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がん診療の現場から

2018/9/20

がん患者の全身状態や化学療法の効果は熱意や意志で変わる

三沢市立三沢病院事業管理者 坂田 優

 かなり前の癌治療学会で、ある病院からの報告がありました。進行がんで緩和ケアを受け入院中の患者さんを一時帰宅させる試みがなされ、入院中と帰宅後再入院の全身状態(PS)を比較したという報告でした。その結果は、一時帰宅するとPSが1段階から2段階改善するというものでした。例えばPS 4だった患者が3へ、あるいはPS 3だった患者が2または1へといった具合でした。

 PSとは患者の全身状態の指標の1つです。0から4の5段階に分けられます。PS 0は、まったく問題なく活動できる、発症前と同じ日常生活が制限なく行える状態。PS 1は、肉体的に激しい活動は制限されるが、歩行可能で、軽作業や座っての作業は行うことができる状態。PS 2は、歩行可能で、自分の身のまわりのことはすべて可能だが作業はできない、日中の50%以上はベッド外で過ごす。PS 3は限られた自分の身のまわりのことしかできない、日中の50%以上をベッドか椅子で過ごす。PS 4は、まったく動けない、自分の身のまわりのことはまったくできない、完全にベッドか椅子で過ごす――と定義されています。

 この一時帰宅でPSが改善するという報告について、様々な憶測や批判がありましたが、私は結果に嘘はないと信じました。それは実際に三沢市立三沢病院でも、どうにかして一時帰宅を敢行すると患者さんの元気が回復するということが、少なからず見られているからです。このような経験は皆さんもあると思います。自宅に戻ることで、気持ちが改善し、体の状態が良くなることは、臨床現場では稀なことではありません。

 一方、日常生活で笑うことや大声で歌うこと、また楽しいことをみんなで行うといったことにより、免疫機能が向上することが考えられています。実際にIL2やNK活性といった免疫機能の指標の変化を調査している研究者もいます。これら気持ちを高める行動が、がん患者の予後を良くするのではないかと考えられているのです。

意欲の強い患者で経験した化学療法の効果

 様々ながんのガイドラインでは、PSが良好で全身機能が正常に近い症例以外は化学療法の適応にならないとされています。つまり端的に表現すると、PSが3や4の患者さんは化学療法が受けられないということです。しかしそうはいっても、患者さんの中には、どうしても生き延びたいという強い意志と願望がある方がいます。ですから、PSが悪いから、ガイドラインで決められているからといって化学療法の対象から除外してしまうことは、いかがなものかと思っています。状態が悪い患者さんでも、強い意欲、気持ちがあると化学療法の効果が良くなるということを経験したことがあります。

 1つ実際の例を挙げます。60代の男性のケースです。食欲不振が出現し、体重減少が起きて近くの医院を受診しました。その病院で上部消化管内視鏡検査を行ったところ腫瘍が認められ、三沢病院に紹介、入院となりました。入院時の血液検査所見で、GOT 72、GPT 52、T-BIL 4.3と肝機能障害が認められました。腫瘍マーカーはCEA 9.5、CA125 278.5と上昇し、上部消化管内視鏡検査では胃噴門~前庭部小弯側を中心に、易出血性の一部潰瘍を伴う隆起性病変がありました。生検結果ではgroup5(tub2~por)でした。十二指腸下行脚で内腔狭小が認められ、CT検査では、胃体部~前庭部小弯側にかけて広範な壁の肥厚がみられ、腹部大動脈リンパ節の著明な腫脹、および多量の腹水を認めました。腹水細胞診はClassV、胃腺癌という診断になりました。入院時には経口摂取が不良で、多量の腹水があり、PS 3という状態でした。

 これらの検査結果から、この患者さんはT4 N3 CY1 M1(リンパ節) stageⅣという分類で、緩和ケアの対象でした。ただし、患者さんの治療を受けたいという強い希望と闘って生き延びるという固い意志表示があったため、危険性や予後、効果予測など十分なインフォームドコンセントを得たうえで、化学療法を施行する方針となりました。

 PS 3でしかも肝障害を認めたため、化学療法は標準治療が選択できず、耐用可能と思われる5-FU持続静脈内投与療法(375mg/m2/24hr、day1-7)を施行しました。その結果、標準療法ではありませんでしたが、化学療法2コース後のCT検査では、著明な腹水の減少とリンパ節転移の縮小が認められました。さらに上部消化管検査では腫瘍通過障害が軽減したことが分かり、経口摂取が可能となりました。そして、退院して通常に近い生活ができるまでになりました。その患者さんは、以前に紹介した旧三沢市立三沢病院の「桜の満開」を見ることができました。

 これらのことはエビデンスがあるわけではありません。客観的な指標もありはしません。しかし、医師と患者の間で信頼があり、熱意と愛情とほんのちょっとの手間があれば、恐らく患者の免疫状態が良くなる、PSも上がる、化学療法も高い効果を示し、生存期間の延長や生活の質の改善といった素晴らしい結果を生む可能性を示唆しているのではないかと考えています。


坂田 優(さかた ゆう)氏
三沢市立三沢病院事業管理者

1973年弘前大学医学部卒、1992年弘前大学医学部第一内科助教授、1999年三沢市立三沢病院院長、2013年より現職。
効果的だが専門的な知識や技能が必要とされるがんの薬剤が登場し始めた1980年代から、消化器がんを中心に種々の固形がんに対する化学療法の実践、新規抗がん剤の臨床試験を積極的に行い、日本のがん化学療法の進化を支えてきた。
第83回日本胃癌学会会長、日本癌治療学会理事、弘前大学医学部臨床教授なども歴任。

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