そのほか、コミュニケーション障害でよく見られる症状と対応を表2にまとめた。
症状 | 対処法 |
声が枯れる | いくつかの原因が考えられるが、例えば、声帯の麻痺が原因のときは、「自分の座っている椅子の端を両手で引っ張り上げたり、壁を強く押したりするなどで上半身に力を入れながら発声する」というリハビリ方法がある。 |
ろれつが回りにくい | 発音の練習や、スピードのコントロールをして明瞭に聞き取れるリハビリをする。 歯科に補綴物を作ってもらい装着することで症状が軽減できることがある。 |
小さい声しか出ない | 原因が声帯の麻痺か、呼吸器の病気によるものか、がんの病状が末期で全身の状態が衰弱しているか、などによって対応が異なる。病状にもよるが、いずれも根本的な解決は難しい場合が多いので、無理に声だけで意思疎通を図ろうとせず、筆談など音声以外の代替手段を使っていくとよい。 |
残された能力をリハビリで引き出し、患者に希望を持たせる
言語聴覚士のいる病院は、全国的に、まだまだ少ない。嚥下やコミュニケーションで困ったことが起こり、入院や通院する病院で解決できなかった場合、神田氏は「飲み込みについては嚥下造影検査、失語症については標準失語症検査、発音については構音検査などができる病院で、セカンドオピニオンを取ってみたらどうでしょうか」とアドバイスする。こうした検査は言語聴覚士がいる病院ではほぼ可能だ。施設によっては、歯科医や耳鼻咽喉科医が検査をする場合がある。病院を探す時には、日本言語聴覚士協会ホームページ(http://www.jaslht.or.jp/index.html)で検索し、問い合わせをしてみるといいだろう。
言語聴覚士がいる施設では、一般的には、治療後、患者の摂食・嚥下やコミュニケーションの機能に障害が見られた時点で、主治医からリハビリ科に言語聴覚療法の依頼が入る。一方、静岡がんセンターの場合、舌がん、咽頭がん、喉頭がんなどは、術前にあらかじめ言語聴覚士の面談で説明を受けることになっている。術後、安心してリハビリに取り組めると患者に好評だ。
ただし、リハビリを受けた患者全員の摂食・嚥下機能やコミュニケーションの状態が元通りになるわけではない。リハビリ終了時、「こんな状態では、納得できない」と憤る患者もいるという。それでも、神田氏は、できるだけ希望を持ってもらえるよう、少しでも生活上の悩みや不安が解消するように、他職種にも相談しながら生活の工夫をアドバイスしている。
がんの治療を受けて病状は安定しても、突然、食事や会話で困ることが出てきたら途方に暮れるだろう。そんなとき、「がんになったから仕方ない」と決してあきらめず、ぜひ言語聴覚士のいる病院を探してほしい。