補整下着や重さのあるシリコンパッドは創部の表面的な傷が治る術後1か月くらいから使用可能だ。河野氏は「ブラジャータイプの補整下着は、下のラインや腋の部分の縫製が創部に当たり痛みを感じたり、摩擦により創部のトラブルを起こしたりすることがあるため、手術直後は胸を締め付けない柔らかい素材のものがよいです。患者さんの中にはタンクトップやスポーツ用ブラジャーを代用している人もいます」とアドバイスする。また、パッドも同様にウレタンなどの軽い素材を選びたい。
創部の傷が完治すれば、好みや用途に合わせて自由に補正下着を選ぶことができるが、肩ひもが太めでしっかりしたタイプがお勧めだ。細い肩ひもは圧力が1か所に集中してかかるため、リンパ液の流れを滞らせる原因にもなるからだ。これ以外の制限はなく、補整下着やパッドを装着して自分が快適な状態を優先することが大事だ。「重みがあるシリコンは外出時や洋服をきれいに着こなしたいときに、軽い素材のパッドは自宅でリラックスしたいときにと使い分けている人もいます」(河野氏)。
補整下着の価格は1枚5000円以上、パッドはウレタン素材が2000~3000円、シリコン素材では3万~6万円と高額だ。「経済的に補整下着やパッドを購入できない場合は、自宅にあるもので十分に代用できます」と河野氏。これまで使用していたブラジャーに洋服の肩パッドを縫い付けたり、ブラジャーの内側にポケットを作ってストッキングやガーゼのハンカチを丸めて入れたりするだけでも乳房の補整は可能だ。河野氏は「手術後も状況は変わるので、最初は今まで使っていた下着を代用しながら、必要に応じて乳がん用の補整下着やパッドを購入するのもよいでしょう」と提案する。
リンパ浮腫を起こさないためには日常生活におけるケアが大切
さらに、黒井氏は手術療法に伴うダメージとして「リンパ浮腫」を付け加える。リンパ浮腫とはリンパ節を切除する(リンパ節郭清)ことでリンパ液がたまり、腕が腫れた状態になることだ。重症になると外見の変化も大きく、患者は精神的な苦痛にも苛まれる。
黒井氏は、注意すべきリンパ浮腫として「慢性的に起こるタイプ」を挙げる。「手術直後に症状が出現した場合は複合的理学療法などの治療で徐々に改善されますが、慢性的な場合はいったん起こると改善が難しく厄介です」と説明する。
また、5cm以上の乳がんでは乳房切除後に放射線を照射する治療法が普及してきた。放射線療法も照射部分のリンパ管に障害を来たすため、リンパ浮腫のリスクを高めるといわれている。黒井氏は「リンパ節郭清に加え、放射線照射を行った人は、放射線療法の晩期障害として5年後、10年後先にリンパ浮腫が出現する可能性があります」と注意を促す。