胃がん・大腸がんの患者の術後経過観察を診療所が担当する場合、診療所の医師は具体的にどんな点に注意して診てくれるのだろうか。
抗がん剤を使わない場合、6カ月または1年ごとに病院で超音波、CT、内視鏡検査といった各種検査と診察を受け、普段は診療所で1~3カ月おきに血液検査の結果や体重をチェックし、症状の有無などを確認してもらうのが一般的だ。
福井県済生会病院外科部長の宗本義則氏は、「症状のみから再発を早期発見するのは難しいため、再発確認のための精密検査は専門病院で行う。診療所では腫瘍マーカーの推移を診てもらい、異常があればすぐ送ってもらっている」と話す。「大腸がんの場合、再発時には腫瘍マーカーは7~8割で上昇してくる」(岩手県立中央病院副院長の望月泉氏)という。
また、胃や大腸の切除後には術後障害がしばらく続くため、診療所の医師はそうした障害にも対応する。新潟県立がんセンター新潟病院臨床部長の梨本篤氏は、「患者さんは、術後胃が小さくなった、腸が短くなったといった変化にすぐ対応できないことが多い。術後1年くらいは、こうした訴えを聞いて、食事や生活のアドバイス、指導を行うのが診療所医師の役割」と話す。
表1 胃・大腸がん術後に起こりやすい消化器症状と対処法(梨本氏、望月氏による) 具体的には、胃がんなら主に消化器症状。食事の際につかえ感や逆流症状、ダンピング症候群、小胃症状といった症状が起こりやすいが、多くは時間がたつと解決するという(表1)。
また、胃切除後はカルシウムの吸収が悪くなり骨粗鬆症になりやすい。定期的にカルシウム濃度を測定することが必要で、時にはカルシウムを投与されることもある。胃全摘術を受けた場合、ビタミンB12が吸収できなくなり悪性貧血が起こるため、ビタミンB12の蓄積量がなくなる術後3年目以降には、定期的にビタミンB12の注射を受けることになる。
一方、大腸がん患者では、「排便と排ガスの状況をチェックしてもらうことが大切」と望月氏は話す。大腸の切除後は、水分吸収減少による下痢や蠕動運動障害による便秘などが起こりやすい。腸管の癒着による腹部膨満、直腸がんならば排尿障害といったことも経過観察のポイントになる。
前編で紹介した福岡内科クリニックの福岡氏は、「胃や大腸の術後患者さんは、再発がなかったとしても、食事が以前のように取れない、調子が悪い、便通異常がある、筋力が低下した、といった様々な症状に悩み、気分が落ち込んだり不眠になっていることが多い。こうした患者さんへの対応は、まさにかかりつけ医だからこそ力を発揮できる」と話す。
診療所での抗がん剤投与には課題も
現在、がんの術後経過観察の連携体制は広がりつつあるが、診療所で抗がん剤投与まで担当する連携はまだ始まったばかりだ。特に進行胃がんでは、術後1年間TS-1を服用することにより延命効果が立証されており、今後ますます広く使われることが予想される。診療所医師の協力が欠かせない領域だ。
ただし、「TS-1の治療をすべて終えられる患者さんは約65%。副作用で休薬や減量が必要になるケースもある」と梨本氏。また、1クールごとに採血を行い、薬剤を継続投与するかどうか判断する必要があるため、採血結果が即日得られない施設では難しいという面もある。
先駆的に取り組んでいる済生会横浜市東部病院では、抗がん剤の副作用を確認して投与スケジュールを決定した後、十分に状態が落ち着いている患者だけを選んで連携している。また、2006年からTS-1投与の連携を始めた函館五稜郭病院では、約20の診療所が参加しているが、「詳細な副作用チェック項目と服薬中断の指標があるため、これに基づいて確認していけば十分行える」(北美原クリニック〔北海道函館市〕院長の岡田晋吾氏)という。抗がん剤投与患者では、こうしたより緊密な連携体制が求められている。
※この記事は「日経メディカル」2009年12月号特集「がん患者 引き受けます!」の内容を一部改変したものです。