千葉県がんセンター放射線治療部長の幡野和男氏
骨転移の痛みには放射線治療の検討も
一方、痛みを軽減する方法には放射線治療もある。「特に、骨転移による痛みには放射線の外部照射で約9割の人の痛みが軽減しています。全身状態がよくて骨転移による痛みがある場合には、放射線治療を検討してみるとよいのではないでしょうか」。そう話すのは、千葉県がんセンター放射線治療部長の幡野和男氏だ。
骨転移の放射線治療では、3Gy(グレイ)を10回合計30Gy照射するのが標準的な治療。骨転移が1か所しかないような場合には、根治線量(合計60Gy程度)を照射して完治を目指す場合もある。痛みが強くて歩けないような人は入院治療になるが、歩ける人や車椅子で通える人は通院治療だ。
「標準的な10回放射線治療を受けるには2週間かかるため、患者さんの状態や痛みのある場所によっては、4Gyを5回、5Gyを4回といった形で短縮化する場合もあります。また、臨床試験で検討する必要があるような段階ですが、2010年に出されたアメリカの骨転移のガイドラインでは、腕や足の長管骨の転移による痛みには、8Gyという比較的高い放射線を1回照射するだけで3Gy10回と同じ効果が得られるとの報告もなされています」と幡野氏。
ただ、3Gy10回照射の痛み再発率が8%程度であるのに対し、8Gy1回照射では再発率は20%なので、本人の希望と状態によって、どちらがよいのか検討する必要がある。痛みの軽減の仕方には個人差があるが、照射開始から2週間後くらいで痛みが楽になる人が多いという。中には、1回目の照射で痛みが和らぐ人もいる。
放射線治療が痛みを軽減するのは骨転移だけではない。例えば、肺がんの副腎転移、肺転移で胸膜に痛みが出ているときにも放射線治療で痛みが和らぐケースがあるという。
「軟部組織や筋肉でも局所的な痛みであれば、放射線治療が有効なケースが少なくありません。全身状態が比較的良いのに局所的な痛みが強く、薬物治療で痛みが取れにくい人は、放射線治療で痛みが軽減できないか、担当医や放射線治療医のいる病院で相談してみるとよいのではないでしょうか」と幡野氏はアドバイスする。
放射線治療は麻痺の改善にも有効
転移病巣が神経を圧迫し、麻痺が出たときにも放射線治療が有効なケースがある。病巣が脳神経を圧迫して目が見えにくい、声がかすれるなどといったときには、そこに放射線照射することで神経の麻痺が緩和できる。背骨の頸椎から腰椎までの間に転移があって、麻痺が出たときにも24時間以内に放射線治療を始めれば、慢性的な麻痺を回避、改善することが可能だ。
「麻痺が出て歩けなくなりストレッチャーで運ばれて来た患者さんでも、3Gy10回放射線照射後リハビリを行えば、歩いて帰れるようになります。放射線治療施設がない病院では、麻痺が出てきても1週間ぐらい様子をみてしまうなど、麻痺が治らなくなる場合があるので要注意です。24時間以内に対処するかどうかで患者さんのQOL(生活の質)が大きく変わりますので、麻痺にも放射線治療が有効であることを知っておいていただければと思います」と幡野氏は強調する。
ほかにも、脳転移治療、大腿骨転移で骨折し手術を受けた後に再骨折のリスクを軽減するために放射線を照射するなど、放射線治療は、転移病巣の治療に多用されている。
神経ブロックと同じように、問題は、放射線治療医が全国的に不足していることだ。「がん治療を受けている病院に放射線治療医がいない場合には、放射線治療医のいる病院でセカンドオピニオンを受けてみるとよいでしょう。全身状態が悪くなってからでは放射線治療が適応にならない場合もあるので、早めに相談してください」と幡野氏は言う。
放射線治療医のいる病院が分からない場合には、日本放射線腫瘍学会のホームページ(http://www.jastro.or.jp/)の認定放射線治療施設を地域別に検索し、行きやすい病院に問い合わせてみるとよいだろう。
次回は精神的な痛みの治療法について取り上げる。