害への対応力強化」が打ち出され、業務継続計画BCP)の策定が全介護事業者に義務化された。「BCPとは何か」「経過措置の3年間に何から着手すればよいか」などのポイントを、リスクマネジメントの専門家の本田茂樹氏に3回にわたって解説してもらう。
(※この記事は書籍『サバイバル時代の介護経営メソッド』の内容の一部です。本稿に加えて「BCPの策定・運用の実際」は、書籍で詳述しています)

(I)はじめに
1.BCPの策定義務化

 2021年度介護報酬改定では、感染症や災害が発生した場合でも、必要な介護サービスが継続的に提供される体制を構築する観点から、全ての介護サービス事業者を対象に業務継続に向けた計画等の策定、研修の実施、訓練(シミュレーション)の実施等が義務付けられた。3年の経過措置期間が設けられている(図1)。

図1 2021年度介護報酬改定のテーマのうち「感染症や災害への対応力強化」の関連部分(※クリックすると拡大表示されます)

 この業務継続に向けた計画等、つまり業務継続計画(BCP)の策定が義務付けられた背景として、主に次のことが考えられる。

(1)自然災害の多発・激甚化と感染症の流行
 日本では、いつ、どこで地震が発生してもおかしくない状況にある。実際、2011年3月に起こった東日本大震災では、地震による強い揺れと巨大な津波で大きな被害が発生し、その後も、2016年4月の熊本地震、2018年9月の北海道胆振東部地震など最大震度7の地震が続き、ともに甚大な被害が生じている。

 水害についても近年、台風や豪雨が相次ぎ、それに伴う洪水氾濫、そして土砂災害が頻発するとともに、その被害は激甚化している。また、感染症についても、2020年に発生した新型コロナウイルス感染症(COVID-19)が世界的大流行(パンデミック)となり、長期化している(2021年9月時点)。さらに今後、未知の感染症、例えば鳥インフルエンザ由来の新型インフルエンザなどが世界的大流行となることも懸念されている。

 介護サービス事業者は、これまでとは異なる様相を見せる自然災害の発生や感染症の流行に備えることが必須である。

(2)介護サービスは、その利用者の生活を支えるために不可欠
 介護サービスは、その利用者の生活を支える上で不可欠なものである。もし、介護サービス事業者が地震や水害などの自然災害に見舞われ、介護サービスを提供できなくなった場合、利用者の生活には大きな支障が生じる。また、感染症の流行によって、介護サービスの提供が継続できなくなった場合も同じことが起こる。

 そこで、介護サービス事業者は、業務継続のために、平常時から準備・検討を進めておき、自然災害の発生や感染症の流行に際しても、必要な介護サービスを継続して提供できることが求められる。

(3)介護サービス事業者における業務継続計画(BCP)の策定率は低い
 介護サービスの提供が中断した場合の経営への影響は、極めて大きいにもかかわらず、業務継続計画の策定率は低い。「令和元年度企業の事業継続及び防災の取組に関する実態調査」(内閣府、2020年3月)によると、医療・福祉分野の業務継続計画策定率は22.2%となっており、策定率が最も高い分野である金融・保険業の69.2%との間に大きな差がある。

 医療・福祉分野における医療機関および介護サービス事業者が、金融・保険業と同じように社会機能を維持する事業者であることを考えると、この22.2%という策定率は早急に改善していくべきものと考える。

(II)BCPとは何か
1. BCPの考え方で重要なこと

 BCPは、一般的には「事業継続計画」として表1の通りに定義されており、介護分野では「業務継続計画」と呼んでいる。BCPにおいては、次の2点を押さえておくことが重要である。

表1 「事業継続計画」の定義(※クリックすると拡大表示されます)

(1)BCPの対象は、自然災害・感染症に限定されない
 大規模な自然災害の発生、そして未知の感染症の流行の際にも、的確な対応を行うことで、利用者に介護サービスを提供し続けることを目指してBCPを策定する。だが、実はその対象が自然災害・感染症に限定されているわけではない。BCPは、大地震等の自然災害、感染症のまん延だけではなく、テロ等の事件、大事故、サプライチェーン(供給網)の途絶、突発的な経営環境の変化など、あらゆる不測の事態、つまり予測もできない危機的事象が発生したときに対応するための計画なのである。

