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がん臨床研究のABC-Z

2019/4/12

第22回

臨床研究への参加人数はどのようにして決まるのですか?

 臨床研究では新治療が標準的な治療より優れているかを検討します。そのためには以前お話ししたように、統計学的な有意差を持って新治療が標準治療より優れていることを証明しなくてはなりません。参加人数(必要症例数)を正しく決めることが、臨床研究を成功に導くか、失敗するかの分岐点になります。参加人数が少ないために失敗する(仮説が証明できない)場合は研究に参加して頂いた患者さんに対して倫理的な問題があり、参加人数が多すぎる見積もりをした場合は貴重な症例(資源)の無駄遣いになります。

 それでは適正な参加人数はどのようにして決めるのでしょうか。胃がん術後補助化学療法の臨床研究であるACTS-GC試験を例にして解説します。2000年代の初め頃まで、胃がん術後の再発を予防するために、多くの抗がん剤が術後に投与されましたが、科学的な裏付けのある(統計学的な有意差のある)最良の治療法は確立されておらず、そのためリンパ節郭清を伴う胃がん手術単独療法が標準治療とされていました。しかしながら、当時進行して切除できないような胃がんや再発してしまった胃がんに画期的な効果を示すS-1という新薬が登場しました。この新薬S-1を術後に投与すれば、手術単独よりも生命延長効果があるのではないかと考えてACTS-GC試験が企画されました。

 対象となったのはリンパ節郭清を伴う胃がん手術後にステージII、IIIと診断された患者さんで、このステージにおける手術単独の5年生存率は70%でした。新治療であるS-1を術後投与して臨床的に意味のある差を設定(実際にはハザード比0.70と言う生存曲線の傾きの比)すると、統計学的に約1000例の患者さんが必要となりました。これより少ない症例数で比較すると、例えS-1を術後投与したグループの5年生存率が手術単独のグループに優っていたとしても、統計学的には有意の差とは認められません(症例を集める期間、患者さんの追跡期間、検出力など細かな設定については省略し、別の機会に説明します)。

 科学的に、誰もが納得するように証明するためには、このように最初から参加される患者さんの人数(必要症例数)を決めておかなくてはなりません。決めないで研究を始めると、10人対10人で差がついてしまったり、20人対20人で今度は差が無かったりして、いつ研究を終了したら良いかどうか分らなくなります。何度も比較して都合の良い成績の時に発表することも可能になりますので、「多重解析」といって臨床研究では最もやってはいけないことになっています。

 次回は「診療ガイドラインとは何ですか?」です。


藤井 雅志(ふじい まさし)氏
特定非営利活動法人日本がん臨床試験推進機構(JACCRO)臨床試験委員長
前日本大学医学部医学部消化器外科学 教授、1975年日本大学医学部卒

連載で「臨床研究」に関する情報をお届けしたいと思います。
簡単な自己紹介を致します。消化器外科医ですが、主にがんの化学療法を担当しています。現在「NPO法人日本がん臨床試験推進機構:通称JACCRO」に所属して、主に消化器がんの臨床研究を行っています。私が医師になった昭和50年代は外科医が主にがんの化学療法を行っていました。胃がんばかりでなく、乳がん、大腸がんの化学療法も外科医の守備範囲でした。後になって「外科医の片手間の化学療法」と揶揄されるようになったのですが、当時は目の前にいる切除不能胃がん、再発胃がんを診ていただける腫瘍内科がまだ無い時代でしたので、われわれ外科医が化学療法をせざるを得ませんでした。現在でも多くの外科医が癌の化学療法の一端を担っています。

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