がん闘病中、患者や家族の様々な相談に乗ってくれるエキスパートたち。第8回は「作業療法士」を取り上げる。入院中や退院後に食事、着替え、洗面、歯磨き、排泄、入浴などの動作が思うようにできなくなることがある。そんなときは、決してあきらめずに作業療法士に相談してほしい。作業療法士には、いつ、どんなことが相談できるのか。そんな疑問にお答えする。
作業療法士Profile
●作業療法士とは? |
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日常生活における動作がうまくできなくなったとき、その能力を回復させたり、動きやすくさせたりするための助言や指導をする専門職(国家資格)。Occupational Therapist(OT)とも呼ばれる。理学療法士が主に人間の体の動き(寝返り、起き上がり、座る、立つ、歩く)を回復させることをサポートするのに対し、作業療法士は、着替え、歯磨き、洗顔、食事、排泄、入浴、家事、外出など、日常生活上の動作をこなせるようサポートする。 |
●作業療法の対象 |
主に、(1)病気のため身体や心に障害のある人(がん、パーキンソン病、関節リウマチ、統合失調症、躁うつ病など)、(2)発達期に身体や心に障害が見られる子供(脳性麻痺、精神発達遅滞、自閉症、学習障害など)、(3)老年期に身体や心に障害が見られる人(認知症、脳卒中、骨折など)。 |
●どこにいるの? 何人いるの? |
医療機関(急性期・回復期病院のリハビリテーション科、精神病院、小児病院)、介護・福祉施設(通所リハビリ施設など)、教育施設(養護学校、精神障害者社会復帰施設、精神障害者小規模作業所、児童福祉施設)、行政施設(精神保健福祉センター)など。 |
作業療法士の国家資格保有者は約5万7200人(2011年厚労省調べ) |
●職能団体 |
社団法人日本作業療法士協会 |
http://www.jaot.or.jp/ |
●リハビリの費用は? |
有料(公的医療保険、介護保険が適用される)。例えば、医療保険で3割負担の場合、がんにおけるリハビリは20分で600~870円程度、乳がんの術後リハビリは20分で600~660円程度が自己負担額として請求される。さらに、患者ごとに診察料、入院料などが加算される。 |
私たちは普段の生活で、朝起きたら当たり前のように「顔を洗い」、「歯を磨き」、「箸を使って食事をする」。トイレに行ったら「用を足して、お尻を拭く」。着替えをするときは、「シャツを頭からかぶり」、「ボタンを留めて」「スカートやズボンのファスナーを締める」。風呂に入るときは、「浴槽をまたいで風呂の湯につかり」、「体や髪を洗う」。
ところが、病気やけがをすると、こうした「当たり前」の動作が思うようにできなくなることがある。がんの場合も例外ではない。
島﨑寛将(ひろまさ)氏(左)
2002年河﨑医療技術専門学校(現大阪河﨑リハビリテーション大学)作業療法学科卒。オリオノ和泉病院を経て、05年から現職。同法人ベル訪問看護ステーション兼務。厚労省委託事業がんのリハビリテーション研修講師なども務める。
太(ふとり)千尋氏(右)
2007年神戸大学医学部保健学科作業療法学専攻卒業。明石土山病院を経て、08年から現職。
がんは長年、不治の病と考えられていたため、がん患者に対する作業療法は行われてこなかった。だが近年、早期発見が進み、治療成績も向上したことから、がんになっても、適切な治療を受けることによって、病気とうまく付き合っていけるようになった。そうなると、「いかに、自分らしく生きていくか」に重点が置かれるようになる。
生活上の身の回りのことは自分でやりたい。仕事や趣味を続けたい。そんな患者の希望に対して、作業療法士は、身体の動きを一コマずつに分けて訓練を繰り返すことによって、1つ1つの動作を完成させる手助けをしてくれる。
今回は、ベルランド総合病院(大阪府堺市)リハビリテーション科に勤務する作業療法士の島﨑寛将氏、太千尋氏から、がん患者に対する作業療法の実際について詳しく聞くと共に、2例の乳がん患者の術後リハビリテーションの様子を取材させてもらった。