山本さんとAさん
山本さんプロフィール
1983年生まれ。名城大学薬学部卒。長良医療センター、三重中央医療センター勤務を経て、08年から現職。2011年緩和薬物療法認定薬剤師認定取得。
抗がん剤の副作用が出たら、どんなことでも相談してほしい
愛知県在住の40代女性Aさんは、12年前に子宮体がん、5年前には卵巣がんと診断された。子宮体がんはIb期だったので、ホルモン療法を行った。卵巣がんはIc期に進行しており、手術でがんを摘出後、4種類の抗がん剤を組み合わせた治療を20カ月間受けた。最初はピラルビシンとシスプラチン、2回目はドキソルビシンとシスプラチン、3回目はイリノテカンとシスプラチン、4回目はゲムシタビンとカルボプラチンだった。
Aさんはイリノテカンの投与時、副作用の下痢に悩まされた。お腹の痛みが強く、水溶性の下痢が、多いときには1日8回見られた。下痢の時には便が常に出そうになったり、お尻が痛くなったりすることもあったという。
山本さんはベッドサイドでAさんの話をよく聞き、論文を調べた結果、漢方薬の「半夏瀉心湯」が症状の軽減、および、下痢の予防に効果があることを見つけた。そこで、医師に処方提案し、承認を得た後、Aさんにも提案した。
「漢方薬で少し下痢が軽くなる薬があるのですが、いかがでしょうか?」
Aさんの承諾を得られたので試したところ、下痢は改善し、気分が悪くなる症状も改善されたという。
ゲムシタビンの点滴を受けている時は、血管の痛みに悩まされた。投与中、血管に炎症が起こるからだ。針を刺した後に、ググッと刺し込まれる痛さがずっと続くと表現する人もいる。Aさんも不快な苦痛を感じたので、様子を見に来た山本さんに訴えたところ、温めたタオルを持ってきて腕に巻いてくれた。Aさんは不快な痛みが軽減でき、最後まで治療を受けることができた。
さらに、山本さんは論文に「抗がん剤を溶かす薬を生理食塩水ではなく、ブドウ糖に変更すると痛みが軽減できる」と報告されていたことを読んだ。そこで、医師にその方法を提案したところ、血管痛が起こらなくなったという。
あるいは、医師や看護師が点滴の針を刺す時に、「この方は前回、痛みが出たので、太めの血管を選んで点滴するようお願いできますか」と山本さんが気遣って依頼したこともあった。
このほか、Aさんはシスプラチンの処方が多く、毎回、吐き気と嘔吐に悩まされた。抗がん剤には吐き気や嘔吐をもたらす薬剤が多いが、シスプラチンによる吐き気や嘔吐は発生頻度が高い。
山本さんは助言する。「吐き気や嘔吐、痛みなどで薬が出ていても、症状が改善されない時は我慢せず、薬剤師に何でも話してください。少しでも軽減できる方法を考えます」──。症状が小さいうちに対処することで、大事に至らずに済むため、できるだけ症状を感じたときに訴えて欲しいという。
薬で対応できないことは、速やかに看護師につなぐ。病棟内のメディカルスタッフの連携はとてもよく、薬以外で対処する副作用についてもぬかりない。
Aさんはこう言う。「以前、入院していた病院には、病棟に薬剤師さんがいなかった。山本さんは病棟担当で、病室によく顔を出してくださるので、ちょこちょこ、薬のことをお聞きします。医師と薬剤師という立場の異なる視点で話を聞くことができるので、心配なく治療を受けられ心強いです」
山本さんは抗がん剤治療を受けている場合は副作用が出やすいので、必ずベッドサイドに様子を見に行くという。特に入院中は副作用が出ないように予防対策を取るが、それでも症状が出現してしまうことは多い。ベッドサイドにいる時間は5分のこともあれば、30分話を聞くこともある。心配なときは、1日3回、見に行くこともある。
ベッドサイドに行くと、症状の訴えや治療の話でなく、ちょっとした雑談だけやりとりして戻ることもある。病院にいる患者が息抜きできるように配慮する。ベッドサイドのDVDや本に関すること、山本さんのお子さんの話をすることも。「ワンピースという漫画のDVDの話で盛り上がったりします。病気の時は、患者さんからお声掛けされることは多くないのですが、体や心のつらさは話してもらうことで対処できます。このため、どんなふうにしたら、心を開いてもらえそうかは留意しています」と山本さんは話している。