写真2 乳がん患者に照射するときは、乳房が安定するよう、三角形の台を作って上半身を固定する。患者には頭上のバーを握ってもらう。
治療機器の進歩も進んでいる。以前は決まった四角形のような形でしか放射線を出力できなかったため、がんの形に合わせて照射できるよう、照射口に鉛の厚い板を置いて遮蔽していた。現在のリニアックでは、がんの形に合わせて照射できるよう出力機械側で照射野(放射線が当たる場所)を調節できる。
さらに、埼玉県立がんセンターなどでは、乳がん治療で乳房に放射線を当てる場合、腕に放射線が当たらないないように、患者が楽な姿勢を取りながら上半身を固定できるような装置を作って使っている(写真2)。両手を上げることで、乳房が安定するよう工夫されたものだ。このような努力により、がん病巣だけを確実に、いつも同じ部位に照射し、二次がん発生の可能性も低減させている。
検査時の被ばくへの不安にも耳を傾け、アドバイス
放射線治療を受けた患者は、治療終了後も、経過観察のため、3、4カ月に一度、X線やCTなどの検査を受ける。このときも「こんなに頻繁に、検査でX線を浴びて大丈夫か」「胃がんの手術はしたが、今度は胸部X線検査の影響で肺がんになるのでは」と不安を訴える患者は少なくない。
さらに最近、ある雑誌に放射線科医の名前で「CT検査でがんになる」という記事が掲載された。この記事には「低線量の被ばくでも、がんが発生して死亡する」と書かれたため、検査では心配する患者からの質問が多くなっているという。
だが、諸澄氏は「記事の内容はあくまでも仮説に過ぎません」と言う。「通常の検査では胸部CTで10ミリグレイ、腹部CTで15ミリグレイ、骨盤部CTでは20ミリグレイの放射線が当たります。たとえ、1回のCT検査によって100ミリグレイの被ばくを受けても、生涯におけるがんで死亡するリスクが普通の生活と比べて0.5%増加する程度です。この程度のリスクは、がんを防ぐための生活を実践することなどで、ほとんど影響をなくすことができるでしょう」(諸澄氏)。患者自身がどの部位に、どれぐらいの線量を照射されたか知ることができるよう、日本放射線技師会では「レントゲン手帳」を発行しているという。
ただし、「放射線検査の頻度や被ばく線量の調査研究から、X線検査に伴う75歳までの発がん者数を推定したところ、日本人の発がん率は3%以上となり、15カ国中、もっとも高かった」という海外文献もあった。日本人は他国より検査件数が多いので、総被ばく線量が多いからだ。
東京大学医学部附属病院放射線科准教授の中川恵一氏は、医療従事者側の心がけとして、「患者さんが頭痛があるといえば、すぐ『CTを撮りましょう』、歯科を受診したら、『すぐレントゲンを撮りましょう』と言うのではなく、不要な検査を控える努力をすべきでしょう」と話す。
これまで診療放射線技師に、こんなに相談できる内容があるとは思っていなかったかもしれない。放射線に関するスペシャリストの診療放射線技師を、ぜひもっと頼りにしてほしい。