(2)BCPは、不測の事態が発生する前から運用するものである
 BCPは、業務継続計画という名前から、「実際に地震など不測の事態が発生してから使うもの」と考えている人がいるかもしれない。もちろんBCPによって、予測もできない危機的事象が発生した後に的確な対応を行い、速やかに介護サービスを復旧・継続することは必須である。だが、平常時から機能させることで、介護サービスを中断させないことが重要である。それでも介護サービスが中断してしまった場合は、速やかに復旧させ、サービス提供の継続を目指すことになる。

 そこで、介護サービス事業者におけるBCPは、次の2段構えで進めることが求められる。

①介護サービスを中断させない
 介護サービス事業者が、その介護サービスを中断させないためには、サービス提供に必要な経営資源を守ることが必須である。介護サービス事業者のサービス提供に必要な経営資源には、(1)職員、(2)建物・設備、(3)ライフライン(電気・ガス・水道など)──の3つが考えられる。

②介護サービスが中断した場合は、速やかに復旧させ、継続する
 介護サービスを中断させないために、さまざまな準備を行っていても、介護サービスが中断することはあり得る。例えば、大きな地震に見舞われると停電や断水が起こり、介護サービスの提供ができなくなることが考えられる。また、COVID-19のような感染症の流行が拡大すると、職員にも感染者が発生し、職員不足のために介護サービスの提供が難しくなる事態が懸念される。そのような場合でも、足りなくなった経営資源、すなわち電気や水、そして職員を補うことで、介護サービスを速やかに復旧させ、継続することが求められる。

2.防災計画とBCP

 BCPの必要性を説明すると、介護サービス事業者からは、「既に防災計画は策定しているのに、BCPも必要になるのか?」という声が少なからず聞こえてくる。防災計画とBCPの特徴は表2の通りであるが、この両者は共通する部分もあり、また非常に密接な関係にある。よって、介護サービス事業者は、防災計画とBCPを車の両輪と考えて取り組んでいくことが求められる。

表2 防災計画とBCPの比較(※クリックすると拡大表示されます)

(1)主な目的
 BCPの主な目的は、防災計画の主な目的である「身体・生命の安全確保」および「物的被害の軽減」に加えて、「優先的に継続・復旧すべき重要業務の継続または早期復旧」となっており、両者は密接な関係にあることが分かる。言い換えれば、BCPの目的を達成するためには、その前提として、防災計画の目的を達成しておくことが必須となる。

(2)考慮すべき事象
 防災計画において考慮すべき事象は、「自施設がある地域で発生することが想定される災害」である。自施設が海岸から遠く離れた地域、例えば山梨県や長野県に位置している場合、地震後に発生する津波に対する防災計画を策定する必要はない。ただし、このような場合も、地震や水害に見舞われる可能性はあるので、地震・水害を想定した防災計画は作ることが求められる。

 一方、BCPで考慮すべき事象は、「自施設の事業中断の原因となり得るあらゆる発生事象」である。津波を例に取ろう。介護サービス提供に必要な資器材を納品している事業者の工場や倉庫が津波の被害に見舞われた結果、自施設でサービス提供ができなくなることが想定されるのであれば、内陸にある自施設が津波の影響を受けない場合でも、BCPにおいて津波を考慮しておく必要がある。

(3)重要視される事象
 防災計画の目的が、「身体・生命の安全確保」と「物的被害の軽減」であることから、死傷者数と損害額を最小限にすることが重要視される。BCPでは、それらに加えて、重要業務を速やかに復旧・継続すること、経営や利害関係者への影響を抑えること、そして最終的には、介護サービス事業者として生き残ることにある。

(4)活動・対策の検討範囲
 防災計画における活動・対策の検討範囲は、同一法人内の施設ごとが対象になる。これは、考慮すべき事象が、自施設がある地域で発生することが想定される災害となっていることに関係している。

