近年、肝がんの見落としを防止する検査として、ICGの新しい使い方が注目を集めています。
ICGは緑の色素ですが、ある波長の赤外線を当てると蛍光を発する性質があります。赤外線の波長がコントロールできる特殊な赤外線カメラを使うと、血液や胆汁の中にあるICGを光らせて見ることができます(図1)。
図1 赤外観察カメラシステム(PDE)
中心には820nm以下の波長を遮断するフィルタを内蔵した撮像素子が設置されており、その周囲を取り巻くように36個の発光ダイオード(波長760nm)が装着されている
当院では2007年の春頃から、胆石や肝がんの手術中に胆管を見付けやすくするために、胆管を光らせる手法を取り入れたのですが、あるとき肝細胞がんの患者さんで胆管を光らせようとすると、がんの病巣も蛍光を発して光っていることに気付きました(図2)。胆管の中には非常に薄い濃度のICGを注入していたのですが、ICGが逆流して腫瘍に入ったとは考えにくく、胆管よりも腫瘍の方が強く光っていたのです。
思い返してみると、その患者さんには手術の1週間くらい前に肝機能検査としてICGを注射しています。われわれは、そのとき注射したICGが肝細胞がんの病巣に取り込まれたのではないかと考えました。蛍光顕微鏡という特殊な顕微鏡でこのがん病巣を見ると、確かに肝細胞がんの細胞の中にあるICGが蛍光を発していることが確認でました。
さて、ここからは仮説です。人間の細胞の中でICGを取り込むことができるのは肝細胞だけです。肝細胞がんは肝細胞ががん化したものですから、元の肝細胞と同じようにICGを取り込む能力を持っていると考えられます。
図2 ICG蛍光法で見付かった肝細胞がん (Ishizawa T, Fukushima N, Shibahara J, et al: Cancer 2009; 115: 2491-504.)
摘出した肝臓を赤外線カメラで観察した様子(左)。肉眼では分からない肝表面のがんもICG蛍光法で見付けることができる
正常の肝細胞は取り込んだICGをすぐ胆汁に排泄しますので、ICGを注射してから1週間も経過した時点では肝細胞内にはICGが残っておらず、肝細胞が蛍光で光ることはありません。一方、肝細胞がんで1週間経過してもICGが残っているのは、ICGを胆汁に排泄する機能ががん化によって失われているとすればこの現象が説明できます。
この仮説はまだ完全には証明されておらず現在研究中ですが、ICGを注射しておくと肝細胞がんの病巣が蛍光で光ることは間違いなさそうです。この方法を使うと、手術前の検査で見付けることができなかったがん病巣を手術中に発見して、取り残さないようにすることが期待できます。当院では、石沢武彰助教が中心となって2007年7月からこの臨床研究を開始し、現在までに百数十人の患者さんに同意していただき、この研究を行っています。