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がん診療の現場から

2018/4/30

がんの本質について考えてみましょう(その1)

日本医科大学付属病院 教授、がん診療センター長 久保田 馨

 「がん」とは何か?という問いに一言で答えることは難しいと思います。不治の病いと怖れられていた時代は、社会的な文脈でも用いられていました。今回は、これまでのがん診療の歴史を基に「がん」の本質について考えてみたいと思います。

 人間の身体は様々な種類の細胞から成り立っています。ある正常の細胞が変化してがん化したものががん細胞です。がん細胞の特徴は分裂しながら増殖を繰り返すことです。10億個くらいの細胞数になると直径1cm程度になり、いわゆる早期癌として発見される可能性が出てきます。さらに大きくなると腫瘍の周囲に浸潤し、リンパ管や血管をとおして離れたリンパ節や臓器に転移を起こす能力を持つようになってきます。がん細胞は分裂増殖を繰り返すうちに、サイトカインといわれる液性物質を分泌するようになります。終末期と言われる状態では、やせが目立つようになり、体力の低下が著しくなります。

 20世紀までの薬物療法は、細胞障害性抗がん薬が中心でした。いわゆる「抗がん剤」です。抗がん剤の特徴は分裂増殖する細胞に障害を与えることです。正常の細胞に比べて、がん細胞は分裂増殖が盛んですから、抗がん剤の使用は合理的です。実際に様々な進行がんに対して延命効果が示されています。問題点は薬剤への耐性、効果が無かったり途中で無くなること、と副作用です。正常の細胞にも白血球や毛根細胞、粘膜などの分裂増殖が盛んな細胞があり、これらが抗がん剤による障害を受けやすいのです。

 「がん化」の原因は細胞の設計図と言われる遺伝子の異常です。がん細胞を調べると多くの遺伝子異常、変異が見つかります。この中でがん化の原因となる遺伝子変異をドライバー変異といいます。それ以外はパッセンジャー変異とされます。肺腺がんで最も頻度が高いドライバー変異が、上皮成長因子受容体(epidermal growth factor receptor: EGFR)の遺伝子変異です。EGFRは細胞の表面の膜を貫いて存在しています。細胞の外側に受皿の部分があり、ここにリガンドといわれるタンパク質が結合すると、EGFRの細胞内にある部分のチロシンというアミノ酸にリン酸が結合し、エネルギーを持った状態になります。この時にチロシンキナーゼという酵素が働きます。正常の細胞はリガンドが受容体に結合して、EGFRのチロシンがリン酸化され、細胞内をシグナル(信号)が伝わって核に到達し、細胞分裂などを引き起こします。EGFR遺伝子が変異しているがんでは、リガンドが受容体に結合しなくてもチロシンがリン酸化され、シグナルが出続けています。すなわちこの異常ががん化の原因となっているのです。(つづく)


久保田 馨(くぼた かおる)氏
日本医科大学付属病院 教授、がん診療センター長

1983年熊本大学医学部卒。 国立がんセンター東病院病棟医長、Vanderbilt University Medical Center, Division of Medical Oncology, visiting scholar、国立がんセンター中央病院病棟医長などを経て、2011年に日本医科大学付属病院化学療法科部長、2012年より現職。
日本癌医療翻訳アソシエイツの理事長も務める。
専門は臨床腫瘍学、胸部悪性腫瘍の診断と治療、がんの支持療法、コミュニケーション技術、臨床的意思決定。

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