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がん診療の現場から

2019/11/15

抗がん薬治療を休むことの大切な意味

 大腸がんを治療中の患者さんが私のところを訪ねていらっしゃいました。主治医から今後の治療が難しいことを告げられ、どうしたものかとご相談に来られたのでした。主治医は緩和ケアのみで過ごされることを暗にお話しされたものと推察されました。一方、御家族は他に手立て、つまり別の抗がん薬や抗がん薬の新たな使い方があるのではと期待して来られたことが明らかでした。

 その患者さんは、私のところに来るまでにほぼ3年(36カ月)にわたって切れ目なく化学療法を受けていました。化学療法の間には、感染症を始めとする一歩間違えば死に至るような副作用も経験されており、よくここまで治療をされたものだと感心しました。いらっしゃった時点で、大腸がんの化学療法としてまだ用いていない抗がん薬がいくつか残されていましたが、身体的な状態や検査の数値から、新たに抗がん薬を用いても十分な投与ができるかは疑わしいところでした。そこで、私はどのような治療方針にすべきか考えるためにいくつか質問しました。

「抗がん薬の治療を休んでからどのくらいですか?」
「2カ月になります」
「症状はありますか?」
「今のところありません」
「CT検査などの結果を聞いていらっしゃいますか?」
「はい、少し大きくなったといわれていましたが、このところ検査はありません」
「今の状態で過ごすことに不安がありますか?」
「はい。でもこの3年で今が一番平和な日々を過ごしています。髪も生えましたし、しびれも取れました、手足の皮がむけることも、痛くなることもありません」
「そうですか。ところで食事はとれていますか?」
「実は、今は吐き気も下痢もないので、おいしく何でも食べさせていただいています」

というやり取りがありました。

 抗がん薬治療を切れ目なく行うということは、生存期間を延長させることを目指しているのは言うまでもありません。しかし、実は患者さんにとって、本当に良いことかどうかは分かりません。この患者さんは抗がん薬投与が中断されて、副作用に苦しむこともなく、平穏な日々を過ごしておられました。

 患者さんと相談の結果、しばらくはこのままにし、症状が出るなど病気が進行しそうになったら、新たに抗がん薬を投与することをお勧めしました。

 私は、化学療法中であっても何事もなく平和にすごせる日々を時々設けることが、とても大切なことではないかと思うようになりました。つまり、抗がん薬治療を行ったら、抗がん薬を休む時期(ケモホリディ)を作って、その後にまた抗がん薬投与を行うというものです。

 確かに、できうる限り抗がん薬の治療を継続することは、延命につながるかもしれません。抗がん薬に副作用がなければこういった治療が適切なのかもしれませんが、そうでないことも多くあります。それよりも普通の日々に戻る日を上手に作って、がんが増悪するぎりぎり前まで待って次の治療を開始することも、患者さんにとってはとても価値の高いことではないかと考えています。


坂田 優(さかた ゆう)氏
三沢市立三沢病院事業管理者

1973年弘前大学医学部卒、1992年弘前大学医学部第一内科助教授、1999年三沢市立三沢病院院長、2013年より現職。
効果的だが専門的な知識や技能が必要とされるがんの薬剤が登場し始めた1980年代から、消化器がんを中心に種々の固形がんに対する化学療法の実践、新規抗がん剤の臨床試験を積極的に行い、日本のがん化学療法の進化を支えてきた。
第83回日本胃癌学会会長、日本癌治療学会理事、弘前大学医学部臨床教授なども歴任。
「坂田 優はがん化学療法がまだ一般的でない1970年代からoncologyを志し実践していました。悪魔の手先薬屋の手先と言われていました」

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