日経メディカルのロゴ画像

2021年度介護報酬改定と科学的介護情報システム(LIFE)(第1回)
「科学的介護」の実践が経営力アップに不可欠
書籍『サバイバル時代の介護経営メソッド』より

 2021年度介護報酬改定における最大の注目点は、LIFE(Long-term care Information system For Evidence、科学的介護情報システム)の導入である。数多くの加算の算定要件にLIFEへのデータ提出や活用が位置付けられ、今後の介護経営に大きな影響を及ぼすことは間違いない。

 以下では、2021年7月時点で明らかになっている情報を基に、2021年度改定の概要やLIFEへのデータ提出などの注意点を整理した。
(※この記事は書籍『サバイバル時代の介護経営メソッド』の一部を紹介しています)

LIFE関連加算は大きく2種類

図1 科学的介護推進体制加算の創設
(※クリックすると拡大表示されます)

 2021年度改定で新設されたLIFE関連加算は、(1)算定対象の利用者のデータ提出を要件とする加算、(2)事業所・施設単位で全利用者・入所者のデータ提出を要件とする加算──の大きく2種類がある。このうち(2)に当たるのが「科学的介護推進体制加算」(図1)だ。

 事業所の全ての利用者・入所者について、ADL(日常生活動作)値、栄養状態、口腔機能、認知症の状況、その他心身の状況に関する基本情報を、厚生労働省が示す様式にのっとり、6カ月に1回以上の頻度でLIFEにデータ提出することが算定の要件である。加えて、LIFEからのフィードバック情報をサービスの適切かつ有効な提供につなげるよう、サービス提供の中でPDCAサイクルを推進することも求められる。

 同加算を算定するには、算定開始月の翌月10日までに事業所の全ての入所者・利用者の上記データを提出しなければならない。ただし、初年度の2021年度はデータ提出の猶予期間が設けられた。2021年4~9月に同加算の算定を始める場合は、算定開始月の6カ月後の月の10日、2021年10月~2022年2月に始める場合は2022年4月10日までにデータを提出すればよい。ただし、猶予の適用を受けるには、その理由や提出予定時期を含めた計画が求められ、期限までにデータ提出を行わなければ、同加算を遡って返還しなければならない。

 さらに2021年度改定では前述の(1)として、リハビリテーション・機能訓練や口腔管理、栄養マネジメントなどに関わる既存加算の上位区分や新しい加算が導入され、算定要件でLIFEへのデータ提出とフィードバック情報の活用が求められた(表1)。

表1 LIFEの活用などが算定要件として含まれる加算
(※クリックすると拡大表示されます)

 だが、混乱も生じた。加算算定を目指して2021年4月の改定直後からLIFEにデータを提出しようと多くの介護事業者がLIFEのデータベースへアクセス。その影響で、4月1日の稼働後、システム障害で利用不能の状態に陥った。そのため、猶予期間が設けられていない加算でも、5月10日までにデータを提出できなかった場合、できる限り早期に提出すれば2021年4月サービス提供分の加算を算定できることとされ、同年6月サービス提供分まで同様の取り扱いが可能(データ提出の猶予期間は8月10日まで)とされた。

 科学的介護推進体制加算以外の加算については、LIFEへのデータ提出が求められるのは基本的に加算に関連する項目だけだ。例えば、「褥瘡マネジメント加算」では、褥瘡に関する項目だけ提出すればよい。そのため、記録や入力が容易な加算の算定から始め、記録する項目を徐々に増やしていきながら、科学的介護推進体制加算の算定に着手するというアプローチも考えられる。

 LIFEへのデータ提出に当たって留意したいのが、各加算で設定された算定要件や様式だ。

 居宅サービス、施設サービス、地域密着型サービスのLIFE関連加算の算定要件で提出が求められる情報の内容は、厚労省通知(例:「○○サービスに要する費用の額の算定に関する基準の制定に伴う実施上の留意事項について」)で規定されている。また、介護サービスの利用者や入所者の評価に関する各加算の様式の例は、「科学的介護情報システム(LIFE)関連加算に関する基本的考え方並びに事務処理手順及び様式例の提示について」(2021年3月16日老老発0316第4号)で示された。