 例えば、同一法人内でも、複数の入所施設が別の地域にあれば、それぞれの施設が抱えるリスクは異なる。具体的には、河川沿いに立地している入所施設は河川の氾濫に備えた防災計画を準備するが、河川から離れた場所に立地する別の施設では、河川氾濫に対する計画は不要となる。

 一方、BCPでは、自施設の事業中断の原因となり得るあらゆる発生事象を考慮することから、活動・対策は、同一法人内の施設全体を事業中断の観点から俯瞰(ふかん)して検討することが求められる。ある入所施設が地震の被害に見舞われ、職員数が足りなくなれば、同一法人内の他の施設が応援職員を送るなどの体制を組むようなことがこれに該当する。

 また、BCPでは、依存関係にある組織のことも考えておく必要がある。例えば、給食を委託する事業者、また衛生資器材を調達する事業者が被災すると、当然、介護サービス事業者はその影響を受けることから、それを前提に準備を進めておかなければならない。

3.BCPに取り組む際の基本姿勢

 BCPの狙いは、介護サービス事業者が自然災害や感染症などさまざまな危機的事象を乗り越え、介護サービスを提供し続けることにある。

 このBCPに取り組むに当たっては、次の3つの基本姿勢が重要である。

(1)着眼大局、着手小局~全体像を見据えて、まず着手する
 BCPの策定が義務化されたことで、介護サービス事業者は取り組むことの必要性を認識しているものの、何から手をつけてよいか分からず、そのままになっているケースも多い。前述の通り、2020年3月に内閣府(防災担当)から発表された医療・福祉分野のBCP策定率は22.2%と低く、まだまだこれからの状況といえる。

 あれこれ理由をつけて、BCPの策定をためらっているのではなく、「着眼大局、着手小局」ということで可能なことから着手し、まずBCPの策定を始めることが極めて重要である。

 本稿などを参考にして、BCPの全体像を把握し、そこから少しずつ策定を進めるとよいだろう。例えば、取り組み方針について職員間で議論する、BCPの推進体制や役割分担を決める、被災時の初動対応を検討するなどの作業を積み重ねることが考えられる。その上で、3年の経過措置期間中に、足りない点や不十分な事項を補うことで完成を目指すことになる。

(2)被災時には切り捨てる業務もあり得る~優先順位が重要
 介護サービス事業者が自然災害の発生や感染症の流行など不測の事態に見舞われると、介護サービスを提供するために必要な経営資源の多くが足りなくなったり欠けたりする。具体的には、建物や設備が壊れ、職員が負傷する、感染症に罹患する、さらに自然災害の場合には、電気・ガス・水道の供給が停止するという事態が起こり得る。

 一方、そのような状況であるにもかかわらず、平常時と同じように介護サービスを提供することを求められるとともに、被災時の対応、例えば、壊れた設備の修理、被災した職員の安否確認、そして利用者の家族への連絡など新たに行うべき業務が発生する(図2)。だが、建物・設備、職員、ライフラインなど全ての経営資源が限られる中で、平常時に行う業務に加えて、新たな業務にも対応することはできない。

図2 BCPにおける業務の優先順位(※クリックすると拡大表示されます)

 そこで重要になるのが、業務の優先順位である。限られた経営資源で全ての業務を継続することが困難であることを理解し、平常時から業務の優先順位付けを行い、緊急事態に直面した際はその優先順位に従って業務を進めることが必須である。

 緊急事態においては、平常時に「できること」でも優先順位が低ければ一時的に切り捨てる、つまり、「やらない」という決断が求められる。

(3)命を守ることを最優先する~職員・利用者を守る
 自然災害に見舞われた際、建物や設備が無事であったとしても、職員の多くが負傷するなどの状況になれば、介護サービスを継続し続けることは困難である。また、感染症の流行においても、職員が感染疑いとなる、あるいは感染するなどの事態が起これば、職場にすぐ復帰できない。

 BCPでは、介護サービス事業者にとって重要な経営資源である職員を守ることが必須である。従業員の命が守られることによって、業務継続が円滑に進み、組織としての生き残りも図ることができる。併せて、職員を守ることは、結果として利用者の命を守ることにもなる。

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