実は、以前から、永久気管孔(喉頭を取り除かなければならない場合、呼吸のためにあける穴)を作ることになるのか、心配していました。執刀医に尋ねると、「患部は食道の中ほどなので、その施術はありません」とのこと。気になっていたことが分かってほっとしました。
このとき、医師から「術後に起こる可能性のある合併症」について話がありました。ポイントは3つ。
・縫合不全――起こったとしても再手術はしない(患者の負担が大きすぎるため)
・声のかすれ――時間がたてば直ることが多い
・肺炎――入院中は肺炎にならないよう十分注意を払う
「もしそうなってしまったら、どうなるんだろう」と詳しく聞きたい気持ちにかられましたが、患者本人がいる場では、余計に不安にさせてしまいそうで、質問はできませんでした。
医師も、患者が「そんな恐ろしい可能性があるのなら、手術そのものをやめた方がいいのでは」と不安にならないよう、最小限の情報だけをシンプルに伝えているのだろう、と思います。
いずれにしろ、合併症が起こってしまったら、対処をするしかないのだ、と腹をくくりました。
内容を把握、度胸を決めて
ぎりぎりまで手術に反対していた私ですが、手術に納得したのは「この先生の技術は確かだ」と思えたからなのです。
手術前に家族旅行を計画していたので、そのスケジュールを立てるために、執刀医に「先生は、何曜日が手術の日ですか?」と聞いたことがありました。大きな病院では、外来や手術の予定は曜日単位で決まっていることが多いからです。
すると執刀医は、「木曜日が外来で、それ以外は手術です」との答え。土日や祝日を除いたとしても、単純計算で週4日、手術をしていることになります。それだけの手術を執刀しているならば経験豊富なはず。「一般的には8~10時間かかる手術ですが、私は手が早いので、6時間で終わらせられると思います」と執刀医。
先生は若く見えるけれどベテランなんだ、この先生が執刀するならきっと大丈夫、と信じることができました。
そうして2009年9月18日、手術当日。
朝8時30分。父の病室に家族全員が集合し、手術室に入る父を見送りました。
父は抗がん剤の影響もあって、かなりやせていました。その姿を見ているだけで、涙が出てしまう私。「あーあ、おねえちゃん、また泣いてるよ。ほんと涙腺が弱いんだから」と、母と妹は実に冷静。
私自身にも手術経験があります。その立場で考えれば、涙で送り出されるはやはり不吉。手術の成功を祈って、涙は見せない方がよいとは分かっていたのですが…。
やみくもに心配しても仕方ない。やるしかない、と本人が度胸を決めている以上、家族にできるのは、それをしっかり応援することなのですから。