 ただし、厚労省のQ&A(2021年4月9日発出「介護保険最新情報」Vol.965)によれば、あくまでも提出項目を示したもので、「様式例と同一のものを用いることを求めるものではない」としている。それでも基本的には、様式におけるチェック項目がLIFEに入力する項目に相当するといえる。

 なお、LIFEの利用者登録の際、氏名や被保険者番号などの個人情報を入力すると、LIFEシステムにはその一部を匿名化した情報が送られる。加算の算定には利用者の同意が必要だが、情報提出に対する同意は必要ない。加算の算定への同意が得られない利用者(入所者)がいる場合でも、原則として全利用者(入所者)の情報を提出すれば、加算
算定への同意が得られた利用者(入所者)について算定が可能とされている。

LIFEへのデータ提出に記録ソフトを活用

 報酬単位表を見れば分かるが、LIFE関連加算の報酬単価はさほど高くない。施設・事業所単位で利用者全員に算定する「科学的介護推進体制加算」は月40~60単位。業務上の手間や介護記録ソフトの導入費用だけを考えれば、収支が合わない。

 それでも、LIFEの前身であるVISIT(通所・訪問リハビリテーションの質の評価データ収集システム)で問題になっていたデータの手入力の手間は、介護記録ソフトとの連携で改善された。介護業務で蓄積された情報の中から、データ提出に必要な項目をCSVデータとして抽出・提出すればよい。

 介護施設は居宅サービス事業所に比べると、介護記録ソフトの購入、Wi-Fi環境の整備、タブレットなどの機器の確保で大きな設備投資を求められる。2020年度第3次補正予算で拡充された「地域医療介護総合確保基金」のICT(情報通信技術)の導入支援事業などを活用すべきだろう(注:2021年度当初予算分は申請受け付けを終了した自治体もある)。

 全国老人福祉施設協議会理事で社会保障審議会・介護給付費分科会委員を務める小泉立志氏は、LIFEへの対応を重視している。後述する褥瘡や排泄に関連する新設加算は入所者全員が対象で、算定の可否による収入への影響が大きい上、算定要件にLIFEへのデータ提出が含まれているからだ。

 2021年3月時点で、老施協の会員施設における介護記録システムの導入は半数程度。「システムを導入する施設を8割程度まで引き上げられるよう、老施協としてサポートしたい」と小泉氏は語る。ただし、「システム導入には業務の見直しなども必要となるため、一気に進めようとすると、現場が疲弊してしまう。2024年度改定までの3年間かけるつもりで取り組むべき」と、小泉氏は付け加える。

 LIFE関連加算の報酬単価が高くはないとはいえ、2021年度改定の内容を見る限り、数少ない増収要因になるのも確かだ。

 介護老人保健施設せんだんの丘(仙台市青葉区)併設の通所リハビリテーション事業所(定員50人)が2021年3月に改定の影響度を試算したところ、基本報酬がアップした半面、リハビリテーションマネジメント加算の引き下げでほぼ相殺され、収入増に寄与するのは科学的介護推進体制加算などLIFEに関連する加算に限られたという。「データ
の入力や提出など、新設の最上位区分の加算を算定するための体制整備が今後欠かせない」と同施設通所リハビリテーション主任の岩渕隆俊氏は語る。

 LIFE関連加算の算定要件の中で重要なのはデータ提出ではなく、フィードバック情報の活用である。サービス提供月の翌月10日までにデータを提出すれば、解析結果などのフィードバック情報はサービス提供月の翌月中にLIFEのウェブサイトからPDF 形式でダウンロード可能になる。ただし、2021年6月に実施された初回のフィードバックの内容は、まだデータが少ないことから全国集計値にとどまった。

 今後のフィードバック情報では、データ提出項目となる様々な指標について、同種の施設やサービス(特別養護老人ホーム、通所介護など)の平均や、入所者のプロフィルが類似する施設グループの平均とともに、事業所の状況が示される見通しだ。利用者のデータについても、状況や課題などが全国平均とともに時系列で示されるとみられる。

