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がん診療の現場から

2018/10/4

全身状態や呼吸状態の指標よりも患者の望むことこそ大切

三沢市立三沢病院事業管理者 坂田 優

 日本がんサポーティブケア学会(JASCC)に参加する機会を得て福岡に行きました。田村和夫会長(福岡大学総合医学研究センター教授)の卓越した見識で構成された内容はワクワクするもので、初日の朝から「症状から系統的に学ぶ『呼吸困難』」と題する特別企画を拝聴しました。患者さんたちの希望を多く取り入れたテーマとして注目され、想定患者を紹介し、その患者の状況をどのように判断し、どう対処していくかという内容でした。

 専門医による滞りない話が続いて、想定患者の設問に対する議論もそこそこ行われ、専門家の意見による教科書的な解説も終わりを迎えようという時でした。聴衆の一人の医師が立ち上がり、「在宅緩和ケアをしている」と前置きをしたうえで、「呼吸困難の患者に、PO2を測るだけで入院や治療の判断を行うことでは解決しない」という旨のコメントをしました。自分が診ている患者で、PS 3以下でPO2が70以下、顔は蒼白でも自宅で庭の花の手入れをして楽しそうに元気に話をしている患者がいたというのです。さもありなんと思いました。一般的にこの状態の患者が来院すると、すぐに入院させられることになります。しかし、果たして入院してこの患者の笑顔が得られるのかというと、それは大いに疑問であると思っています。

 前にも説明しましたが、用語について補足しますとPSとは患者の全身状態の指標の1つです。0から4の5段階に分けられます。PS 3が限られた自分の身のまわりのことしかできない、日中の50%以上をベッドか椅子で過ごす、PS 4が、まったく動けない、自分の身のまわりのことはまったくできない、完全にベッドか椅子で過ごす――と定義されています。PO2は、肺における酸素摂取の指標です。成人の普段の数値は80〜100 Torrで、70というのは血液中の酸素濃度がかなり低いことを意味しています。

指標の数字が日常生活の動作の障害とは比例しないこともある

 話を元に戻しますと、学会での発言にもあるように、実際のがん診療の現場では、PSやPO2の数字が実際の日常生活動作(ADL)障害と相関しないことに遭遇することは少なくありません。つまり、PSやPO2の数字だけで対応を全て決めるのではなく、患者さんの望んでいるところがどこにあるのか、それをどれだけ具現化できるかが最も大切であると考えています。生命の長さだけが求められることではありません。周りではなく患者本人がよしとするところがどこにあるかということを見極めることこそが、大切なQOL(日本語に訳することに難儀していましたが、この頃は生存の質ということにしています)の実現なのだと思っています。

 街の老舗の店主が肺癌で呼吸がままならず、入院してきたことがありました。またしても桜の木の前の部屋です。起座呼吸で酸素吸入を受けました。緩和治療でやや小康を得たところ、家の桜も観たい、商品の仕上げをみたいと言って外泊することになりました。2日間で帰院して「楽しかった」と言う言葉を残して、彼は間もなく亡くなりました。

 後顧の憂いがあったのではないかと無力さを痛感しましたが、彼の家族からは「勇気のある決断をありがとうございます」と言われました。しかし私は、勇気ある決断は私ではなく、患者自身が行ったものだと思っています。医師にとっては、最後は患者の側に居ることしかできないことがほとんどですが、手当というものは患者に寄り添い触れるところから始まると、この時ほど痛切に思ったことはありません。


坂田 優(さかた ゆう)氏
三沢市立三沢病院事業管理者

1973年弘前大学医学部卒、1992年弘前大学医学部第一内科助教授、1999年三沢市立三沢病院院長、2013年より現職。
効果的だが専門的な知識や技能が必要とされるがんの薬剤が登場し始めた1980年代から、消化器がんを中心に種々の固形がんに対する化学療法の実践、新規抗がん剤の臨床試験を積極的に行い、日本のがん化学療法の進化を支えてきた。
第83回日本胃癌学会会長、日本癌治療学会理事、弘前大学医学部臨床教授なども歴任。

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