肝細胞がんの治療として肝移植は、最も理想的な治療です。なぜなら、肝臓を取り替えることによって肝臓にあるがんを完全に取り除くことができ、肝硬変や慢性肝炎などにより肝機能が低下している肝臓を、正常な肝機能を持った肝臓に取り替えることができるからです。
普通の肝切除では、がんを残さず取るという「根治性」と、がんでない肝臓組織を取り過ぎて肝不全を起こさないための「安全性」の2つのバランスを考えなければなりませんが、肝移植ではこのバランスを考慮する必要がありません。
また、肝硬変や慢性肝炎の状態にある肝臓の場合はがんを取りきっても、新たながんができやすいことが知られています。例えば、肝硬変の発がんリスクは正常の肝臓に比べて1000倍以上であるとも言われています。肝移植では、このがんのできやすい肝臓を取り替えるわけですから、新たな発がんの心配も取り除かれます。
ただし、肝移植はがんが肝臓内にとどまっている場合にのみ行うことができます。肺やリンパ節に転移していたり、目に見える転移巣がなくてもがん細胞が全身に広がっている可能性がある場合には、たとえ肝移植に成功したとしても、すぐにがんを再発します。再発後の治療は有効なものがほとんどありません。
移植ができるかどうかは「ミラノ基準」で判断
そもそも、がんの患者さんに移植医療を行うのは難しいことです。移植の際に使用する免疫抑制剤などの影響でがんが再発したり、全身に広がることが多いからです。
そのため、例えば、進行胃がんを手術した患者さんに肝移植が必要になった場合、胃がんの手術後5年以上再発がなく、完治したとほぼ証明されなければ移植を受けることはできません。移植を受けたいと考える患者さんの肝がんが肝臓内にとどまっていて、肝移植を受けることができるのは非常に幸運なことなのです。
それでは、移植ができるかどうかは、どう判断するのでしょうか。
おおよその目安はがんの個数と大きさです。がんが1個の場合は直径が5cm以下、2~3個の場合はそのうちの最大のものが3cm以下、という条件です。
図1 移植ができるかどうかの目安はがんの個数と大きさ
例えば4.5cmのがんが1個あった場合は基準内です(図1)。一方、3.5cmと2.2cmのがんが2個ある場合は基準外になります。さらに、門脈などの血管内にがんが入り込んでいないことや、肝臓の外に転移がない、という条件も満たす必要があります。
これらの条件を満たす肝細胞がんの患者に肝移植を行うと再発は10%以下に抑えられますが、満たさない場合は40%以上再発します。この基準は、これを最初に報告した移植施設の所在地ミラノ市(イタリア)を記念して「ミラノ基準」と呼ばれています。
移植を受ける前にCTやMRI検査を行い、「ミラノ基準」を満たすかどうかを判定します。現在の規定では「ミラノ基準」を満たさないと公的保険診療とならず、1000万円程度の医療費がすべて自己負担となります。