運用を支援する「LIFEマスター」派遣も

 質の高いLIFEのデータベースを構築するためには、精緻なデータを多数集めることが不可欠だ。PDCAサイクルを回して実績を上げている介護現場の好事例の蓄積なども含め、あらゆる介護事業者の取り組みと協力が必要といえる。

 LIFEの前身であるVISITでは、データ入力の複雑さと手間から導入が進まず、介護現場でのデータ活用も十分ではなかった。厚労省もその反省を踏まえ、2021 年度改定では多くの加算の要件にLIFEを関連付けることで“本気度”を示したわけだが、並行して、現場の負荷増大を抑えるためのサポート体制を整備していく。2020年度第3次補正予算で、前述のICT導入支援事業を拡充するとともに、LIFEの導入を支援する「LIFEマイスター」を都道府県に派遣する事業を行う意向だ。

 事業者団体もサポートを始めている。前出の老施協はポータルサイトを通じてLIFEに関する情報発信を強化し、ICT導入支援事業の対象となるLIFE対応の記録システムの一覧などを掲載。全国老人保健施設協会も、関連団体の全老健共済会にLIFEマイスターを配置し、会員施設をサポートする構えだ。

 事業者にとって当初の課題はデータ提出の体制づくりだが、関心は徐々にフィードバックの内容とその活用に移っていくだろう。

 そうした中で、科学的介護推進体制加算(II)で提出が求められる服薬や疾病の状況に、全老健会長の東憲太郎氏は注目する。「老健施設の薬剤費は包括払いで、服薬の状況はこれまでブラックボックスだった。LIFEによって、どのようなデータが集まるか興味がある」と東氏。加えて、経口嚥下食の提供、経管栄養やバルーンカテーテルの使用の状況なども分析できるようになれば、老健施設における医学的管理の標準化にもつながる可能性がある。

 フィードバック情報をPDCAサイクルの中で有効に活用し、ケアの質が向上して入所者・利用者満足度が高まれば、大きな差別化を図れるだろう。また、入所者・利用者の状態が改善する様子を見て職員のモチベーションが高まれば、定着率がアップして人材募集も容易になる。

「科学的介護」「介護DX」「介護人材確保」などの対応ノウハウと実例を一挙公開!
『サバイバル時代の介護経営メソッド』好評発売中

 国内の少子高齢化の進展で、将来、医療・介護・年金の財政の逼迫が大きな問題になります。2020~30年代に15~64歳の生産年齢人口が急速に減少し、2040年には1人の高齢者を1.5人の現役世代で支えなければなりません。いわゆる社会保障の「2040年問題」です。
 介護の問題に置き換えれば、介護保険の財政や制度運営が厳しくなるのはもちろん、高齢者の介護を担う人材の不足が深刻化します。介護事業者は、限られた介護職員や経営資源で質の高いケアを効率的に提供できるサービス提供体制を早期に構築しなければなりません。
 そんな問題意識から、本書では「2040年問題」を克服する経営手法のヒントを提示しました。後期高齢者が急増する2025年のさらに先、2040年も見据えた2021年度介護報酬改定の内容を踏まえ、地域包括ケアシステムにおける介護事業の成功の秘訣、新たにスタートした「科学的介護情報システム」(LIFE)の詳細、介護現場でのICT(情報通信技術)の活用事例などを網羅。今後、経営戦略を検討される介護事業者にとって必携の1冊です。

2021年度介護報酬改定の収入試算ツールのダウンロードサービス付きです→詳細はこちらからご確認ください

  • 1
  • このエントリーをはてなブックマークに追加

連載の紹介

病院・診療所も必見! 介護ビジネス最前線2021
2021年度介護報酬改定では、「科学的介護情報システム」(LIFE)へのデータ提出や、ICT(情報通信技術)機器の活用が評価されました。書籍『サバイバル時代の介護経営メソッド』の内容から、病院・診療所にも役立つ介護政策の最新動向や、先進的な介護事業者のノウハウの一部をセレクトしてお届けします。

この記事を読んでいる人におすすめ