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がん診療の現場から

2019/7/26

ゲノム医療への過度な期待は禁物です

 ゲノム医療という言葉が盛んに使われています。多数の遺伝子(全てではありません)を同時に調べるパネル検査という方法で、特定の遺伝子に異常(変異)があった場合に、その異常遺伝子の影響を止めることで治療を行おうというものです。大阪大学病院でも、有効性や安全性の評価を行うための先進医療という制度で行ってきました。そして先日、2つの会社の検査が健康保険で利用できるようになりました。パネル検査を受けたいという患者さんは多いですし、説明を受けて実際に受けた患者さんも増えています。

 しかし私は、この網羅的な遺伝子検査を受けた方が良いのかどうかについては、しっかりと考える必要があると思っています。

 その理由として、まず、検査で何らかの遺伝子の変異が見つかるのは10%程度です。さらに、その遺伝子変異に効き目の期待できる薬剤を提案できる確率は、10分の1や100分の1といったところが現状です。つまり、遺伝子変異を特定できても、その変異に紐づけられる薬が少ないし、薬剤が見つかったとしてもそれを投与するための臨床試験にアクセスするための仕組みもきちんと整備されているとは言えないのです。国立衛生研究所(NIH)が特定の遺伝子変異に対応した臨床試験を多く行っている米国でも、運よくがんが小さくなる割合は限定的です。

 また、パネル検査で遺伝子を網羅的に調べるのは、本当は最初に行うのが理想的です。それをもとに理療戦略を組み立てて行けるからです。しかし現状では、治療の選択肢がなくなった患者さんに保険でパネル検査が行われます。これはやはり、特定の遺伝子変異に効果のある薬が限られているということが大きな理由でしょう。もちろん将来的には、高い効果を持つ薬が数多く見つかり、網羅的に遺伝子を調べることが治療方針の決定に不可欠な時代もくるでしょう。しかし、今はそうではありまません。

 以前、ゲフィチニブが出たとき、そしてニボルマブが出始めたとき、画期的な新薬として“夢の治療”が受けられると期待されました。現在のゲノム医療は、この時と同じような感じがします。オーダーメイド治療がようやく現実のものになるという期待が先行しています。遺伝子という言葉があると、真の意味での個別化医療と思う方も少なくないでしょう。

 ゲノム医療に対しては、過度な期待を持たないことが大切です。現状をきちんと理解し、そして検査を受けるのであれば、利用できるだろう薬剤や臨床試験へのアクセスの情報を集めてからの方が良いのではないかと考えています。


佐藤 太郎(さとう たろう)氏
大阪大学先進癌薬物療法開発学教授

1993年弘前大学医学部卒。弘前大学第一内科で坂田優氏の薫陶を受ける。
Case Western Reserve Univ. School of Medicine、Univ. of Colorado Health science Ctr. School of Medicineを経て、2003年近畿大学腫瘍内科助手、2005年講師。2011年大阪大学先進癌薬物療法開発学准教授、2013年より現職。
「2000年から2010年ころまで、日本における新規抗がん剤の導入は、世界より数年遅れているのが一般的でした。そこには政治的な問題もありますが、新薬を適切に患者に使用し、評価する、薬物療法医が十分いない事も大きな要因となっていました。私たちは、2011年から大阪大学消化器外科教室と共同し、腫瘍内科として、新薬の導入に努めています」

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