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がん診療の現場から

2020/05/29

過去30年で肺がん治療は大きく変わったが‥‥

 現在わが国では年間7万数千人の方が肺がんで亡くなっておられます。人口の高齢化もあって、この死亡数は増加を続けています。例えば20年前には5万人程度でした。一方、肺がんに罹るヒトの数、即ち罹患数の増加はもっと著しく12万人に及ぼうとしています。しかし、罹患に対する死亡の割合、致死率といわれる指標ですが、は減っています。1970年代は罹患者数と死亡者数がほぼ一致しており致死率は100%に近かったのですが、現在は60%を切っており、ここに診断や治療の進歩を見ることができます。

 私どものところで肺がんの手術を受けられる患者さんは症状が病院を受診するきっかけとなって肺がんがみつかったという患者さんより、偶発的にCTで見つかるというケースが増えているように感じます。すなわち無症状で切除可能な早期の段階で見つかる患者さんが増えており、全国的に見ても肺がんの手術件数は増加しています。職場や住民検診でのX線検査で見つけられる患者さんももちろんいますが、現場感覚でみるとそう多いわけではありません。他の疾患があってCTをたまたま撮影した結果肺がんが見つかったというような患者さんもしばしばおられますが、このような肺がんも無症状で切除が可能な事が多いです。日本の人口あたりのCT台数は群を抜いて世界一であり、CT撮影件数が多いことも早期の肺がん発見に寄与しているのかも知れません。

分子標的薬と免疫療法がもたらしたものは?

 遠隔転移のある進行肺がんに対して、1980年ごろにシスプラチンが登場し、20世紀の終わりころまでは、シスプラチン、カルボプラチンの白金系抗がん薬と第3世代抗がん薬の併用療法、維持療法等が開発されてきましたが、生存期間の伸びは著明ではなく、診断後の生存期間の中央値は1年程度で、これが20世紀の到達点ということができます。

 ところが21世紀になって分子標的薬が登場、先駆けとなったのは2002年に発売されたEGFRチロシンキナーゼ阻害薬のゲフィチニブ(商品名イレッサ)でした。2004年にEGFR遺伝子に変異がある肺がんに奏効しやすいことが発見されましたが、それを世界が認めたのは2009年でした。5 年を要しましたが、この患者選択と治療法が確立したことが、今いうところの “プレシジョン・メディシン”の先駆けとなったことは言うまでもありません。そして他の遺伝子変異に対する薬、ALK阻害薬などが次々と登場してきました。

 分子標的薬は、従来治療法の中心だった白金系抗がん薬に比べれば、副作用は一般的に低いですし、効果も目覚ましいものでした。さらに、2015年に免疫チェックポイント阻害薬であるニボルマブが初めて肺がんを対象に承認され、免疫療法も重要な治療選択肢となりました。

 分子標的治療も当初はすごい薬が登場したと思ったものでしたが、得られる結果はたいていの場合は延命にすぎず、治癒を得ることまず不可能であることも分かってきました。とは言え、上述の2000年頃の予後と比べれば、長い人だと4~5年生きられるようになったということは大きな進歩だと思います。

 免疫療法も、長期生存される方は3割ぐらいというのが現状です。しかし、分子標的治療と違って、治療を中止しているのにもかかわらず長期にわたって病状の進行がない方もおられます。臨床試験の生存曲線を見ると、年数が経つと下がらずに横ばいになっており、治癒が得られたことを示唆する患者集団がおられます。これは従来の肺がんの薬物治療ではあまり経験がなかったことです。

 一方で全く効果がない方がおられますが、現時点では治療前に誰に効いて誰に効かないのかを高精度に予測することが出来ないことが問題です。より正確に効果を予測するマーカーを見出すこと、効果が弱いと予測される患者さんには他の治療を併用することで効果を増強する事などが喫緊の課題となっています。

外科治療と新薬のコンビネーションへの期待

 一方、肺がんにおける外科の進歩が一番著しかったのは70-80年代でしょうか? 最近は肺がん外科治療の進歩は胸腔鏡、ロボット手術などひたすら低侵襲化に向かっている気がします。手術は確かに低侵襲となりその結果、在院日数は短縮し、患者さんのQOLはよくなったと思います。しかし、これらの技術で以前治らなかった進行がんが治るようになったかというとそのようなことはなく、そこに外科医としてフラストレーションを感じざるを得ません。

 しかし、分子標的薬や免疫チェックポイント阻害薬といった新しい薬剤がでてきましたので、手術の前に薬剤を投与するネオアジュバント(術前補助療法)、手術後に薬剤を投与するアジュバント(術後補助療法)のように、新薬と手術を組み合わせていくことで、治る肺がん患者が増えていくことを期待しています。現在私たちも多くの臨床治験に参加していますが、少数例の経験ではありますが術前の免疫治療と化学療法の大きな効果に驚くこともしばしばです。また、先日の米国臨床腫瘍学会(ASCO)でのEGFR変異肺がん手術後のオシメルチニブの術後補助療法の著明な効果は驚きでした。


光冨 徹哉(みつどみ てつや)氏
近畿大呼吸器外科主任教授

1980年九州大学医学部卒、米国国立がん研究所(NCI)、九大助教授、愛知県がんセンター中央病院胸部外科部長、同副院長などを経て、2012年より現職。2014-2018年日本肺癌学会理事長、2019年第60回日本肺癌学会学術集会会長。2019年9月から世界肺癌学会理事長。日本学術会議第二部会員。
「ここ20年ほどの間に、手術の対象とならない進行した肺がんにも有効な治療が多くでてきました。例え肺がんになられても希望はあります。最小の負担で最大の治療を得る手段を皆で考えて行きましょう」

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