乳がんの手術で乳房を失うと外見的なダメージを受けるだけでなく、女性でなくなるような心の喪失感にも襲われ、抑うつ状態になる人は少なくない。また、リンパ節郭清に伴うリンパ浮腫も心配だ。そこで今回は東京都立駒込病院臨床試験科・外科部長の黒井克昌氏と乳がん看護認定看護師の河野由梨香氏に、手術が身体や心に与える影響を聞くとともに、手術に伴う乳房の変形やリンパ浮腫、ホルモン療法に伴うホットフラッシュなどの対策についてまとめた。
東京都立駒込病院臨床試験科・外科部長の黒井克昌氏
腫瘤とともに乳房を切除することが一般的だった乳がんの手術療法は近年、縮小手術の方向に向かっている。術前化学療法や放射線療法を組み合わせて乳房をできるだけ温存し、腋の下のリンパ節にがんが転移していなければリンパ節を切除しないセンチネルリンパ節生検も積極的に行われている。また、がんの切除と同時に乳房を再建する同時再建術も普及してきた。そのため、現在では全体の6割の患者が乳房の形を維持できている。
一方、4割の患者は乳がんの手術で乳房を失っている。その理由はさまざまで、術前化学療法の効果が見られず乳房温存療法の適応にならないこともあれば、適応になってもがんへの恐怖から乳房切除術を選択する場合もある。さらに、乳房再建手術を望まないこともある。
東京都立駒込病院臨床試験科・外科部長の黒井克昌氏は「乳がんの手術療法が患者さんに与える最も大きなダメージは外見(ボディ・イメージ)を損なうことでしょう」と話す。乳房温存療法を受けた人と乳房切除術を受けた人との意識を比較した過去の調査では、自分が希望した治療法を受けられたという満足度では両者に大差はなかったが、ボディ・イメージに関しては乳房切除術を受けた人のほうが著しく劣ることが分かっている。
東京都立駒込病院の乳がん看護認定看護師の河野由梨香氏
術前に外見の変化をイメージすることが術後の喪失体験を和らげる
「乳房を失う」ことによって女性でなくなるような心の喪失感にも襲われ、抑うつ状態になる人も少なくない。同病院の看護外来で乳がん患者のサポートをする乳がん看護認定看護師の河野由梨香氏は「手術前に外見の変化を具体的にイメージすることが手術後の喪失体験を和らげることにつながります」と言う。
乳房の変形は、乳がんが発生した場所や患者の体型、乳房の大きさにも影響されるため、実際に手術を受けてみないと変形の程度はわからない。しかし、「心の準備をする」という点では手術後の医学写真などを見て、外見がどのように変化するのかを確認しておくことが重要だ。