花に癒される女3人
手術開始は、朝9時。手術中は、院内専用のPHS電話を渡されて、電波の届くところで待機することになりました。その時間、何をして過ごせばよいのか...手持ち無沙汰な私たちなのでした。
まずは、病室に置いていた荷物をまとめます。患者は、手術直後は集中治療室に入り、その後、別の病室に移るためです。
そうして、売店で買ってきたホットコーヒーを飲んで落ち着こう、とロビーに向かいました。このとき、病室のテーブル上に飾ってあった小さな花を、花瓶ごと手にして移動しました。
ロビーのテーブルを3人で囲んだとき、ふと思い付いて、手に持っていた花をテーブルの真ん中に置いてみました。すると、空間が一気に和やかになり、くつろげるカフェのような雰囲気に変わったのです。
「へえ~、小さい花だけど、ちょっとあるだけでずいぶん違うものなのねえ」と、感心してしまいました。待ち時間は長くても、その間、これといってすることもなく、会話もなかなか弾みません。そんな暗いムードを払拭してくれた花の力は、すごいものです。
そういえば、私の手術の間には、母と妹が折り紙で鶴を折っていたと後から聞きました。千羽鶴を折ることは、患者のためでもありますが、一方で周辺の人々が心の平安を得るための行動、という側面があるのかもしれません。
コーヒーを飲んでボーっとし、病院の食堂で食事をしてボーっとし、待合室に移動して少したったころ、手術終了の知らせが入りました。先生は予告通り、開始から6時間を切るスピードで、手術を成功させてくれたのです。
「手術は上手くいきました。麻酔が覚めたら会話ができます。お顔を見て励ましてあげてください」
そう言ってくれた先生の顔色は真っ白でした。長時間におよぶ緊張状態で疲れているのだ、大変な手術をして父の命を救ってくれたのだ、と感謝の気持ちでいっぱいになりました。
集中治療室にいる父は、酸素マスクやチューブにつながれて痛々しく見えましたが、思ったより顔色はよく、話し掛けると反応がありました。ようやく安心した私たちは、親族と友人に電話を掛けて手術成功を報告。日帰り温泉に立ち寄って、1日の緊張をほぐしたのでした。