肝がんの治療法を選択する際、まず用いるのが、日本肝臓学会が作成した「肝細胞癌治療アルゴリズム」です(図1)。このアルゴリズムでは、肝障害度がAまたはBと比較的軽く、腫瘍が3個以下、どの腫瘍の大きさも3cm以内の肝細胞がんの患者さんに勧められる治療法として、「肝切除」と「局所療法」(現在はラジオ波熱凝固療法が大半)が挙げられています。
1段目に「肝切除」、2段目に「局所療法」が書かれているのは、どちらの治療法を選んでもよいが、「肝切除」をより推奨するという意味が込められています。
その根拠は1990年代末に行われた全国調査で、「肝切除」の成績が、当時局所療法で主流であった「エタノール注入療法」よりも優れていることが明らかになったからです(図2)。この調査は、最も精度の高い試験であるランダム化比較試験ではありませんが、日本肝癌研究会が調査した、わが国の約800の肝がん専門病院で治療された1万2000人程度の患者さんのデータに基づいていますので、ある程度信頼に足る科学的証拠と考えられています。
図2 肝切除とエタノール注入療法の比較試験
肝障害度A(良好)、腫瘍1個、大きさが2~5cmの条件に合う患者さんのうち、2722人に肝切除、587人にエタノール注入療法を行った。5年後に生存している割合は、肝切除60%、エタノール注入療法41%だった。(Arii S, et al. Hepatology 2000; 32: 1224-29.)
それでは、「肝切除」と、現在主流になっている局所療法の「ラジオ波熱凝固療法」ではどちらの成績がいいのでしょうか。
これはまだ正確には分かっていないのです。最近の学会では、「肝切除」と「ラジオ波熱凝固療法」の成績に差はないという発表が多いようですが、ランダム化比較試験により正確に調べる必要があります。
そこで、2009年4月から、肝切除とラジオ波熱凝固療法の有効性を比較するランダム化比較試験が始まっています。この試験は、手術の英語であるsurgeryとラジオ波熱凝固療法の英語略称であるRFAから2文字ずつ取ってSURF trial(SURF試験)と名付けられました。現在参加している94施設は肝切除、ラジオ波熱凝固療法ともに毎年一定数以上行っている病院で、いわば肝がんの専門病院です。