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治療の根拠は何ですか? 胃がんの治療を変えた臨床試験

2019/11/01

第2回

SPIRITS試験でS-1+シスプラチン併用療法が進行再発胃がんの第1選択に

 S-1(商品名ティーエスワン:TS-1)は、進行再発胃がん患者を対象とした臨床試験(治験)で高い奏効率(44-54%)と生命延長効果(8カ月)が認められ、1999年に厚生労働省の認可を受け発売されました。S-1はテガフール(Tegafur:初期の5-FU系経口剤で、体内で代謝されて5-FUになる)、ギメラシル(CDHP)、オテラシルカリウム(potassium oxonate)の合剤で、CDHPにより5-FUの効果増強、potassium oxonateにより消化器系の副作用を抑制する画期的な薬剤です。

 S-1以前にもユーエフティー(UFT)というテガフールとウラシルの合剤があり、ウラシルがテガフールの代謝経路に作用して5-FUの効果増強を図る薬剤として汎用されていました。しかしながら、S-1の効果はUFTをはるかに凌ぎ、瞬く間に進行再発胃がんで汎用されるようになっていました。

 前回、JCOG9912試験の項で説明しましたが、JCOGグループでは5-FU単独療法とS-1単独療法の非劣性試験を開始していました。JCOGグループがコントロールと位置付けたのは5-FU単独療法でしたが、実臨床では奏効率に優れた5-FU+シスプラチン(cisplatin)併用療法が汎用されていました。

 そこでS-1単独とS-1+シスプラチン併用療法を比較する臨床試験(SPIRITS試験)が2002年からS-1の販売会社主導で開始されました。2006年11月までに登録されたS-1単独群150例、S-1+シスプラチン併用群148例での比較が行われた結果、S-1単独群の生存期間の中央値は11.0カ月、S-1+シスプラチン併用群の生存期間の中央値は13.0カ月で、有意にS-1+シスプラチン併用群で生存期間の延長が認められました。

     (LANCET Vol.9 March 2008より引用)

 先行して開始されたJCOG9912試験とこのSPIRITS試験は、2007年の米国がん治療学会(ASCO)で同時に報告され、S-1単独の5-FUに対する非劣性ならびにS-1単独に対するS-1+シスプラチン併用療法の優越性が検証された結果、S-1+シスプラチン併用療法が日本の標準化学療法として認知されるようになりました。

 私が特に注目したのは、同時期に別々に行われた無作為比較試験において、S-1単独群の生存期間がJCOG9912試験で11.4カ月、SPIRITS試験で11.0カ月とほぼ同じであり、改めてS-1の進行再発胃がんに対する効果が確認されたことでした。

 その後、S-1+シスプラチン併用療法をコントロールとした他の薬剤の臨床試験が行われましたが、いずれも有意差が得られることはなく、現在でもS-1+シスプラチン併用療法が進行再発胃がんの第1選択の治療法になっています。



藤井 雅志(ふじい まさし)氏
特定非営利活動法人日本がん臨床試験推進機構(JACCRO)臨床試験委員長
前日本大学医学部医学部消化器外科学 教授、1975年日本大学医学部卒

 簡単な自己紹介を致します。消化器外科医ですが、主にがんの化学療法を担当しています。現在「 NPO法人日本がん臨床試験推進機構」(通称JACCRO)に所属して、主に消化器がんの臨床研究を行っています。
 これまで、がんナビでは「がん臨床研究のABC-Z」という連載を行って来ました。臨床研究とはどのようなものか、この連載を通じて臨床研究への参加が増えることを期待して執筆して参りました。続きとなるこの連載では、実際の臨床研究にはどのようなものがあるか、行われた臨床研究はどのように計画され、成果はどのように実際の臨床に役立っているのかを、胃がんの治療についてお話ししたいと思います。

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